第4話
第3戦
時は少し遡り、梨花目線。
殺伐とした神社とは違い、ここでは互いに軽くを吐き会いながら梨花と和人が、水鉄砲で遊んでいた。
しかし、本当は2人とも、とても緊迫した状態で相手のいがみ合っている。それもそのはず、気を抜けば互いに負けてしまうような相手と対峙しているのだ。
「ゆるーくいこうや」
梨花はそう言いながらも完璧に、ヒットポイントを狙っている。しかし和人も狙われたヒットポイントを理解しているため、少し腕を前に出すだけで受け止めてくる。お返しとばかりに、水を放っていく。
「ゆるーくとかいってガッツリこっちのヒットポイント狙ってるのはなんなの?」
先程放った水を梨花は銃身で受け止める。互いに相手をどう崩そうか悩み始める。冬夜や巻あたりならば体術で崩してから水を浴びせるのだろうが、この2人は冬夜のように体術を習得していない。ならば体術では来ないだろう。2人が同時にそう確信し、地を蹴り始める。和人が蹴りを放つ。その蹴りを梨花の脚が止めて居た。和人は少し驚く。脚に力を入れ続ける。じわりじわりと押され負けている梨花はそこから後退する。間合いを少しとった梨花は思考する。
(和人との肉弾戦は分が悪すぎる。)
梨花は1度周りを見渡してみる。そこは見渡す限りの田んぼである。二人が立っているのはかろうじて道となっている道路である。少し梨花の方に走れば住宅街に入る。梨花は少し思考し、地を踏みしめながら走り出す。梨花が走るのを和人は追いかけてくる。和人との距離は少しづつ縮まっていく。距離が縮まる事に梨花は焦りをあらわにする。
(やばい、やばい)
一軒家が少しづつ見えてくる。何とか和人につかまらずにたどり着いた十字路で梨花は回転し、その勢いで和人の腹部に蹴りを放つ。意表をつかれた和人はその蹴りを回避や受け止めることが出来ないと梨花は確信していたのだが、そこは和人である。その蹴りを片手で受け止めている。しかし顔には驚きの表情がみてとれた。
「鋭い蹴りだね。」
「いやいや、完全に意表を着いたそれを受け止める君はなんなの?化け物?」
互いに距離をとる。それを好機とばかりに梨花はまた走り出す。十字路を右折して行く。力を抑えた7割程度の力で走る。全速力を出せばある程度和人との差は開くだろうが、この先長期戦となることを梨花は理解していたので、力を抑えている。
(確か和人は長距離走が苦手だったはず)
和人は梨花が長期戦を仕掛けてくることを理解していた。ただしかし和人はその挑発に乗ってしまうほどの単純な男なのである。和人は全速力で梨花を追いかける。距離は一気に近づいていく。それでも梨花はペースを乱していない。もう和人の手が梨花に差しかかるというところで梨花は左折する。和人は全速力を出しているためいきなり方向転換するなんてことは出来ない。和人がそのまま少し進みながらスピードを落としていく。そうして先程梨花が左折したところまで戻り、左折していく。
梨花はスマホを確認し、舌打ちをする。
(こりゃ、冬夜特有のバグだ。あんにゃろまだこんな不完全な仕事してんのかよ。)
先程まではこの近くに数人の反応があったのに全て消えて、自分達以外はほとんど神社に固まっている。スマホを止まりながら確認していたことを思い出し、梨花はまた走り出した。神社はここから北西に進んだところにあるため、北西には進みずらくなったので東に進むことにした。
《おいおいまだ鬼ごっこを続けるのか?》
そんな文面が和人から、送られてきて辺りを見回す。和人がこのような事をする時は必ず近くにいる。そう直感で梨花は感じ取る。
しかし辺りを見回してみても、誰もいない。
《周りにいなくて安心したろ?》
絶対に近くにいる。そう確度が増していく梨花である。
一方、和人はといえば、連絡アプリで梨花のことを弄び遊んでいる。1年程度同じクラス、同じグループでつるんでいれば、相手の行動などある程度読めるようになると以前和人は冬夜に語っていた。
