第33話:ギルドの事情
解体所への用事を済ませた俺たちは、その足で冒険者ギルドの二階へと上がり、ギルマスの部屋へ移動する。
扉の前ではミスティが待っており、俺たちが到着するとすぐに扉をノックし、そのまま開いてくれた。
「座ってちょうだい」
ギルマスの言葉を受けて、俺たちはソファに腰掛けていく。
ミスティはお茶を入れると、そのまま部屋をあとにした。
「さて、まずは今回の依頼の件を謝罪させてちょうだい。皆さんを危険な目に遭わせてしまい、申し訳なかったわ」
すると早速、ギルマスは俺たちを座らせたままで立ち上がると、頭を下げて謝罪してくれた。
だが、ギルドのトップであるギルマスが簡単に頭を下げたことに俺は驚いていしまう。
「ちょっと、ギルマス!? 何か事情があったんですよね? そんな恐縮しないでください!」
「事情がどうあれ、私は意図的にあなたたちを危険な場所へ送り込んでしまったわ。それも、説明もなしにね」
「では、この場で説明をしていただける、ということでよろしいのですかな?」
俺の代わりに最年長のバズズさんが問い掛けてくれた。
「はい。……一つ目の理由としては、受付のところで話した通りです」
「依頼をこなせる人材がいなかった、ですか?」
「その通りよ。私が直接出向いても良かったのだけれど、それでは他の冒険者を信用していないと公言しているようなものなの」
確かに、冒険者ギルドに依頼が来たものを、なんの説明もなくギルマスが片付けてしまっては、冒険者たちから非難の声があがってもおかしくはない。
ギルマスとしては冒険者を守るために取った行動でも、見方によっては信じてもらえていないと見えなくもないからな。
「そして、アリウス君は目立ち過ぎていた。だから、個別に呼び出しての説明もできなかったのよ」
「それならミスティを介して説明ができたのでは?」
「今朝のことを思い出してちょうだい。あなた、他の冒険者から視線を集めていたわよ?」
「あー……言われてみたら、そうだったわ」
朝から絡まれて、その絡んできた奴が洞窟までちょっかいを掛けに来たんだったよ。
「そういうわけで、きちんと説明する場を設けられることなく、そのまま出発を見送ることしかできなかった。本当に申し訳なかったわ」
「ギルマスの言うことは分かりました。ですが今回は、さすがにやり過ぎだったと思います」
ギルマスの説明に一定の理解を示しつつも、レミティアは強い口調で意見していく。
「ゴブリンの巣には、上位ゴブリンが複数おり、それらを率いていたのはゴブリンクイーンでした。そんな場所に四人だけでというのは――」
「クイーンですって!?」
「……ど、どうしたんですか、ギルマス?」
まさか、クイーンがいることを知らず、俺たちに依頼を出したわけじゃないよな?
「……これは、マズいわね」
「どういうことですか?」
「クイーンがいたということは、キングもいるということ。それはつまり、まだゴブリンによる脅威は終わっていたいことを指しているわ」
確かに、クイーンが上位ゴブリンを率いていることを小規模のスタンピードだと考えていたが、キングの場合はさらにその上だと考えていいのだろうか。
しかし、ゴブリンキングか。何かを忘れているような気がしてならないんだよなぁ。
「……あぁ、話が逸れてしまったわね。でも、クイーンがいたというのは正直、予想外だったわ。レミティアさんの言う通り、やり過ぎだった。改めて、申し訳ございませんでした」
「そんな、謝らないでください! 俺はお爺ちゃんと一緒に冒険していた人に謝ってほしいなんて思っていませんから!」
俺がお爺ちゃんのことを出すと、ギルマスは顔を上げ、苦笑した。
「……ユセフは、素晴らしい孫を得たのね」
「両親は酷い人たちでしたけどね」
「うふふ。違いないわ」
最後にそう言って笑ったギルマスが腰を下ろすと、報酬の話になっていく。
「まず、今回の報酬は当初伝えていたもの以上になることは当然として、ギルドからもクイーン討伐の追加報酬を支給します。また、上位ゴブリンの素材についても通常よりも割増しで買い取らせていただくわ」
「そ、そんなにしてもらっていいんですか?」
「ランクを偽っていた罪滅ぼしもあるし、まさか受けたその日で終わらせてもらえるとは思っていなかったもの。特急料金というやつかしらね」
素直に受け取っていいのか迷ってしまったが、先立つものがあると心に余裕が生まれるものだ。
「……それじゃあ、ありがたくいただきます」
「アリウス君も、皆さんも、この度は本当にありがとうございました」
こうしてギルマスとの話し合いは終わった。
だが、俺にはまだやるべきことが残っている。
レミティアたちがどのような事情を抱えているのか……さて、どうなることやらだな。
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