第36話:レミティアとの絆

「……え?」


 なんだ? これは、どういうことだ?


「魔力が、満たされていく?」


 自分でも不思議なくらいに、魔力が肉体に満たされていくのが分かる。

 内側から回復しているのではなく、これは外から俺の中へ入ってきている感じだ。


「……レミティア、なのか?」


 聖魔法は使えないはずだが、レミティアの両手を伝い、間違いなく俺の体の中へ魔力が注がれている。


「これは魔法ではありません。私の魔力を、アリウスに分けているのです」

「そんなことができるのか?」

「……普通はできません。私がアリウスのことを本気で信じているからこそ、できるのです」


 俺の決意を聞いて、レミティアが俺を信じてくれた。

 逃げろとは言わず、一緒に戦ってくれているのだ。


「……ありがとう、レミティア!」


 レミティアにここまでさせたんだから、俺が負けるわけにはいかないよな!


「うおおおおおおおおっ!!」

「気合いを入れたところで勝敗は変わらない――!?」


 レミティアの魔力を受けて、俺が飛ばす斬撃の威力が急激に跳ね上がる。

 モノクルの男の斬撃を霧散させ、男の頬に傷をつけた。


「……私の顔に、傷だと?」

「これで終わりだと思うなよ!」

「……殺す……殺す……殺す、殺す、殺す殺す殺す殺してやるううううっ!!」


 傷をつけられたことがプライドを刺激したのか、モノクルの男が激高と共に飛ぶ斬撃を大量に放ち始めた。

 だが、それだけだ。今の俺には脅威にすら感じられない。

 大量の飛ぶ斬撃を、俺は一つの斬撃で霧散させていく。


「くそがああああっ!」


 俺の斬撃を相殺できないと判断したのか、モノクルの男がついに移動を開始した。


「高みの見物はもう終わりか? それなら、同じ土俵で戦おうぜ!」

「私と同じ土俵だと? 舐めるなよ、小僧がああああっ!!」


 モノクルの男が飛ぶ斬撃を飛ばしながら、姿勢を低くして飛び込んでくる。

 俺も飛ぶ斬撃を放ち相殺させると、モノクルの男へ剛剣を放つ。


 ――ガギイイイインッ!


「ぐおおおおっ!?」


 体格を見て、力押しでも勝てると思っていたんだろうが、そうはいかない。

 俺の剛剣を細剣で受け止めた直後、体をのけ反らせながらモノクルの男が悲鳴をあげる。


「快速! 柔剣!」


 直後に快速で間合いを詰めながら、腕をしならせて柔剣を振り抜く。

 快速による加速、腕のしなりを乗せた柔剣の一撃は、受け止めようと持ち上げた細剣ごとモノクルの男を切り裂いた。


「ぐがああああぁぁああぁぁっ!?」


 肩から脇へと掛けて傷を負ったモノクルの男は、血をボタボタと垂れ流しながらその場に倒れこんだ。


「レミティア!」


 この場にレミティアを守れる者は俺しかいない。

 すぐに踵を返して彼女のもとへ駆け戻っていく。


「大丈夫か? 怪我はしてないか?」

「アリウスのおかげで、問題はありませんよ」

「そうか、よかった~」


 安堵の息を吐きながら、俺は思わずレミティアの抱きしめた。


「……ア、アリウス?」

「ん? ……あぁっ! ご、ごめん!!」


 恥ずかしそうなレミティアの声を受けて、俺は慌てて体を離した。


「い、いえ、私はその、嫌じゃないので……」

「……は、早くここを出ないとな! こいつは倒したけど、他に敵がいないとも限らない――!?」


 顔を赤くしながらそう口にしていた直後、建物の外から物音が聞こえてきた。

 それも、誰かが戦っている音だ。


「……俺から離れるなよ、レミティア」

「……はい」


 モノクルの男は気を失っている。

 ならば今は外の気配に集中するべきだ。

 慎重に足を進めていき、扉の近くまでやってきた――


 ――バンッ!


「レミティア様!」

「アリウス殿!」


 ……リ、リディアに、バズズさん!


「リディア、バズズ!」

「……た、助かった~!」


 今度こそ俺は、張り詰めていた糸を緩めることができたからか、その場へ座り込んでしまった。

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