第27話:予想外の襲撃
――ガキンッ!
間一髪、俺の剣が短剣を弾き飛ばすことに成功した。
防御魔法があるとはいえ、衝撃を与えられればそれだけ魔力を消耗してしまう。
ゴブリンを率いている魔獣と相対するまでは、できるだけレミティアの魔力は温存しておいてもらいたい。
それに何より、短剣を投げてきた相手が魔獣ではなかったことが、俺が駆けつけた最大の要因でもあった。
「……自由市場から俺を尾行していたのも、お前たちか?」
剣を構えながら進んできた通路を睨みつけると、物陰から五人の男性が姿を現した。
そのうちの何人かには見覚えがある。
「あんたは、今朝の冒険者ギルドで俺に絡んできた奴だな?」
まさか、こんなところで絡んできた男性冒険者と顔を合わせることになるとはな。
「てめぇが舐めた態度を取るから、こんなことになったんだぜ?」
「それにそっちは、冒険者登録の時に模擬戦をした槍使いだろう?」
「今度は絶対にぶっ殺してやるぜぇ?」
どうやらこいつら、まったく悪いとは思っていないらしい。
しかし、こいつらに関してはどうでもいい。実力もたかが知れているからな。
問題は、通路の先にいるだろう炎を放ってきたゴブリンの上位種だ。
「……お、おい、マジでこいつらをやるのか?」
「ゴブリンナイトを倒した奴だぞ?」
「あっちはゴブリンウォリアーに、ゴブリンハイモンクまでいるぞ?」
今朝の男性と槍使い以外は、魔獣を見て及び腰になっている。
……こいつら、自由市場で俺をつけていた奴らだよな? もしそうなら、そんな奴らが魔獣を見て及び腰になるものか?
「これくらい、俺様なら問題にもならねぇよ!」
「ガキが倒せるような魔獣に、俺たちが負けるはずがねぇだろうが!」
そんな及び腰な三人に対して、今朝の男性と槍使いは強気に言い放つ。
「どっちでもいいんだが、やるのか、やらないのか、どっちなんだ?」
こっちはお前たちに構っている場合じゃないんだ。
というわけで、軽く挑発してみた。
「いいぜ、やったやるよ! こっちは今朝と違って、全力でやれるんだからな!」
「模擬戦だからって手を抜いてやったが、今日はそうはいかねぇぞ!」
「そうか。それなら――」
レミティアに短剣を投げつけるような卑怯な奴らだ。正々堂々なんて意味はなさないだろうし、言葉の途中から快速スキルで一気に間合いを詰めた。
「まずは一人」
「がはっ!?」
及び腰になっていたうちの一人を手刀で気絶させると、残りが振り向く前に素早く移動する。
「二人目」
「うげっ!?」
「こ、この野郎!」
二人目が気絶すると同時に、槍使いが刺突を放ったものの、恐れるような速さではない。
拳で槍の柄を弾き上げると、半身の状態で前進し、槍使いのみぞおちへ肘をめり込ませる。
「おふぅ!?」
槍使いは変な声を漏らしながら、その場でうずくまってしまう。
「こ、この野郎が!」
直後、今朝の男性が殴りかかってきた。
しかし、そこは今朝とまったく同じように、相手の力を利用して巨体を投げ飛ばす。
「ぐげっ!?」
「今回はこれで終わらないからな!」
仰向けに倒れた男性めがけて飛び上がった俺は、全体重を乗せた膝蹴りならむ、膝落としを、これまたみぞおちへ叩き落した。
「――~~~~!?」
言葉にできなかったのか、男性は体をくの字にしたあと、そのまま泡を吹いて気絶してしまった。
「……おい、そこの奴」
「ひいいぃぃっ!?」
及び腰だった最後の一人に声を掛けると、そいつは変な声で悲鳴をあげた。
「ここがゴブリンの巣だってことは分かっているんだろう? 分かっているなら、お前がこいつらを運び出せ。俺たちはこいつらがゴブリンに食われても知らないからな?」
「わ、分かりましたああああ!!」
いったい何をしに来たのか、男性は一人で四人の男性を背負いあげると、ふらふらしながら洞窟の入口の方へと歩いていってしまった。
「レミティア、大丈夫だったか?」
一段落ついたところで、俺はレミティアの側へ向かい声を掛けた。
「私は大丈夫ですが、アリウスは?」
「見ていただろう? まったくもって、問題ないよ」
逆に心配そうに声を掛けられてしまい、俺は笑顔を浮かべながら力こぶを作ってみせる。
「……うふふ。確かに、問題ありませんでしたね」
「私はむしろ、あいつらを切って捨ててやりたかったがな」
「私もだ。アリウス殿は優し過ぎるのではないか?」
「どわっ!?」
レミティアに続いて、いつの間にか側に来ていたリディアとバズズさんが、強い口調で言い放ち、俺は驚いてしまった。
「……なんだ、二人も余裕で倒したんだな」
「あの程度、問題にもなりませんよ!」
「仰る通りですな。それよりもあ奴らの処遇です。軽すぎるのではないか?」
バズズさん、相当キレているみたいだな。
まあ、レミティアが狙われたんだから当然ではあるけど。
「殺してしまったら俺たちにも何かしら処罰があるかもしれないだろう? あんな奴らのせいで処罰されるくらいなら、後処理を任せた方がいいってもんですよ」
「アリウスの言う通りですよ、バズズ。それに、私も無事だったわけですしね」
レミティアの援護を受けて、俺はホッと胸を撫で下ろす。
何せここから先は、おそらく総力戦になるだろうから、あんな奴らのせいで無駄な体力を使いたくないのだ。
「そんなことよりも、そろそろ行きませんか?」
「ふむ……まあ、致し方ないか」
「レミティア様は私がお守りいたします!」
「リディアも、二人のことも頼りにしているわ」
さて、どんな上位種のゴブリンがいるのやら。
冒険者になって早々に、面倒な依頼を片付けることになろうとは、思いもしなかったよ。
そんなことを考えながら、俺たちはさらに奥へ足を進めていった。
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