V1.49  この魔法陣危険につき




「ここをこうして…」


「こっちはこれ…。不可能じゃねーか?」


「…。あー。ダメですわ…。また模様が重なる…」


 大きな魔法陣を描きながら。それを消しては描き、消してはやり直しを繰り返し、アリアとミカはあれから数時間そのまま魔法陣作成を進めていた。


 というのも、魔法陣はいくつかのルールが存在する。


 1.魔法陣は魔力によりMPを消費して描かれる。

 2.魔法陣は魔力とは別にアイテムを使用して、紙や床などの場所に描かれる。

 3.使うスキルが多ければ多いほど魔法陣が複雑になる。

 4.使うスキルの威力により魔法陣が大きくなる。

 5.魔法陣が破壊されるとその機能を停止する。

 6.魔法陣は作成時その大きさ内で描ける模様スキルのみ組み込める。

 7.模様は重複できず。重複した箇所は効果を発揮しない


など



 このようにルールが存在し、魔法陣を本格的に使うアリアのようなプレイヤーは日々新しい魔法陣を作成していた。



 そしてアリアが作ろうとしている魔法陣もそのルールに乗っ取り作られようとしていた。


「やっぱり色々詰め込みすぎなんだよなぁ…」


「これでも必要最低限なのですわ。やはりなにか別のスキルが必要ですの?」



「なぁ。この魔法陣って立体的に描くことはできないのか?」



 そのミカの問いかけにアリアはミカの方をむくことも無く首を横に振るだけだ。もう何度も試したあとなのだろう。


「立体的に…。魔法陣を描くことはできない…。しかしなぁ。色々試したがやっぱりこのサイズに描ききることは無理なんじゃねーか?」


「他になにかアイディアありませんの?」


「アイディアっつってもなー。…、魔法陣を立体的に描けないならさ。物理的に立体的になるようにしたらダメなのか?或いは…、外付けの機械を使って役割を魔法陣と分割してみるとか?」



 そんなふうに適当に答えるミカだが、その回答にアリアはガバッとミカの両肩をつかみ取り。


「それですわっ!!!」


「ちょっ!!おまっ!ゆ、揺らすな!!」


「あ、ごめんなさいですわ」


 ミカに言われて自分の状況に気づいたアリアはその後、ミカから手を離すもミカとの距離が未だにものすごく近い。




「それで?試してなかったのかよ?」


「私は〔魔力〕に関しては相当頑張って、それ以外はほとんど初心者のそれですわよ?」


「自慢になんねーからな?」


「ミカちゃん、手伝ってくださいですわ」


「まあいいぜ?こうなりゃとことん付き合ってやるよ。まずは必要な模様をそれぞれ組み直すとこからだな」


「ですわ!!」





*




「よし!本職にゃー負けるがこんなもんだろぉ」


「何時間かかったのですか…?私そろそろ眠たいですわよ…」


 現在、さらにあれから数時間ぶっ通しで作業を続けてきたアリアとミカが、床に倒れ込むような姿勢で出来上がった魔法陣を見ていた。


 否、それは初期の頃の地面に丸い大型。複雑な魔法陣とは違い。真ん中には台座を、地面には魔法陣が描かれ、その四方には真ん中の台座に向けて傾かれた奇妙な三角錐が刺さっている。もちろん台座やその三角錐にも魔法陣の模様が描かれており、さらに魔法陣の真正面にはミカにより作られた機械が魔法陣と融合、元の面影はどこへ行ったのか…。床の魔法陣はいつしか祭壇さいだんとも呼べる風貌ふうぼうに変わっていた。

 その魔法陣は時たま黒く怪しく光り、その魔法陣が完成していることを示唆しさしている。台座の上には漆黒の球体が鎮座し、今か今かとそれを待ち構えていた。



 外見だけなら、なにか上空に向けてビームでも放ちそうなそれ。邪悪な何かを召喚でもしそうなそれである。




 そんな完成した魔法陣を眺めていたふたりだが、ミカはアリアの方を向きながらこういった。


「これで、アリアの望み通りに行くだろぉ。さっさと起動しちまおうぜ?うちも気になるしな」


「ミカちゃんには感謝してますわ。必要最低限の模様以外まで手伝って頂きましたもの」


「いいってことよ。こっちも熱が入っちまっただけだからな」


 そうしてアリアは立ち上がり、今一度何度目か分からない魔力回復薬を飲み干した。それでどのくらいのお金になるのか。一般のプレイヤーが聞いたら卒倒もんの大量に転がる空瓶を部屋の端に寄せながらアリアは魔法陣の真正面に立つ。静かに深呼吸し両手を前に突き出した。






「行きますわよ!」


「おう!」





 両手から〔魔力〕をその魔法陣に込めていく。さらに詠唱を開始した。





「彷徨える魂よ。ここにきたれ。それは翼、それは爪、それは漆黒の鱗」


 怪しい光が魔法陣に流れ込み。魔力が四方の三角錐の超天に集まり出す。


「ソナタを倒した我が問う。その黒炎を今一度解き放ち、ここに我の下僕となるならば、永遠の命をその身に授けよう」


 どんどんMPが消えていくがお構い無しでアリアは詠唱を続ける。



「この手をとり、共にあゆむ覚悟を求める」


 それはかつての敵。コアをもつアリアだけができる新しいゲームの「概念」



「さぁ、現れよ!!黒龍!!!」





 魔法陣がさらに黒い光で溢れ出し、ミカは全く辺りが見えなくなった。


「…」


 しかし確かに存在する緊張感と圧力に、それに対峙した事の無いミカでさえ何がそこにいるのかわかる。


 …今ここに、かつてナユカとハルト、ビュア、アリアが共に倒した。黒龍…ん?が現れたのだった。

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