第3話

第2戦

スマホがけたたましい音を鳴らす。戦況を把握できる、高台にいる彼女にとってはとても疎ましいものである。それも彼女がこの戦争が始まって以来、イモリに徹しているからである。彼女の位置がバレるというのは、彼女にとっての死に直結する。そんな彼女はスマホの着信に応答する。スマホから聞こえてきた声は、彼女にとっては意外な人物からの電話であり、なぜ彼が電話をかけてきたのかを訝しんでいる。しかし彼は、そんな彼女に話を進めていく。

そうして彼の話は終わり、電話は自分勝手に切られる。彼の性格上、最初の行動にも、今の行動にも必ず意味があり、それを行うことによって協力者である自分自身も利益を得られるということを彼女は理解している。しかし、彼の行動は基本的に黒、あるいは黒に近しいグレーといった所を攻める行動なのが問題なのだが。彼女はそれも重々承知で彼の依頼を受けることを決心する。

一方その頃慎也目線

慎也は誰かが来るのを、神社のある山で待っている。この山自体がある種の結界で護られていることを慎也は知っている。その結界は普通の人間には効果をなさないのだが、陰陽師あるいは怪異に対して、効力を発揮する。陰陽師と神社というのは怪異を退治するという点では同じであるのだが、陰陽師は神社には嫌われている。それもそのはず、陰陽師は退治する対象である怪異に善意があれば逃がし、時には怪異で怪異を退治するといった神社側から見れば邪道も邪道といった手段で怪異を倒すのである。神社側はといえば、人間自体が持っている呪力を呪法を使うことによって怪異を退治する。また怪異は全て悪いものと決めつけ、全ての怪異を退治することを目標としている。

さて話は戻り、慎也はポケットに入れていた通信用のスマホから声が聞こえていることに気づく。

「来た。先に巻だ。」

互いに内心舌打ちをする。確かに巻との戦闘のためにこの戦場を選んだが、まだ場が整っていない。場が整った上でなお、負け筋の方が多いと来た。それなのに場が整っていない上で迎撃するのは正直馬鹿である。がしかし慎也が下した判断は迎撃である。森の中に隠れた仲間でゲリラ戦を仕掛ける気である。先程取ってきた迷彩柄の服がどれだけ役に立つかを試したいのである。

「まじかよ。俺巻とやり合うのかよ。」

「ごめんね。」

慎也はその一言だけを言い、通話をミュートにする。森の中で彼は息を潜める。

巻視点

巻は今とても戸惑っている。それもそのはず、リタイアしたはずの暁斗が木の上に姿を現しているのだから。しかも、先程までは着ていなかった迷彩服を来ているのである。しかしそこで巻は1つの可能性について理解する。

「死霊ってわけね」

「察しがいいな。」

しかし、巻が思考をめぐらせている間にも、暁斗は周辺の木々に紛れ始めている。スーと風が吹いていく。それはまるで、開戦の合図のようであった。

巻はじっとその場から動かない。これでは狙ってくださいと言ってるようなものだが、暁斗は銃を撃ってこない。この状況から進展があったのは数十秒後である。ギシッという木が軋む音がした。巻は口角を上げながら、走り出す。それはさながら、戦闘を楽しむ狂戦士のようである。音がした木を根元を剣で横なぎに叩く。どうやらそれで木が揺れたようで、暁斗は体勢を崩し、落ちそうになるが何とか体勢を持ちなおす。木の上にいた暁斗が、地上へおりてくる。どうやら暁斗達の準備が整ったようである。

「さて、真っ向勝負と行こうか。」

「真っ向勝負?裏に1人はいるのに?」

そういいがなら巻は暁斗との距離を一気に詰める。自身の剣が当たるところで、上段から中段に振り下ろす。それを暁斗はバックすることによって回避する。巻は後ろに下がった暁斗に対して横なぎに剣を振る。暁斗は剣の先端に当たったようだが、特に何も起こしていない。暁斗は、水を放ってくる。どこまでもデタラメで、どこを狙っているのかも分からない。余裕で巻は回避していく。しかし暁斗のことだからこれにも意味があるのではと勘ぐってしまう。暁斗のことをある程度知っている人間なら確かにそう勘ぐってしまうだろう。それほどまでに暁斗は策士なのである。

また水が飛んでくる。それを巻は剣で受け止める。手の甲に張っていた紙が破けた。確かに巻は、水を剣で受け止めたはずだ。しかし何故か自身の手の甲の紙が破けてしまう。ひゅうと暁斗が口笛を吹き、口を開く。

「ベストタイミング。」

「遅れたと思ってたけど、良い時間ぽいね。」

真実の声がするが、どこにいるのか巻からでは視認できない。通話をしていて真実ははったりという線もあるのだが、先程自身の紙が破れているため、真実ではなくとも誰かもう1人がいるということになる。それが暁斗を使役しているネクロマンサーなのかそれとも別の誰かなのか巻にそれを判断することは今はまだ不可能である。

巻のヒットポイントは残り2枚である。

巻は自身の身体能力が低下していることに気づく。それでもなお、成人男性以上の筋力と持久力はあるのだが。これは巻が素で持っている身体能力であり、怪異によって上乗せされていた身体能力が消失したのである。言ってしまえば、今の巻は人間だった時の巻そのものである。

