第26話:三匹の上位種

「ゴブリンナイト、ウォリアー、ハイモンクだって?」


 こいつらは群れを率いることの多い上位種だが、こいつらを従えている、さらに上の上位種がいるってことだ。


「レミティア様、身体強化魔法をお願いできますかな?」

「わ、分かったわ!」


 俺が警戒を強めていると、後方からバズズさんとレミティアの声が聞こえてきた。


「フルブースト!」


 レミティアがそう口にすると、俺たちの体に美しい純白の光が降り注いだ。


「これは……?」

「レミティア様の聖魔法、フルブーストです、アリウス殿!」

「私も前に出ます。レミティア様は防御魔法で自衛をお願いいたします」

「分かりました。皆さん、お気をつけて」


 フルブーストによって身体強化されたとして、二人でゴブリンの上位種を三匹、一斉に相手取ることは難しい。

 そのことに気づいていたのだろう、バズズさんも前に出てきた。


「レミティアの護衛は大丈夫なんですか?」

「問題ありませんぞ。レミティア様の防御魔法は一級品ですからな。とはいえ……」


 そこで言葉を切ったバズズさんは、背中の大剣を抜き放つと、剣先をゴブリンウォリアーへ向けた。


「長い間で一人にするつもりはありません。ウォリアーは私が相手をいたしましょう」

「それでは私はハイモンクを」

「ってことは俺は、ゴブリンナイトだな」


 それぞれが誰を相手にするかを決めたところで、俺たちは一斉に駆け出した。

 ほぼ同時にゴブリン上位種たちも駆け出しており、彼我の距離は一瞬にして詰まった。


「うおおおおっ!」


 俺が鋭く振り抜いた剣と、ゴブリンナイトの直剣がぶつかり合い、激しい金属音が洞窟内に響き渡る。

 それも、こちらの戦闘だけではなく、同時にバズズさんとリディアも戦闘を開始したので、音の広がりは相当なものだ。


『ゴブ! ゴブゴブ! ゴブラアアアアッ!!』


 だからといって、たかが音だ。目の前に迫ってくる直剣への集中力が欠けるようなものではない。

 数合打ち合ったあと、俺は軽く後方へ飛び退き、着地と同時に再び前進。緩急をつけた攻撃を仕掛けていく。


『ゴブラアアッ! ゴブブ、ゴブラアアアアッ!』


 ちっ、こちらの緩急をつけた攻撃にもついてくるのか、ゴブリンナイト!


「それなら、これでどうだ!」

『ゴ、ゴブリャ!?』


 単純な剣術だけではゴブリンナイトとほぼ互角。それならスキルを多用すればいいだけの話だ。

 普通はできないだろう。しかし、俺にはできるんだよな!


「快速」


 俺は快速スキルを使って一気に前へ――出るわけではない。

 大きく後方へ飛び退くと、そのまま壁に両足をつける。


『ゴブ?』


 ゴブリンナイトは困惑気味に首を傾げている。

 そうだろうな、俺の行動の意味なんて、お前には分からないだろう。


「怪力、飛行!」


 足の筋肉を強化して壁を蹴りつけると同時に、飛行を発動させて超低空飛行で一気に接近する。


『ゴブラッ!?』


 驚愕の表情を浮かべたゴブリンナイト。その顔を俺ははっきりと見ていた。


「はあっ!」


 ゴブリンナイトが直剣を盾代わりにしようと腕を動かしたが、完全に遅れている。

 俺は柔剣を用いて剣の動きを波打たせると、直剣を回避してゴブリンナイトの首へ剣身を滑り込ませた。


 ――ズバッ!


 ゴブリンナイトの首が宙を舞うと、残された胴体から力が抜け、ゆっくりと後方へと倒れ込んでいった。


「よし、次だ!」


 バズズさんかリディアの助太刀にと振り返ろうとした直後――


「――!?」


 背筋が凍るほどの悪寒を感じ、俺は進んできた通路の方へ視線を向けた。


「…………レミティア!!」

「え?」


 俺はレミティアの名前を叫ぶと同時に駆け出す。

 レミティアは驚きの声を漏らしているが、名前を呼んだ理由を説明している暇はなかった。


 ――ゴウッ!


 レミティアの背後から、彼女を狙って短剣が投げつけられた。

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