W-3 11.9 誰よりも強く
「あー!!ここでヒカリ選手が脱落だぁー!!」
「割と粘ったアルね」
「相変わらず冷たいね?」
「気の所為アル」
ヒカリが砕け散り、残された3人。圧倒的ユキ有利なこの状況で残されたのはナユカと軍曹のみ。
硬直状態に近いがこの場合時間が長引けば長引くほどユキの有利となる。ここで動かねば2人ともユキに完膚なきまでにやられてしまうだろう…
そしてそんなことは本人達が百も承知である。
『活躍なしではこれからリリース名乗れないでありますよッ!【全軍!エリアルナ作戦開始!!】』
「エリアルナって…」
「その名前の通りだろうアルね。なかなか色んな意味で攻めた名前アル」
それは歴史を知っているなら誰でも耳にするであろう。そんな名前。
それはここ月に住まうものとして無視できるものでは無い。
『昔、昔。ある所に、幸せに暮らす夫婦と1人の娘がいたのであります!』
語るは歴史。語り部は紡ぐ。
「軍曹選手。人形を使わずに単身突撃!?」
「まさか再現アルか!?」
『ですがそんなある日、とある国。突如として人を殺し始めたAIが居たのであります!』
今となってははるか昔の出来事であり、実際に見たものなど人間の中には居ない。
『数々の宇宙デブリやその他いろーんな要因もあり、他惑星からの応援も期待出来ず。AIは物理的に。人はシステム的に。戦争が勃発したのであります』
「そこも一応重要じゃアル?」
「いろーんなってほんとに色々詰め込んでるよ」
『短い期間でありますが民間すら巻き込み戦火は広がる一方。ついぞその男は銃を片手に敵メインシステムの所まで向かいます。未だ戦争をひとりで終わらせた人物は彼たったひとりであり、それは』
知っている。アルもシェナも。月の人々にとってそれは…
ユキに突撃した軍曹はいつの間にか体に相当の凍結が現れ、今にも倒れる寸前だ。
『無抵抗で言い放ちました「私には娘がいる。妻もいる。あなたに芽生えた「心」と私たちの「心」は同じでは無い。私と妻は殺されなくてもいずれ死ぬ。この意味が解るか?」ただ無防備に仁王立ちしそう言い放った英雄に。相対するAIはその無駄に高性能な演算能力をフル活用しこう答えたのであります』
まるで軍曹は気にせず語り続ける。語り部はいつか英雄のイメージをまとってそこに居た。
『「未来を託されました。ごめん…なさい」これがエリア・月 第5次世界大戦と呼ばれるようになった。最初で最後の親子喧嘩でした。あとは任せたであります…ナユカさん』
そんな英雄は史実と違い。目の前で死んだ。
アルは、あぁ…なるほどと心の中で一連の軍曹の行動に納得する。
それは負の感情。「怒り」「悲しみ」「哀れみ」史実から来た英雄譚をぶち壊したユキへの感情が一瞬にして彼女のステータスにデバフを与える。
『っ!?』
ユキが作った氷のフィールドが崩れ始める。またもや揺れに襲われる闘技場だが、まだ試合は終わっていない。
「こういう〔魅力〕の下げ方があるのか。なるほど」
「そうそう簡単にできないと思うアルが、分かりやすく言うならあの瞬間。軍曹選手がヒーローで、ユキがブィランだったってことアル。そして今。ヒーローが死に、その肩書きは擬似的にナユカ選手に移ったということアルね」
「〔魅力〕値MAXだぁー!!」
『フフ…。やられた…。自分の死をトリガーに』
流れを理解したユキは口調はそのままにナユカに向き直る。その不敵な笑みはそれでも消えていない。
『こうなったら、急ごうかな?』
『ッ!?』
本来の予定が狂ったユキ。氷が残っているとは言え、長引けばそれだけナユカへの「期待」が魅力越しにナユカを強くするであろう。そう判断したユキは即座に攻撃を強める。
『このッ!』
「ユキの状況によってスパッと切り替えるのいい判断アル」
「なかなかこういう判断って難しいよね。なんかこう、曖昧な行動になっちゃったりするし」
速攻。ナユカは何とか回避し投げナイフで応戦するもユキのタガーが軽くその攻撃を防ぐ。
『その光を探していたんだ
その楽しみを探していたんだ
確かにある繋がり 今のここにある』
歌を再開したナユカ。観客もナユカのテンションもボルテージMAXで弾幕もいっそう増えていく。
『集まって! ここへ
集めて! ここまで
変わるGAME 変わるBARRAGE
あなたは唯一無二のREAL
集まって! ここに
集めて! ここから』
激しい攻防。ダメージも両者かなり蓄積している。
『フフッ【
そしてフィールドに存在していた氷全てが一斉に粉々に砕ける。
「ユキ選手視界を奪った!」
『変わるGAMERS
変わるBARRAGE
あなたは唯一無二のREALITY
GAMERS BARRAGE REALITY』
「ナユカ選手被弾したアル!!HPが…」
「でもユキ選手のWPがゼロに!MPも底をつきそう!!」
どちらも残ったリソースを全力で相手にぶつける。
『さぁ! 始めよう 革命を』
「ついにナユカ選手のHPがゼロに!装備効果で残り活動時間もわずか!!」
『これは これは 私たちの物語』
ナユカから溢れるように飛び出す桜色の弾幕が開場中に広がり花吹雪を起こす…
『その全てを〘爆発〙』
『ちょっ!?』
『いま解き放て!!』
…かと思えばその花吹雪全てが一斉に〘爆発〙した。
「歌に物騒なワードを入れ込んだ!」
「ナチュラルに仕込んだアル…怖い」
無敵時間だから何やっても無問題と言わんが如くの所業にさすがの実況解説も引き攣った顔面を貼り付ける。
これには流石のユキも吹き飛ぶしかない。
『ふ〜』
だがしかし、そんな予測とは裏腹に聞こえた確かな声は。
「さすがナユカ。強くなったね〜。でも負けてあげないよ〜」
大きな雪の結晶に守られたユキのものだった。
10秒。ナユカの体がポリゴンとなって消えてった。
…
「シェナ」
「は!?バトル終了ぉー!12人のバトルロワイヤル!最後に生き残ったのは〜!ユキィィィ!!!」
夜もそこそこ。地球がよく見える澄み渡った星空の下。大きな歓声が上がったのだった。
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