EC:206  リアルとゲーム



〖全プレイヤーのログアウトを開始致します〗


 時間にしたらほんの数時間。突如として始まったこの戦いは、システムアナウンスにより終わりを告げる。


 …でもそんなほんの少しの時間がとても長く感じた。



「ナユカ」


 ユキは私の隣でこちらを見ずに呼びかけてきた。わかってるよ。


「「それじゃあ、また現実(リアル)で!」」

 たぶん、これで何もかも上手くいった。そう思う。

 なにかに突き動かされるように自らが選んで戦うことを決意した時。私はなんでそうも頑なに「戦う」ことを決めていたのか…。


 約束。「大切な人を守れるようになる。もう二度と離しはしない!」たぶん、無意識のうちに出たこの言葉が全てなんだと思う。


 戦いが終わり。妙に静かなこの空間が私を冷静にしてくれたからこそ考える。


 もう二度と離しはしない!


 誰を?

 

 …

 大切な人


 

 それは誰?


 …

 あー…。


 みんな。ユキやパパ、ママ。リリースのみんな。軍曹やヒヒリーさんやほかのプレイヤー。ナビィにトビィ。


 私の周りの人ほど、いつも私を遠ざけ。守ろうとする。

 パパやママが私を旅につれて行かないのもそう。

 ユキがシールドだけ渡して飛び出した時もそう。

 みんな過保護な気がする。



 なーんだ。簡単だったよ。


 示せたかな?



 みんなに。











「…私はもう大人だよ」


 その言葉は、桜の花弁と一緒に消えさった。








*








 目が覚めると私は自分の部屋のベットの上。現実世界に戻ってきていた。


 横から抱きついてくるゆき。まあ、今日くらいは頑張ったんだしそのままにしておこう。

 

『姫』


「おかえり2人とも」


 私たちを出迎えたのはナビィとパパ。…パパここ私の部屋なんだけど勝手に入ってきちゃダメだよ?



「それにしても、部屋は凄い有様だな」


 掃除が大変そうだね?





 いや、私の部屋が散らかってるってことじゃないんだよ?

 むしろ私も驚いてるんだけどね?


 力の影響かな?

 部屋中、桜…。❨エドヒガン❩の花弁が雪のように積もってるんだよねぇ…?


 これが私が原因なのは間違いないよね?



『髪色も治りませんね』


「髪?」


「綺麗なピンク〜」


クンカクンカ…


 あ、ちょっ!嗅ぐな!



「ほ、ほんとに甘い匂いがするんだけど〜」


「え?まじ?」


クンクン…


「ほんとだ…」


「瞳もピンクになったままだな。力がまだ行使されているのか?」



 ありゃ、瞳も変わってるんだ?赤くないんだね?



「那由花〜。力抜いてみたら〜。さっきからずっと力んでるよ〜?」


「嘘?」


「ほら」


 ゆきの視線を辿るとゆきの手をこれでもかとガッチリ握る私の手。えっ?


「さっきからずっと。力んで震えてるから。もう終わったんだよ〜?」


「すまない那由花。私達の問題を君に任せてしまった…」


「ち、違うよパパ!私は私の意思で戦ったの!それが私の選択だから、パパ達のせいじゃない」


 私はママとパパと一緒に戦うって決めたんだ。そうするべきだと私が思ったから。だから謝るのは違うよ。もう子供じゃないんだから。



「…そうか。…ありがとう那由花」


「うん」




 私は自分の体から緊張が解ける感覚が伝わってくる。そっか、私は怖くないって思ってたけど、自覚持ててなかっただけかな…。

 

 ゆきはだから私に抱きついたのか…。



 ありがとね…。私はどんどん力を抜いていく。






 よく見ると、それと同時に、先程まで散らばっていた花弁がキラキラと空気中に溶けるように消えていく。髪色も茶色に戻り…。



 そのまま目の前も霞んでいく。あれ?そのまま視界はブラックアウト…。




「那由花ッ…那由…

「那由ッ…



 ついには意識も手放した。



*







 私の目の前で寝ている那由花。彼女は今。那由花専用の医療ポッドに入れられていた。


「少し那由花を見ていてくれ。私は花恋を出迎えてくるよ…。不安にさせたくはないしね」


「はい…」



 そう言って勇人さんは、医療室から出ていった。



 私は…。何やってるんだろう…。あれだけ守人だの、守るだの言っておいて結局守れなかった。…那由花の力の代償なんて考えもせずに、勝った気になってた。


 バカだ。もしかしたら!今まででもそんな兆候はあったかもしれないのにッ!そんなことさえ気づけずに…、ただただ那由花と一緒に遊んでいただけだ…。


 なにがッ!あまり外に出れない那由花のためにッ!よ!ただ私が遊びたかっただけじゃないッ!




 上手く…。いってると思ってた。那由花が外に触れて、仲間を作って…。何とかあの子のためになるようにって思って…。自惚れてた…。



「そこまで気にすることじゃないわよー?」


「花恋…さん…」





 そんなことを考えているうちに。後ろから声をかけられた。出迎えに行って帰ってくるまでここはそんなに狭い家じゃない…。つまり結構な時間がすぎたのだろう。


「あなたは自分のせいで倒れたと思ってるみたいだけど。これはどこからどう見ても私たちの責任ね」



「しかし…」



「一、今回のこの戦い発端は私がここにいるから。

 二、そもそも倒れることが過去の継承者の中にいなかったわけじゃなかった。それなのに予測してなかったのは私たち。

 三、そもそも、この子は自分の意思で戦ったわ。覚悟はできていたでしょう。

 四、そもそも攻めてきた敵が悪い。

…、まだあるわよー?」


「いえ、もう結構です」


「あなたがそう自分を責めることは良くないわー。じゃないと頑張って「あなたと仲間と過ごす場所」を守った那由花が悲しむわー」



 …



「あの子は余程嬉しかったみたいよー?」



「そう…ですか…」



「お胸貸そうかー?」


…でか…いえなんでもないです。


「いえ、結構です。…ありがとうございました」


「気にする事はないわー。あなたはよく頑張ってくれているもの」


「そうだな。君のお父さんにもそう言っておこう。そもそも、俺は君のお父さんに那由花の友達として一緒にいさせてくれと頼んだのだがな…。張り切って娘を守人に仕立てた節がある。だからそう気負うな。ある程度もう那由花も大人になりつつある。困ってそうなら今まで通り助けてやって欲しいが、那由花の親友として、これからもそばにいてやってくれ」


「はい」





 那由花。言葉を間違えたよ…。ごめんじゃないね?




 守ってくれてありがとう。またあっち(ゲーム)で。


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