第34話:分断
ギルマスの部屋をあとにした俺たちは、一度受付へ向かいミスティに解体状況の確認を取ってみた。
「あまりに膨大過ぎて、作業には丸一日掛かるそうです。なので、申し訳ございませんが報酬の確定は明日以降でもよろしいでしょうか?」
「そういうことなら仕方ないですね、分かりました」
すぐにお金が必要というわけではなかったので、俺たちはそのまま冒険者ギルドをあとにした。
向かう先は泊まっている宿であり、俺はそこでレミティアたちの事情を聞く予定になっている。
……悪い話じゃなければいいんだが、逃げている時点で良い話ではないだろうなと想像はつく。
だからといって、俺はレミティアたちを見捨てることができるだろうか?
「……申し訳ございません、アリウス」
すると後ろからレミティアが謝罪を口にしてきた。
「なんでレミティアが謝るんだ?」
「やはり、事情を隠していたことが、申し訳なくて……」
「隠さないといけない事情があったんだろう? なら、仕方がないさ」
そう答えた俺は、ここでも顔や雰囲気に考えが出ていたのかと反省してしまう。
頭を掻きながら、俺たちは無言で宿まで進んでいく。
そして、宿が見えてきたところで、俺はなんと言葉にしていいのか分からない違和感に襲われてしまう。
「……なんだ?」
「どうしたのですか、アリウス?」
……レミティアは、気づいていない? いや、リディアやバズズさんも気づいていないみたいだ。
……俺の、気のせいなのか?
「……いや、なんでもない――!?」
気のせいじゃないぞ、これは!
「レミティア!」
「え?」
俺は叫びながら、レミティアを抱きしめた。
直後――俺たちの足元から紫色の光が噴き出した。
「レミティア様! アリウス殿!」
「しまっ――」
バズズさんが俺たちの名前を呼ぶところまでは聞こえたが、リディアの言葉は途中までしか聞き取れなかった。
紫色の光に包まれた俺は、不思議な浮遊感を感じると、意識を一瞬だが失った。
◆◇◆◇
――……ここは、どこだ?
間違いなく、ラグザリアの街中ではない。
「……レミティア、大丈夫か?」
俺の腕の中ではレミティアが気を失っている。
強烈な頭痛を覚えながらも、なんとかレミティアが息をしていることを確認し、そのまま周囲へ目を向けていく。
「おや? 邪魔者が紛れ込んでしまいましたか」
「誰だ!」
声の方へ剣を向けると、そこには長身痩躯、モノクルを掛けた長髪の男性が高い位置から俺たちを見下ろしていた。
「あなた、誰ですか?」
「質問をしているのはこっちだ!」
「おやおや。なかなかに威勢がいい邪魔者だこと」
余裕の笑みを浮かべながら、モノクルの男は肩を竦める。
「これから死んでいく者に名乗る名など持ち合わせていませんよ」
「それなら俺が名乗る必要もないよな?」
舌戦を繰り広げながら、俺は周囲の様子を探っていく。
どこか建物の中のようだが、それがどこなのかは見当がつかない。
それに、どうにかして気を失っているレミティアを起こさなければ、逃げるに逃げられない。
「周りを見ても、ここがどこかなんて分からないと思うよ?」
「それが分かってて見逃してくれたのか? 余裕じゃないか」
「まあ、実際に余裕なんですけれどね!」
「――!?」
――ガキンッ!
……なんだ、今のは?
「へぇ、今のを止めますか。あなた、なかなかやりますねぇ」
あいつは細剣を遠目から軽く振るっただけのはず。
それなのに、斬撃を受けただって?
「……飛ぶ、斬撃か?」
「そういうことです。あなたは私に触れることもできずに死んでいく――!?」
――ガキンッ!
「……あなた、どういうことですか?」
はは、驚いていやがる。
それはまあ、そうか。初見でいきなりこんなことをされたら、それは驚くだろうな。
「どうしてあなたが――私の斬撃を使っているのですか!」
「さあ、どうしてかな? お前こそ、俺に触れることなく死んじまうんじゃないか?」
「貴様、殺してやる!」
相手の余裕を崩してやった。
倒すなら、今しかないな!
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