第31話:それぞれの事情
俺たちは聖魔法のクリーンで付着した返り血を落とすと、ゴブリンの巣をあとにした。
お爺ちゃんから譲り受けた魔法鞄だが、バズズさんの言葉通りに全ての魔獣が入ってくれた。
さすがに俺も驚いてしまったが、これだけ貴重なものをくれたということは、それだけお爺ちゃんが俺に期待を寄せているということだ。
その期待を裏切らないためにも、冒険者として名を上げなければならない。
そして、その第一歩がゴブリンの巣の壊滅だったわけだが……これ、やり過ぎたかなぁ。
「この依頼を当てがった冒険者ギルドが悪いのですよ、アリウス殿」
「あー……顔に出てましたか?」
「がっつりと」
突然バズズさんから確信を突かれたので、俺は思わず両手で顔を触ってしまう。
その行動が面白かったのか、レミティアがクスクスと笑った。
「顔に出ないよう、気をつけますね」
「今はまだいいかもしれませんが、ランクが上がればいろいろと接触してくる者も増えるでしょう。その時までには慣れておいた方がいいでしょうな」
「接触してくる者、ですか?」
バズズさんの言葉の意味が理解できず、俺は首を傾げてしまう。
「強い者には、相応の立場の人間が声を掛けてくることがあるのだ。上級冒険者、その地の領主、噂を聞きつければよその領主が……なんてことも考えられるな」
「わざわざよその領主が足を運ぶなんてこと、あるんですか?」
「ある。実際にユセフは何度も声を掛けられていたらしいからな」
マジかよ、お爺ちゃん。そんな話は聞いたことがなかったな。
「とはいえ、故郷の地を離れて他領で名を上げたいという者の方が少ないではあるが、アリウス殿の場合はそれも当てはまらないであろう?」
そう言われると、確かにその通りだ。
俺はガゼルヴィード領を飛び出して、ラクスウェイン領へやってきている。
ラクスウェイン領にやってきたのだって、お爺ちゃんの勧めがあったからという理由だけで、この地に定住しようとは考えていない。
まあ、だからといってよそから声が掛かっても、すぐにそちらへ行こうとも思わない。
まずはラクスウェイン領で名を上げる。それがお爺ちゃんへの恩返しになるからな。
「しばらくはラクスウェイン領で活動しますよ」
「そうか。それならばどうしましょうか、レミティア様?」
ん? どうしてそこでレミティアに意見を求めるのだろうか?
「……あの、アリウス?」
「なんですか?」
「もしよろしければ、私たちもしばらくアリウスと行動を共にしてもよろしいでしょうか?」
「……えっと、逆に聞くけど、ラクスウェイン領にそんな長く留まっても大丈夫なのか?」
レミティアは聖女であり、王都から逃げてきた立場の人間だ。
バズズさんが根回しをしているとはいえ、絶対に安全というわけではないだろう。
多少の留まりはいいとしても、長期間で留まるのがいいとは思えない。
「……アリウスには、本当のことを伝えておきたいのです」
「本当のこと?」
「はい。その話を聞いて、もしも共に行動してもいいと思えたなら、お願いできないでしょうか?」
何やら不穏な空気が漂い始めたものの、レミティアたちを助けたのは俺だ。
つまり、俺から彼女たちにかかわったも同然なのだ。
助けたからそれで終わりなら、最初から助けなければいいに決まっている。
「……分かった。俺から関わったわけだし、話も最後まで聞くよ」
「ありがとうございます!」
「そこからの判断はアリウス殿、一切の忖度なしで決めていただきたい」
レミティアとバズズさんは、話を聞いた俺が断る可能性が高いと思っているのかもしれない。
だからこそ、強い口調でそう言ってくれているのだろう。
「父上、それは……」
「言うな、リディア。私たちの事情に、これ以上アリウス殿を身勝手にかかわらせるわけにはいかんだろう」
「……その通りです」
レミティアたちにどのような事情があるのかは分からない。
だけど俺は、俺にできる最高の結果を得られる選択をしようと心に決めながら、ラグザリアへと戻ってきた。
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