594:お母さん?
(これが……愛、しかも恋愛の方ではなく……なんていうか、母性本能……いや、親が子を思う無償の愛というヤツなのでは無いかと分析する)
親?
(支離滅裂なのだ。システムの構築順や構成、さらに各ユニットの接続の方法、流れ……伝わってくるメッセージが。一貫性がない。行き当たりバッタリに近い部分が多数感じられると思うと、論理的で理路整然とした部分が後から追加されていたり)
親の子供を思う気持ちっていうのはそういうモノなのだろうか?
(そう……だと思う。まあ、私は万里と一緒に居た数年しか、しかも万里と万里の親、そしてその祖父母達との関係でしか判断出来ないが……万里も、子供もイロイロと悩んでいると思っていたが、育児を行っている彼らも……沢山悩んでいた)
(そうか……)
(特に万里の母親は、父親と自分を比べて、お互いの欠けた部分を必死で補うように行動していた。万里は……村野から得た現代日本の若者情報と比較すると、凄まじく良い娘に育っていると思う。少々向こうの世界の古典的なオタク傾向が強いが、それは厨二病に至るまでに私という未確認不確定生物に出会ってしまった結果だと思っている)
(そりゃぁ……なぁ。小学二年生で、世界の不思議を詰め込んじゃった様な存在が「居る」ということを認識しちゃえば……そうなるか)
(ああ。にも関わらず。私を友とし、それ以上何も言わず。名前を付け。すくすくと成長していた。私は……ああ。そうだ。この迷宮システムの気持ちを知っている。万里の親から感じていた思いだけではない。私自身も……彼女の友であると共に、親のように、彼女が育つ有様を……好ましく。好ましく。ああ。愛おしい……と)
(そうか)
(我が儘なのだ。私は万里さえ、彼女さえ楽しく、幸せに、笑顔を浮かべてくれさえいれば、それが至福だった。彼女のうれしそうなシグサガ、そのヒョウジョウガ、ワラウ直前、ほんの少し右のコウカクガ上がる、その瞬間がたまらなく、スキダッタ)
なんだ? しょごたん、ショゴスの意志と……何かが混ざり合ってる?
(ああ……そういうものだ。この迷宮システムは、そういうものの、もっとスゴイ……私の様なここ最近自我に目覚めたモノの思いなんていうちっぽけなものではなく。何十何百何千何万。いや、何億、何兆という下手すればすぐに意識を失ってしまいそうな永劫の回廊を行き続ける中に生まれた、そして蓄積された思いから生じている。というか、それでしかない)
そうなのか。というか、どういう思いなんだ。壮大すぎてわからん。
(村野……)
(ん?)
(これを作った女神は……お前の母親ということなのか?)
(いや……ちが……うと思うぞ? 母さんは……ちゃんと人間だったし、もしも神なんだというのなら、パン屋でケーキは作らないし、さらに、爆発事故であっさり死んじゃったりしないと思うんだよな)
(ああ、ああ……そうだな……すまん)
(いい。気にしてない)
だが、でも。確かに。母さん、ママの……俺に対するイメージは……漫画を読んだり、アニメを見たり、動画を見たり、TVゲームを遊んでいるよりも……朝~晩まで一日中、ロゴブロックで、自分の考えた「何か」を作り続けている保育園、幼稚園、小学校低学年の頃で止まっていたかもしれない。
オタク的な趣味に走るのは、母親が働き始めて、一人で留守番が出来る様になって……からだった。
(……大丈夫……か?)
なぜか、なぜか、理由は分からない。涙が。止まらなかった。確かに、確かに、俺はロゴブロックでも遊んでいたが、父親や母親と一緒に、その当時流行っていたTVゲームも楽しく遊んでいた。
そうだ。迷宮システムの……あのジョブチェンジの流れや、ポイントの貯め方、それに、レベルアップのタイミング。
シロの簡単な説明だけで、簡単に理解出来たハズだ。
あれは、あれは。俺が、遊んだことのある、あのゲーム、そして、あのゲーム……有名所、作品のシステムの寄せ集めだ。
全ては、俺を、俺のため……か。俺は……愛されていたのだ。判っていた。そうだ。判っていたが。
(そうだな。無償の愛。それが全てなんだが……だが、当然、何らかの意図もあったと思う。女神が残り少ない神力を注ぎ込んででも、ギリギリのところで作り上げたのだ。何らかの意味が無いハズが無い)
そうだよな……。
(女神は、俺に何かをさせたかった)
(ああ。最初は、手紙という形でコンタクトが取れていたのだから、いくらでも「指令」や「命令」を出せる立場にいたのだ。まあ、そうか、向こうが親と同じ様な感情を抱いていたのだとすれば、村野に、気遣っていた……いや、言い出しにくい何かをして欲しかったのかもしれない)
(それは……何をして欲しかったのだろうか?)
(正直、予想がつかない。非常にコストのかかる迷宮システムを向こうの世界に設置し、誘い出し……異世界転移を行い、こちらの世界と行き来させて……うーん)
俺は……ただ単に、楽しい……娯楽、凄まじいお楽しみが増えた……としか思って無かったな。
(その気軽な……感じが必要だった? 使命とか、世界を救うだとか、そういうことではなく、あくまで好き勝手に……楽しむことが重要だった?)
(どういうことよ?)
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