「ネクロマンサーは慎也辺りかな?」

暁斗はなぜその思考に至ったのかを理解出来ないでいるが、図星をつかれ、警戒の色を露わにする。それを感じとった巻はビンゴと内心でつぶやく。

なぜ巻がその思考に至ったかといえば、巻が怪異と融合していることを知っているのは少なく、このメンバーの中では巻に怪異を閉じ込めた冬夜、怪異を退治しようとしていた慎也、出生は一般人であったが、巻を助けるために陰陽師へとなった梨花の3人である。そのため暁斗が巻のことを怪異と融合した半怪異であることを知らないのである。

巻と暁斗は未だにいがみ合っていた。どうやら真実は暁斗が動かなければ動かないというスタンスのようである。

「暁斗。動いて。そうしないと破棄するよ。」

暁斗は、内心で暴言を吐き出す。自分以上にめんどくさい人間に自分は使役されているのかもしれないと暁斗は思う。それでも暁斗は自身の主に従うことにする。また暁斗はやる気のない射線で水を放っていく。それを巻は刀身で弾き返す。暁斗にとっては回避する必要のない水しぶきのようにも思えるが、暁斗は華麗に回避をする。そうして通った射線に水が放たれていく。巻は、ヒットポイントがないところで受け止めているようで、巻にダメージはない。

巻は仕返しと言わんばかりに踏み込んで、剣を振りおろす。それを暁斗は素手で受け止めるのだが、空いた脇腹に蹴りを放たれる。それを暁斗は防ぐことが出来ずに、体で受け止め転んでしまう。それでも暁斗は立ち上がり、やる気のない射線で巻のことを狙い続ける。

巻は少し思考にリソースをさく。

(こりゃ意味があるな。)

そんなことを考えているうちに、暁斗を見失ってしまう。暁斗はゲリラ戦を得意としているようである。木の上から水が巻に向かって飛んでくる。巻は相手は暁斗ではと勘ぐるが、水を放ってきた者がいる気の根元を叩いてみる。そうすると上から一人の少女が落ちてくる。

「まーみんかよー。さっきのはったりだと思ってたのに。」

「お生憎様はったりをかませるほどの脳もないのでね。」

そう言いながら真実はポケットに忍ばせていたスマホをいじり出す。自分自身のスマホだ。画面を見ずにやりたい操作をするなど、スマホ依存症になりかけている真実からすれば容易いことだろう。

巻がそれを許してくれる時間をくれるはずがないのだが、巻は傍観している。

「影に紛れさせてもらおうかね。」

真実がどのような操作をしたのかを確認できるのは、サーチャーである梨花だけである。

「逃がさないよ。」

そう言って巻は大地を蹴る。その脚には、普通の女子高生とは思えないほどに殺意が含まれている。その殺意は復讐の殺意のように思えて、真実に悪寒が走る。生物的な本能から真実はこの場から逃げ出したいと思う。この相手には自分では対抗できない。その蹴り出した脚に対して真実はなんのアクションをすることも無く、ただ当たるのを待っていたのだが、その脚は真実には当たらなかった。自分が目を閉じていた事を真実は初めて認識し、目を開く。

そこには真実の代わりに暁斗が攻撃を受け止めている。彼は攻撃を受けてたが、不敵な笑みを浮かべ、2枚のヒットポイントカードを手に持っている。

「甘いね。巻。」

そこで彼は2枚のカードをジリジリとゆっくり、破いていく。そこに彼の性格の悪さが出ている。巻は一思いにやってくれとそう思っているはずだ。そんなことは暁斗もしっかりと理解している。だからこそ、ゆっくりとジリジリと巻に苦しみを与えているのである。巻はこの隙に攻撃を与えているであろう。暁斗がネクロマンサーによって蘇った死体でなければ。この嫌がらせと言ってもいい仕打ちは死体である暁斗にしかできない作戦である。

「終わりだよ巻。」

暁斗は手をはらいながら、先程までヒットポイントであった紙くずを地面に落としていく。そして全ての紙が地面に落ちた時、彼はスマホを取り出して、語るようにこの場にいる全員に話しかけてくる。

「最強の巻は打たれた。そうしてお前らももう気づいているんだろ?冬夜は1人に1つづつ役職を与えたと言っていた。けれど、自身のところに入っていた紙は2枚。隠し役職の能力詳細と役職名それが書かれた紙が全員のところに入っていただろ?その役職名と能力詳細全てを知っている。戦争において情報というの大きなアドバンテージだろ?」

1度そうやってここにいる全員に問いをなげかけ、暁斗は深呼吸をする。スーハーと緊迫した状況で暁斗だけが落ち着いている。そして深呼吸が終わったかと思えば、すぐさま口を開く。

「仮死状態の解除。続けて、ネクロマンス。」

そういいながら暁斗はポケットに閉まっていたヒットポイントを取り出し、自身の体に貼り付けていく。

《ネクロマンスの結果巻が選ばれた。》

端的に全員の入っているグループで、冬夜が告げる。それは暁斗にとっては勝利を伝えるような文面である。しかし暁斗以外の人間にとっては絶望のどん底に叩き落とされるような文面である。

「さぁ始めようか。本当の戦争を!」

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