第30話:規格外の強さ
「……ふぅ。ギリギリだったな」
スキルの常時使用も限界に近づいていた。
ここで決めきれなかったら、地面に転がっていたのは俺だったかもしれない。
「だけど、まだ終わりじゃない!」
この場にいるのはクイーンだけではなく、他の上位ゴブリンが群れを成しており、バズズさんが相手取ってくれている。
俺はすぐに振り返り一緒になって討伐しようとした。
「……あ、あれ?」
だが、そこには予想外の光景が広がっていた。
「ゴブリンたちが、動かない?」
……なるほど、そういうことか。
どうやらゴブリンたちは、自らを従えていたクイーンが倒されたことで、指示系統がめちゃくちゃになってしまっているようだ。
そのせいで動きが止まり、何をどうしたらいいのか分からなくなっている。
「そういうことなら、好都合だ!」
俺は即座に駆け出すと、近くにいたゴブリンウォリアーを斬り捨てる。
「うおおおおっ!」
「リディアもいってちょうだい!」
「かしこまりました!」
すでにバズズさんも攻撃を始めており、レミティアの指示でリディアも飛び出してきた。
ここから先は掃討戦となり、洞窟内には大量のゴブリンの死体が転がることになった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……あぁ~、終わった~!」
全てのゴブリンを討伐し終えると、俺はあまりの疲労感に壁へもたれかかってしまう。
周囲には血臭が漂っており、本当なら地面に座り込んでしまいたかったが、そうできないくらいには地面が真っ赤に染まっている。
……正直なところ、こんな洞窟からはさっさとおさらばしたい気分だ。
「とはいえ、討伐証明は必要だよなぁ」
ここから大量の魔獣の討伐証明を確保しないといけないのかと考えると、面倒この上ない。
……いや、待てよ? 俺にはこれがあるじゃないか!
「魔法鞄!」
生きたものを入れることはできないが、すでにこと切れた魔獣であれば問題はない。
このまま大量のゴブリンを魔法鞄に入れて、そのまま冒険者ギルドに提出してしまえば、討伐証明の回収は必要ない……と思う。
そもそも、FランクとEランクの俺たちに依頼するには、あまりにも高ランクの魔獣が多すぎたのだ。
冒険者ギルド側にも、多少の面倒を背負ってもらいたい。
「あの、アリウス?」
俺がそんなことを考えていると、レミティアから声が掛かった。
「ん? どうしたんだ、レミティア?」
「……ものすごく、お強いのですね!」
……え? 急にどうしたんだ?
「いやはや、本当にお強いですな、アリウス殿は!」
「私なんか足元にも及ばないほどの強さでした!」
バズズさんにリディアまで、マジでどうしたんだ?
「いやいや、みんながいてくれたから勝てたんじゃないか。俺一人だったら、魔力が尽きて終わっていたって」
「だとしても、私たちだけではどうすることもできなかったはずです」
そもそも、俺がいなければレミティアたちが今回の依頼を受けることもなかったんじゃないだろうか? という疑問が浮かんだが、たらればになってしまうので口に出すことはしなかった。
「本当に、ありがとうございました!」
「それは俺のセリフなんだけどな」
まっすぐな瞳でお礼を言われてしまい、俺はなんだか恥ずかしくなってしまう。
「と、とりあえず、ゴブリンたちの死体をどうにかしよう! 俺の魔法鞄に突っ込んでもいいか?」
話題を変えるため、俺はゴブリンの回収についての提案を口にした。
「入れてもらえるのなら、ありがたいのですが……」
「この量ですよ? 入りますか?」
しかし、レミティアとリディアは困惑顔で、これだけの量が本当に入るのかと心配を口にした。
「アリウス殿の魔法鞄は、ユセフから譲り受けたものなのだろう?」
「そうです」
「であれば、入るかもしれないな」
「そ、それは本当なのですか、父上?」
そこへバズズさんから入るかもという答えが飛び出し、リディアが驚きの声をあげた。
「あ奴の魔法鞄は、どれだけ入れても限界が来なかったからな。私も驚いたものだ」
「……そ、そんなすごいものだったんだ、この魔法鞄」
容量無限……なんてことはさすがにないだろうけど、さすがに限界を見たことがないは予想外だわ。
とはいえ、そういうことなら今回は非常にありがたい。
俺は転がっているゴブリンの死体をこれでもかと魔法鞄へ突っ込んでいき、気づけば全ての死体を回収することに成功した。
「……ほ、本当に入っちゃったよ」
俺がそう呟くと、レミティアとリディアも驚きの顔を浮かべており、バズズさんだけは満足気に頷いていた。
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