593:基礎訓練
しょごたんはさすが、出来る正体不明の神敵。こちらの予想を超えて馴染んできている様だ。
「自分で身体の制御が出来ないのは大変だろうな」
「病気にな、ると、シミジミ思うってヤツか」
みるみる滑舌も良くなってきている。
身体制御は出来るようになると一気にイロイロと出来るようになるらしい。腰回りの制御と同時に、腕、脚のバランスを取って寝返りを打てるようになったと思ったら、すぐに身体を起こしてしまった。
ただ、ここから、二足で立ち、歩行を行うにはかなりの努力を必要とするそうだ。圧倒的に経験値が足りないということか。
神経回路の自主形式生成から始まっているため、しばらくは腕の力で生活しなければなないという。
(松戸と森下はメイドとして優秀過ぎる。寝たきり状態でも、完璧に対応されてしまう。それでは最低限の筋組織すら生成されにくい)
と、言って、自分でイロイロとやり始めた。腕の力だけで椅子に座り、食事も始めてしまった。
さすがにスプーンでスープと、パンを齧る位だが、あっという間に箸も使いこなしそうだ。
(ん? そうか。この身体はこっちの世界産だった)
(どういうこと?)
(これが……魔術か)
うお。指の先に、小さな火が揺れている。俺のように、迷宮システムがバッチリサポートしてくれたワケではない。こいつ……瞬時に魔力の在処とか、通り路とか、発露とかを完全認識したって事だろうか?
(というか。この身体は細胞レベルだとイロイロと混じっているのだと思う。ベースは人間だが、魔術的な肉体装置、素養はエルフ仕様だな。万里には一切無かった、魔素が身体中を巡っている)
まあ、そりゃそうか。魔力あるよな。魔術も使えるよな。でもそんなすぐにはどうこうできないと思うんだけどな~チートか?
もしかして、しょごたんが主人公だった……のか? 異世界小説的に。まあ、俺が主人公だとギスギスしすぎちゃうからなぁ……向こうの世界の影の支配者的な一族郎党、粉微塵にしてぶっ殺してるし……。こっちでもな~容赦無いしなぁ。なんで心が壊れそうになったりしないんだろうか。平和の国で育ったんだから、その辺弱いはずだよね?
「魔術もいいけど、まずはさ、言葉と、行動制御系を完璧にしないと」
「そう、だ、だな」
(繊細な行動の方が難しいし、抑制するポイントが掴みづらい。なんとなく魔力を使って術を行使する……いや、魔力を使用して、身体制御の補佐をさせることも可能な気がしてきた。うーん。さらに……ドバーンドカーンとやるのはスッキリする気がする)
「くくく……」
(うん? オカシイか?)
「しょごたん……スッキリというか、それは繰り返しコツコツと同じ事をするのにストレスを感じてるってことだぞ?」
(そうなの……か? そうだな……)
(これまで、一度も……そういう感情を抱いたことは無かっただろう?)
ショゴスのスゴイ所は人間では考えられないレベルでトライアンドエラーを繰り返せる所だと思っている。今まで……文句も言わずに地味な作業を続けて来たからこそ、神の作り出したシステムの解析が可能だったのだ。
(ああ……そう、だな)
(多分肉体に引っ張られてるんだろうな)
(今も私の主要部分の六割以上は……以前のまま、ダンジョンシステムの解析、神力エネルギーの回復に費やしているんだがな)
(たった四割にすぎない要素なのに、それだけ影響力が大きいんだよ。肉体を伴う感情っていうのは)
(そうなのかもしれない……村野、ありがとう……)
(ん? どした?)
(何者かも判らない……それこそ、神敵とまで言われ、敵対存在として認識された私に、様々な事を任せてくれて……そして、機会を与えてくれて……いや、肉体という物質をプレゼントしてくれて、ありがとう)
おうおう。もの凄い素直。そして真摯。人として好ましい道徳観。
(俺がやってることはその場その場で適当で、流れのうちだから、気にしなくていいよ)
それこそ、ダンジョンシステムの解析なんて……ショゴスにしかできない。
俺も感覚としてほんのちょっと……神力とか龍脈とかを感じることはできる様になってきた。温泉に入っていると、なんていうか、感覚が溶け出していくような感覚は味わえている。龍脈近くから引かれている源泉掛け流しは何かしら繋がっている気がする。
けれど、レベルアップ不可能な現時点では、俺のパラメータの伸びは完全にこの世界に合わせられている。どう考えても、しょごたんレベルで、成長し、女神の作品である迷宮システムにアクセス出来る様になるとは思えない。
こっちに戻ってきて……それなりの時間があったにも関わらず、こんな感じでは、俺だけなら手がかりに、手が掛かっていなかっただろう。
(まあ、そんな新しい体験がしょごたんの新規刺激として各種感覚を鋭敏にさせて……良い方向に向かってくれるとうれしいかな)
(ああ。なんていうか……正直、ちょっと違う感情というか、感覚が身に付いてきている気がする)
ん?
(制作者……その、女神の……がダンジョンシステムを作成した意図……とか)
どういうこと?
(未だに私がアクセス出来ないブラックボックスが点在しているシステムだが、これは、少ない神力でどうにかして判りやすく、効果絶大で、楽しく、前向きにアクセスしてくれるか? が詰め込まれた結果では無いかと思う)
(そうなのか?)
(ああ……何よりも、これの作者は、使用する者が「楽しく、自分の意志で向き合える」様にしたいと考えていた。そのため、たまに残されているコメントの様な痕跡から「○○というゲームの××っていうシステムで喜んでいた」とか「転職できる職業が多い方が楽しいと言っていた」……なんて感情が伝わってくる)
女神は……まあ、俺のことを思ってこのシステムを作ってくれてたのは何となく判っていたが……なぜ、そこまで? とも思う。
母が女神の関係者なのは間違い無いが、そこまで深い関係だったのだろうか?
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