彼にはそれだけの観察力や洞察力と考察力があるのだ。彼は暁斗とは別ベクトルで性格が悪いのかもしれない。
彼は近くにあった自販機で缶コーヒーを買い、開ける。プシュという缶飲料特有の音がなる。そうして口をつけながら少し思考する。
このまま梨花と鬼ごっこをしていてもいいのだが、他の奴らと戦う時に体力が切れるのは少し厄介だな。梨花は誰かと組んでると考えるのが妥当か。
いや違うな、このメンバーの中に体力切れを狙うほどバレバレの策を作る人間はそういないしな。ならば梨花が自分自身で俺を攻略するために立てた策か。しかし、梨花も策を考えるようになった。少し考え深いな。正直俺と梨花は少し浮いた存在であったからな。そんな俺と梨花だからこその真っ向勝負楽しまないとな。
どうやって梨花を攻略していくかな。うーん、そういうのを考えるのは冬夜とかに任せてたからな。梨花の作戦はこちらの体力をつかせるみたいなとこだろうな。もしくはこちらの苦手分野に引きずり込もうとしているか。ならば1度その策に乗ってやるか。
思考のまとまった和人とも地を蹴る。しかし和人には今の梨花の居場所が分からない。それでも和人は走り出す。いつもの全力よりも遅く。力を抑えて走っている。和人が走っているコースは適当であるはずなのに梨花の後を追うような道になっている。それから数分が経つと和人には梨花の背中が見えてくる。
「はぁはぁ」
和人の息が上がっている。入学してから1度も息が上がったところを見ていない。梨花は勝利を確信し、蹴りを放つ。それを真正面から和人はくらう。耐性があるとはいえ和人にも痛覚はある。少々痛む。しかしそんなことはお構い無しに梨花は連撃を放ってくる。その数発も受ける。完璧に梨花は勝ちを確信していた。そこに出る隙を和人は見逃さない。甘い蹴りが飛んでくる。その脚を捕まえ下に叩きつける。ドンという鈍い音が響く。梨花は地面に倒されていた。そこに和人は水風船を投げつける。バンという破裂音とともにヒットポイントが濡れていく。
《ネクロマンスの結果巻が選ばれた。》
という絶望のメッセージがアプリに届いた。和人は攻撃をやめて、スマホを確認する。その際も抵抗されないため梨花の脚の上に乗り、手を押さえつけている。
そうしてメッセージを確認すると和人はめんどくさい事になったなと思いながら、その画面を梨花にも見せてやる。
「梨花これ、」
「わーお。最悪。」
少なくとも梨花プラスアルファになったということはこちらも誰かと組まないと勝てないと判断した和人は梨花に提案する。
「梨花俺と組まないか?」
「1回上から退けてくれる?」
「いや梨花が返事をするまでどけないな。」
梨花の上に乗ったまま和人は発言を続けていく。しっかりと梨花を抑えているため、梨花には何も出来ない。はぁーと1度梨花が溜息をつき、口を開く
「わかったわ。仲間になるから早くどいて。あんた重いのよ。」
承諾した梨花の上から和人はどける。その直ぐに、2人がグループに招待された。そのグループ名は
<巻討伐隊>
であった。
どうやらそのグループには巻と暁斗以外の生者全員が招待されているようだ。
《全員で巻並びに暁斗を討伐する。》
慎也がグループの目的をサラリと説明する。
《神社に駆けつけるには少しかかる。》
《それでもいい。来てくれ。》
梨花は自信がサーチャーであるということを示す発言をするが今はそれどころではないということだろう。
《作戦はどうするの?》
《全員で囲んで叩く。》
《端的だけど好きだよそういうの。》
和人がアプリでそう発言をして、神社に向かう。そうして梨花と共に走り出した。
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