W-3 11.8 予告と理解の感情
「あっーーー!!」
「ユキ選手の氷弾アル。綺麗にアキアカネ選手にヒットしたアルね…」
「さすがにニワタリも動揺ー!アキアカネ選手には凍傷…じゃなくて凍結のデバフがついた!」
「アキアカネ選手のHPはもう余裕は無いアル。火を出してはいるアルが…」
ニワタリの背でポリゴンになるアキアカネ。次いでニワタリの体にもポリゴンが漏れ出るようなエフェクトがつく。
「アキアカネ選手ここで脱落!!でもニワタリの方は生存になるのかな?」
「いや、この場合主人が死んでから1分後に後追いするみたいアル」
「あらら…」
ニワタリはそれでも一応攻撃を続ける。主人の仇は別だが、ひとまずこの黒龍は道ずれにしたい。そういう魂胆か…がここでギルバートにもポリゴンが走った。
「あれ?ギルバートにもポリゴンが!」
「上の二人が共倒れしたアル!!」
「ということはここでギルバートも脱落だぁ!!」
残すところ、ヒカリ、ナユカ、ユキ、軍曹の4人。戦場も闘技場からほど近いほぼ真上。肉眼で弾幕が揺れ動くさまを眺めれば、観客席に降り注ぐ流れ星。
「こうなるとナユカ選手がかなりの有利!ただし、そんな状態を3人共許さない!」
「シェナ。違うアル。今この盤面で有利なのはユキ選手アル。長引くと〔魅力〕により回復するナユカ選手…でも選手が減るとナユカ選手を倒しやすくなるユキ選手アル」
「でもユキ選手もかなり消耗してるよね?」
「消耗してるように見えてる時点で罠アル。そもそもユキは始まってから終始一貫してまともに相手を攻撃してないアル」
「そんなバカな。よく氷弾を撃ってますよ?」
「しっかり見るアル。ユキ選手は氷弾を飛ばす時必ず他の選手の弾幕と同時ある。その際他者の弾幕に紛れ込ませて氷弾を飛ばしているだけでユキは弾幕を展開してないアル!」
「た、確かに、そういえばいつも見るユキ選手の氷弾はある程度大量に、一度に飛ばしてる…。でも今回は」
「ほぼ単発で氷弾を飛ばすか、雪だるまが飛んでいく程度アル。つまり全然消耗してないアル…或いは…」
「或いは?」
『2人とも!頑張ってー!【えいっ!】』
『これは…』
『おおぉ!回復してくであります!!』
『あ、ずるい〜』
『ユキに言われたくない!』
『ん。ひとまず』
『休戦共闘宣戦でありま〜す!!』
ナユカたちが対ユキ戦線を張ったその時。それとは別で聞こえてきたユキの言葉が…
「言ったアル。ユキは〔氷〕によるデバフを生かした搦手を好む傾向アル。こういう戦闘だと放置したくない相手…と」
『フフフ。そろそろかな?』
観客席にはしっかりと聞こえたその声がアルの予想が正解だったと示す。
ユキをクローズアップした画面がその静かな笑みを捉え、そして次の瞬間。白雪姫が雪女へと変貌する。
『じゃ、始めよう』
ユキがさらに呟いた瞬間闘技場は激しい揺れに見舞われる。
「な、なにごと!?」
「ほんとにこのバリア大丈夫アルか!?」
ほとばしる〔妖力〕が溢れ出しフィールドを満たす。
『【
そしてそんな〔妖力〕は下へ…
「妖力が下に流れて!!」
「下…伏線か!」
「フフフ」
アルの声に正解とでも返すタイミングでユキが怪しく笑う。事実。観客席に聞こえるように「伏線」だよ?と宣言までしてのけたユキ。これにアルのような実況解説が反応しないわけが無い。
アルが意図せずユキの狙い通り「伏線」を観客に周知させる。
跳ね上がるユキの妖力値と魅力値が技をさらに高威力へと昇華させる。
バキバキと妙に近くで鳴り響く異音に観客ですら恐怖、不安を感じ、その全てが糧になる。
氷がまるで闘技場を鳥籠のように、逃げ場などとうにない。
『フフ。別に温存してたわけじゃない。既に大半を使ってただけ』
「ユキは…この戦場が中心に狭まるこの時まで、ずっと…」
「ひとりで、他の選手を中央に誘導してたアル…」
強者とは、ただ実力があるだけ、戦闘が強いだけだとそれは在り来りな強者だ。
本当の強者はそれが前提。そもそも最適解を判断し実行にまで持って行ける頭脳の持ち主であることで初めて最強を名乗れるのである。
この「バトルロイヤル」という最後まで残った者のみが勝ちというルールにおいて。序盤は大規模な戦闘は避け、最終局面に残った者を狩るというのが1番楽で確実なのだから。それを実行して見せたユキ。
『どう?ナユカ。結構頑張ったのだけど』
『うん!綺麗!!』
『フフフ』
そしてこれは…ナユカに最後に勝つために。ユキが作り上げたものなのだから。
「化け物アル」
「綺麗の前に絶望じゃない?」
『さて…。まずは周りを片付けないと』
『っ!?』
『ヒカリさんっ!』
そしてあっけなく。ヒカリが砕け散る。圧倒的実力差で何も出来ずに…
観客はただただユキの勝利を確信し、それでもナユカは諦めていなかった。
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