第37話:リディアとバズズ
――アリウスとレミティアが目の前から消えた。
その事実を受けて、リディアとバズズはすぐに捜索を開始した。
しかし、捜索の邪魔がすぐに入る。
「……リディア」
「はい、父上」
夜遅い時間になっているとはいえ、ここは街中だ。
そんなところで堂々とアリウスとレミティアを誘拐し、護衛である二人に刺客を送り込んできている。
それだけで面倒な相手だということを、二人は十分に理解し、剣を抜いた。
「用意周到だな。周りに人が誰もおらん」
「おそらく魔法なのでしょう。そして、レミティア様とアリウス殿を誘拐したのも、同様の魔法」
お互いに認識の確認をしていると、宿へと続く道の先から五人、黒ずくめの怪しい人物が現れた。
「貴様ら、どの勢力の刺客だ?」
「……」
「答えるはずがないか。だが、レミティア様を狙ったこと、後悔することになるぞ!」
バズズから強烈な殺気が放たれると同時に、黒ずくめの五人のうち、四人が駆け出す。
「リディアは後方の奴を狙え! 残りは私が相手をする!」
「分かりました!」
「させん!」
四人のうち、一人がリディアへ突っ込んでいき、三人がバズズへ飛び掛かっていく。
「朧に紛れろ――シャドウ」
「何!?」
リディアがそう口にすると、彼女の姿が周囲の光景に紛れ、消えていく。
一人の黒ずくめが驚きの声をあげるも、即座にリディアがいるだろう場所へ短剣を突き出した。
「くそっ! どこにいった!」
短剣に手応えはなく、黒ずくめは怒声を響かせた。
「貴様にリディアを見つけることはできんだろうな!」
リディアが姿を消したことを確認したバズズだが、その時点ではすでに三人の黒ずくめと戦闘を繰り広げていた。
「なんだ、こいつは!」
「攻撃が、効かんだと!?」
「化け物め!」
三人に取り囲まれながらも、バズズは大剣を巧みに操り全ての攻撃を弾き返すだけでなく、時折隙を見つけては反撃に転じている。
黒ずくめたちは完全に攻めあぐねており、そこへリディアを仕留め損ねたもう一人が背後から奇襲を仕掛けた。
「鋼の肉体――ヘヴィメタル」
――ガキンッ!
黒ずくめは奇襲の一撃に確かな手ごたえを感じていた。
だが、耳にした音は金属同士がぶつかり合うような音であり、黒ずくめは困惑してしまう。
「困惑する余裕があるのか?」
「しま――ごふっ!?」
奇襲を仕掛けた黒ずくめのみぞおちに、バズズの拳が突き刺さった。
「何をしている!」
劣勢になりそうな状況を見て、後方にいた黒ずくめが声を荒らげた。
そして、魔法で状況を打破しようと両手をバズズへ突き出した――直後である。
「遅い!」
「ぐはっ!?」
姿を消していたリディアの声が背後から聞こえると同時に、背中を深く切り裂かれた。
「よくやった、リディア!」
「そ、そんな――ぐぼえっ!?」
隙を見せた者を見逃すようなバズズではない。
後方の黒ずくめがやられたことに声をあげた相手を殴り飛ばすと、残された二人の黒ずくめは後退りを始める。
しかし、立ち位置的にバズズとリディアに挟まれている状況から、逃げられるはずもない。
「はあっ!」
「ふんっ!」
リディアとバズズ、二人が同時に前に出て剣を振るうと、その一撃で残る二人の黒ずくめも地面に倒れ伏した。
「リディアは宿へ向かい、店主に事情を説明してくれ」
「分かりました!」
急いでリディアが駆け出すと、バズズは黒ずくめの頭巾を剥がし、身元を特定できるものがないかを確認していく。
「……この短剣は!」
すると、後方の黒ずくめが懐に入れていた短剣を見て、バズズは絞り出すように声を漏らした。
「戻りました、父上! 警ら隊を呼んでくれるそうです!」
「よくやった。私たちは急ぎ、レミティア様とアリウス殿を助け出すぞ!」
「はい!」
そう口にした二人が立ち上がると、バズズはズボンのポケットから懐中時計のようなものを取り出した。
「父上、それは?」
「レミティア様に何かが起きた時にだけ使ってもいいと指示されているものだ。レミティア様の居場所を、中央の針が示してくれる」
「そ、そんなものがあったのですね」
驚きの声を漏らしながらも、リディアは針の行方を見つめていた。
「……アリウス殿がいるとはいえ、あまりにもイレギュラーだ。急ぐぞ!」
「はい!」
こうしてリディアとバズズは、懐中時計を見ながら進んでいき、街外れにある廃屋に到着する。
周囲を廃屋に似合わない、武装した集団が取り囲んでいる。
「どうやら、当たりのようですね」
「時間が惜しい。一気に片を付けるぞ」
「はい!」
そのまま集団へ突撃を仕掛けたリディアとバズズは、奇襲だったこともあり一瞬で全ての戦力を無力化することに成功する。
そして――
「レミティア様!」
「アリウス殿!」
「リディア、バズズ!」
「……た、助かった~!」
レミティアとアリウスの無事を確認できると、安堵の息を吐いたのだった。
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