EC:194  せは見せない。くるしみの果て。めつの炎に。とらわれよ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



フェンリル


HP0├───────╂───────┤

1,000,000,000/2,000,000,000



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ガキャンッ!!


「ッ!!」



 できる限り、フェンリルがひっくり返っている間にダメージを与えておきたかった、ヒカリ、軍曹、ヒヒリー。だがしかし、フェンリルはいきなり、攻撃を弾き出すとしっぽをムチのように振り抜いた。


 咄嗟の攻撃に、チャンスとばかりに近づいていたヒカリは吹き飛ばされる。



「ヒカリさんッ!!?」


 ヒヒリーがヒカリを心配して声をあげるが、返事がない。





ワォォォォォン!!!

パパァァァァァンッ!!!



 再び咆哮。フェンリルの咆哮に合わせてヒヒリーが衝撃波ポーションで相殺したが、今回はフェンリルが飛び込んでくるようなことは無い。

 その代わり、その場で動かないまま、銀色のオーラを纏い始めた。



「うへぇー!絶対ヤバいやつじゃーん…」



 ヒヒリーの予想通り。そのヤバそうな見た目になったフェンリルが軍曹の兵隊に攻撃を仕掛ける。



 先程よりもさらに早くなったフェンリルが次々に襲いにかかっていた歩兵を前足や、しっぽで瞬殺。吹き飛ばしていく。


「ぐッ!?【全兵!散開!】」


 これ以上の兵隊の損耗は後々に影響を与えると判断した軍曹。未だ、フェンリルの体力は半分しかないのだ。兵隊にも限りがある。


 しかしそれは悪手であった。



「なッ!!しまったでありますッ!!!フェンリルがナユカさんの方にッ!!」



 先程よりもはるかに速いスピードで動き出したフェンリル。全兵に〔散開〕の〔命令〕を下したがため、包囲網に穴が生まれたのだ。そこをフェンリルは見逃さない。


 優先目標は中央に近づいた者。


 つまり、ヒカリ、軍曹、ヒヒリーではなく。

 ユキ、ナユカがフェンリルの攻撃目標なのだ。



 あっという間に間が開き、フェンリルはナユカ達の方に走っていく。


パリンッ!


「追いかけるよッ!!」


「は、はいでありますッ!!」


 そのまずい状況、飛行速度上昇効果のあるポーションを自身と軍曹に投げたヒヒリーが、すぐさま後を追いかけ始めるが、追いつける気がしない。


 このままナユカ達に追いつかれてしまう。そう悪い予測が軍曹の脳裏に過ぎるがそうは成らなかった。


「【獅子王拳(デストロイ・ライオネス)】」




ドッコーーーン!!



 いきなり横に吹き飛ぶフェンリル。


 フェンリルが吹き飛び、代わりにその場には、フェンリルと同じように、黄色のオーラを纏ったヒカリがいた。



「ヒカリさん!!」


「生きてたー!!」


 運良くヒカリが飛ばされたのがナユカ達の方角だったのと、状態異常:気絶 がいいタイミングで治った他、吹き飛ばされた時、咄嗟に〔受け身〕を発動したことでHPの損耗が八割程度で収まったことが幸いし、何とかフェンリルの進行を止める。




「…ヒヒリー」


「はい!」


「気力回復ポーション。ある?」


「あるー!」


「何個?」


「20」


「20秒間隔で。私に投げ続けて。HPはいらない」


「はい!?いやでもHPももう空っぽだよー!?」


「どうせ。すぐ無くなる」


「じゃあ尚更…ッ!」


「頼んだ」







「わかった」



 そうしてヒカリはフェンリルに向かって行く。


 ヒヒリーと軍曹も後を追って飛んでいくが…。


「いいのでありますか?HPがもう…」


「要らないって言うことは…。きっとそういうスキルがあるんだと思う…。何となくねっ!!」


 真剣な表情な後、またいつもの調子に戻ったヒヒリー。そんなヒヒリーを見た軍曹は何か言うのをやめて、ならいいかと前を見る。



 既に、ヒカリはフェンリルと再度交戦を再開しており、先程とは比べ物にならないほどのスピードで両者近接戦闘をこなしていた。


 そして、軍曹もヒヒリーも驚愕する。


 ヒカリのHPは既に0だ。なのに本人は至って気にする素振りもなく。むしろ攻撃を避けることもせず、腕を盾のようにしながら攻撃を受け、無理やり反撃を繰り返していた。


 20秒。とりあえずカウントしていた指定の間隔になったので気力回復ポーションを投げる。



 〔指定〕によりフェンリルとヒカリがポーション効果範囲に入るが、ヒカリだけに効果が及ぶ、フェンリルにはSP回復は入らない。



「ふんッ!」


 ヒカリはフェンリルにフルスイングで拳を叩き込む。


 そのヒカリの周りにはその拳とともに放たれる弾幕が、まるで火花のように散っていた。




「どういうこと?」


 ヒカリの状態が理解できないヒヒリー。そして、何となく予想できる軍曹が、正解を導き出した。



「〔限界突破〕であります…。少し昔になるでありますが…、スカイスクランブル時代に噂になったスキルで、その効果は、一定時間HP、MPがゼロでも使えるというスキルであります。その他にも攻撃力や移動速度を底上げしてくれるかなり有能スキルでありますが…。デメリットもあるでありますよ…」


「そんなのあったんだ…」


「黒オーブでありますから滅多に持ってる人はいないであります」


「そりゃ持ってる方がすごいや。それで?デメリットはー?」


「デメリットは、HPが0の状態で効果が切れると回復薬を飲んでも死ぬであります」


「はぁー!?」


「途中でHP回復薬を使うことも不可能で、正真正銘限界突破なのでありますよ…」


「ポーションもダメ?」


「たぶん無理でありますね…」


「蘇生薬は?」


「持ってると思うでありますか?あんなレアな物…」


「一定時間ってどれくらい!?」


「確か…。20秒」


「?」


「昔はSPの概念が無かったでありますが…。昔から限界突破はSP消費のスキルだったなら話が通るでありますよ。ヒカリさんが〔気力強化〕を持ってるとしたら、20秒で気力回復ポーションを投げろと言った意味が分かるであります」


「え?じゃあ後19本しかないけど…」


「1本でフル回復でありますか?」


「1本100だったはず」


「気力のデフォルト数値が100であります。ということは一秒5SP消費してるでありますね…」


「燃費悪!?」


「20秒でしっかり当てるでありますよ!」


「ま、任せろー!!」




 作者コメント


 あえて漢字は使わぬ

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