第8話:遭遇
ナリゴサ村を出発した翌日も、俺は周囲を警戒しながら飛行スキルで移動していた。
そんな時、視界の先で砂煙が上がっていることに気がついた。
「……なんだ? 魔獣か?」
魔獣であればただ倒してしまえばいいだけなのだが、もし人がいるのであれば話は別だ。
俺は高度を下げながらゆっくりと近づいていき、同時に遠見スキルを発動させる。
――ドンッ!
その時、巨大な光の柱が空を突き抜けんばかりに立ち昇った。
「あれは、セイントピラー!」
セイントピラーは、聖属性の壁を作って悪意を払うことができる聖魔法だ。
セイントピラーの発生場所に視線を向けると、そこには魔獣に襲われている人影を見つけた。
飛行スキルを見られるわけにはいかないと、俺はそのまま地上に降りて、快速スキルを発動させ全速力でセイントピラーが立ち昇った場所へ向かう。
遠見スキルで見た限り、人影は二つ。どちらも若い女性だったが、一人は銀髪で鎧を身に付けており、もう一人は金髪で高価そうな洋服を身に纏っている。
身なりからしか判断できないが、護衛騎士と貴族令嬢なのかもしれない。
面倒事の予感しかしないものの、襲われているところを無視するのはどうも気が引けてしまうので、助けたらさっさとこの場を離れてしまおう。
そんなことを考えていると、あっという間に俺の間合いに魔獣を捉えた。
「助太刀します!」
「何者だ!」
「え?」
俺はそう声を掛けるのとほぼ同時に、令嬢の背後に迫っていたデスベアーを一閃して首を刎ね飛ばす。
そのまま蹴りつけて三メートルに迫る巨体が令嬢に倒れて来ないようケアすると、勢いそのままに騎士が相対している三匹のうちの一匹へ飛び掛かる。
こちらは右手に剣、左手に盾を構えた魔獣のスケルトンナイトだ。
「安易に近づくな!」
騎士が警告するも、デスベアーを蹴りつけた俺はもう止まることができない。
カタカタと骨を鳴らしながら剣を振り上げたスケルトンナイトだったが、甘い。
「柔剣――
スケルトンナイトの剣が振り下ろされる前に、俺は全身を前に押し出しながら脱力状態で剣を振り抜く。
緊張状態だった筋肉が脱力したことで、わずかだが本来の間合いよりもその幅が広がりを見せる。
そして、俺の剣先がスケルトンナイトを捉えると、鋭い一撃で触れた部分を粉砕した。
「んなあっ!?」
「次!」
騎士の驚きの声が聞こえたが、気にすることなく着地と同時に二匹目のスケルトンナイトへ突進していく。
しかし、すでに勝敗は決している。
魔獣の知能は低いと言われているが、同類が殺されたことは理解できており、動揺が生まれて動きが緩慢になっていた。
スキルを発動するまでもなく、単なる横薙ぎで二匹目のスケルトンナイトを仕留めると、俺はすぐに振り返る。
その時には騎士がすでに、残り一匹のスケルトンナイトを両断していた。
「……助太刀、感謝いたします」
「たまたま通り掛かっただけですから、気にしないでください」
警告をした時の声音とは異なりとても優しく丁寧な口調でお礼を言われてしまい、俺は慌てて気にしないで欲しいと口にする。
鋭い瞳できつい印象を受けるが、とても礼儀正しい騎士のようだ。
「いいえ、本当に助かりました」
すると、後方に隠れていた令嬢が立ち上がり声を掛けてきた。
こちらは騎士とは真逆で大きな瞳からかわいらしい印象を受ける。
「レミティア様! 魔獣に気づけず、申し訳ありませんでした!」
「こうして無事だったのですから構いません。ですが、あなた様がいなければ私もリディアも殺されていたこともまた事実です。本当にありがとうございました」
「いや、本当に通り掛かっただけなので」
嘘ではない。本当にたまたま、近くを飛行スキルで移動していただけなのだから。
「申し遅れましたが、私はレミティア・ラステールと申します」
「私はレミティア様の護衛騎士をしております、リディア・クロムエルです」
「俺はアリウス・ガゼルヴィードです」
「なるほど! ガゼルヴィード家のご子息でしたか!」
お互いに名乗ったところで、リディア様が納得顔で口を開いた。
「ご存じなのですか?」
「もちろんです。騎士をしている者であれば一度は必ず家名を聞きますからね!」
そういうことか。
しかし、それならばリディア様が聞いたガゼルヴィードの名前は過去のものだろう。
ガゼルヴィード家が爵位を賜ったのは初代様の活躍があってこそだ。王国騎士団の初代騎士団長になったお方だからな。
最近だとミリーが生まれるまではお爺ちゃん以外に突出した天職を授かったこともなかったし、ずっと落ちぶれ貴族なんて言われていたけど。
「金級騎士の子女がいらっしゃると聞いたことがありますが……申し訳ないが、アリウス様の話は聞いたことがありません」
「あはは。まあ、そうでしょうね」
「あの、何かご事情でもあるのですか?」
出会ったばかりの人に聞かせるような内容ではないんだが……まあ、隠しているわけでもないし構わない――
「レミティアさまああああぁぁっ! リディアああああぁぁっ!」
すると、このタイミングでどでかい声が森の中に響き渡った。
「バズズ!」
「お爺様!」
名前を呼ばれていたから分かっていたが、二人の知り合いのようだ。
「あぁ、ご無事で何よりです、レミティア様! リディアよ、よく守り切ったな!」
「あの、お爺様!」
「こちらの、アリウス様が、助けてくれたのです!」
突如として現れたのは、リディア様と同じデザインの鎧を身に付けた白髪老齢な男性騎士だった。
ガタイも良い男性騎士が二人の肩をバンバンと叩いており、言葉を発するのも大変そうに見えるが、あれは大丈夫なのだろうか。
「おぉっ! 助かり申したぞ! 儂はバズズ・クロムエルじゃ!」
「……ア、アリウス・ガゼルヴィードで――」
「ガゼルヴィードじゃと! では、ユセフ・ガゼルヴィードの孫か!」
「……お爺ちゃんを知っているんですか?」
バズズ様の口からお爺ちゃんの名前が出てくるとは思わず、俺は驚きに目を見開いた。
「知っているも何も、騎士団時代は共に戦場で並び立った戦友ですな!」
「私たちは色々な領地を巡っているのですが、今回はバズズの提案でガゼルヴィード領に足を運んだのです」
「ということは、村に向かう途中だったのですか?」
「そうなのです。……あの、アリウス様。もしよろしければ、私たちをナリゴサ村までご案内していただけないでしょうか?」
あー……それはさすがに難しい。
俺が考え込んだせいか、レミティア様は心配そうにこちらを見ている。
「……実は俺、騎士職の天職を授かれなかったので、つい先日で勘当されたんです」
「「…………ええええぇぇええぇぇっ!?」」
事実を知ったレミティア様とリディア様が驚きの声をあげた。
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