第35話:本気のアリウス
「はあっ!」
「貴様ああああっ!」
俺が飛ぶ斬撃を放つと、同時にモノクルの男も放ってくる。
空中で斬撃がぶつかり合い、誰もいない場所で剣戟の音が響くのは不思議な感覚になってしまう。
とはいえ、レミティアを守りながら戦うなら、これほど都合のいいスキルはない。
しばらくは付き合ってもらおう、飛ぶ斬撃の応酬に!
「私のスキルを、使うなああああっ!」
「今は俺のスキルでもあるんだよ!」
このまま戦い続けるのもありなのだが、思いのほか魔力の消費が激しいな、このスキル。
オリジナルはモノクルの男のスキルなのだから、魔力量で見ればこちらに不利だろう。
相手が苛立っている間に、どうにかして勝負を決めなければいけないな。
「……ぅぅ」
俺がそんなことを考えていると、レミティアの意識が戻り始めた。
「レミティア、大丈夫か?」
「……ア、アリウス? ……え? どういうこと?」
「ちっ、面倒な!」
モノクルの男からもレミティアが目覚めたのが見えたのだろう、舌打ちをしながら険しい表情に変わる。
「説明はあとだ。あいつはレミティアを狙っていた、身体強化を頼めるか?」
「わ、分かりました! フルブースト! ……あ、あれ? フルブースト!」
「……どうしたんだ?」
何度もフルブーストを発動させようとしているレミティアだが、その表情は明らかに焦っている。
「……くくくく、あーははははっ!」
すると、モノクルの男が高笑いを始めた。
「……魔法が、使えない」
「てめぇ、何かしやがったな?」
「当然です! 聖魔法の使い手を相手にするのですから、それ相応の対処はさせていただきますとも!」
そう口にしたモノクルの男は、両手を広げながら勝利を確信したかのようにニヤリと笑った。
「……よーく考えてみれば、おかしな話です。あなた、人のスキルを真似ることができるということですね?」
自分優位だと分かり、冷静になったようだ。
「ですが、真似たからと言って私とまったく同じにはならないはず。いずれあなたは私のスキルを使えなくなるのではないですか?」
「……さあ、どうだろうな」
「まあ、どちらでもいいでしょう。ここがバレることはないですし、時間を掛けて、ゆっくりと始末して差し上げましょう」
さて、どうしたものか。
フルブーストを使ってから一気に詰めようと思っていたが、それが対策されてしまっていた。
ならば、俺の力でこいつを倒さなければレミティアを守れない。
「……逃げてください、アリウス」
するとレミティアから、そんな言葉が飛び出した。
「何を言っているんだ?」
「逃げてと言っているのです。あなたをこれ以上、巻き込みたくない!」
「もちろん、逃げても構いませんよ? ですがあなたは私の顔を見てしまっている。ならば、逃げたところで結局は殺してしまうのですがねぇ! あははははっ!」
再び高笑いの後、モノクルの男が細剣を振り始めた。
対抗して俺も飛ぶ斬撃を放つが、徐々に俺の魔力が減少していく。
このままのペースで戦い続けていたら、五分も持たないだろう。
……万事休すか。
「アリウス! 早く逃げて!」
「逃げるわけがないだろう!」
レミティアの悲痛な叫びを受けて、俺も叫び返した。
「……ア、アリウス?」
「女性一人すら守り切れないで、名を上げるなんてできるはずがないじゃないか! 俺はレミティアを守り抜く! だからレミティアも俺を信じてくれ!」
これは俺のエゴであり、わがままだ。
もしかすると俺が逃げて、場所を把握し、助けを呼んだ方がいいのかもしれない。
何が正解かなんて分からないけど、俺は自分のために、レミティアを守り抜くと決めたんだ!
「あははははっ! 騎士気取りも大概にした方がいいですよ! あなた程度が騎士になど、不可能なのですよ!!!」
そんなことは分かっている。
だけど、俺はお爺ちゃんの、ユセフ・ガゼルヴィードの孫だ。
「不可能かどうかは、俺が決めることだ!」
「身の程を教えて差し上げましょう!」
限界まで戦ってやる! それでも倒せなければ、限界を超えてやるんだ!
「……分かりました。私も、アリウスを信じます!」
俺の隣でそう宣言してくれたレミティアが、俺の背中に両手を置いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます