591:制服着用

 とりあえず、現状はベッドに横になったままだ。目が見開き気味なので、適度なまばたきをすることを提案しておいた。


(しょごたんよ……いつの間にか服を着ているのはいい。いくら二次性徴前の中学生女子とはいえ、全裸はいたたまれないからさ。恥じらいは必要だと思う)


(うむ。裸は恥ずかしいのだ。特に男子には見られてはならぬ)


(だが、なぜ……中学生の制服なのか……これでは俺の趣味の様でスゴく嫌な予感がする)


(ぬ。すまん。特に意図はない。万里の制服……で、いちから再現した服はこれだけで、トータルコーディネート、洋服のデザイン詳細、生地の成分分析、生地感覚、触感をコピーしているのはこの私立史央中学制服一式のみなのだ)


(アレ? そういえば、万里さんを本人と遜色なく動かせてたのに、そのデータは生かせないのか?)


(自分が産みだした万里と……この人造人間の肉体は……根幹が大きく違う。細胞の形状や内容が違いすぎる。正直、この人造人間と万里……人間の身体を細かく比較すれば、生き物としては……別モノだ)


(そうなのか……外見は同じ様な感じなのに)


(それこそ……)


 髪の毛の色が黒から、一瞬で蛍光の赤に変わった。


(うおっ)


 蛍光青、蛍光黄色、緑……グラデーションと共に変色が続く。まるで……ゲーミングパソコン的な。


(と、まあ、髪の毛の色、瞳の色を変えるのは非常に簡単に行える。特に瞳色は……顔の印象を左右する最大のポイントなので大きいな)


 確かに。瞳の色が……白く変わった。なんていうか……人間ではない、別の生き物の顔をしている。瞳全体が黒に……変わる。これまた……悪魔というか、明らかに違う何かになった。これで髪の毛を奇抜な色にしたら魔物と言われても納得がいく。


 少なくとも、魔族よりも遥かに人間からかけ離れている。


 両腕を……上げて……ゆっくりと肘を曲げて、手首を回し、各関節の緩みを確認していく。


(こまかいストレッチ……ああ、立てる様になったら、ラジオ体操とかも良さそうだな)


(万里は小学生の時、夏休み毎朝早起きしてスタンプをもらいに公園に行って体操してた。スゴく楽しそうだった)


 ああ、あるね。


 しょごたんが寝転がったままで……ゆっくりと……全身の可動域を、確認するようにストレッチしていく。ほぐしているのだろう。細かい関節の動き、軋み、回転、歪みを……付け加えているようだ。


(各関節の可動域は若干……人間よりも若干大きい様だが、かなり忠実に作られているな。腱や軟骨の細かい構成まで新たに再現している)


(新たに?)


(ああ。さっき、万里の操作が役に立たないと言ったろ? 万里の操作がハンドル運転だとしたら。この身体はキーボードで操作している様な感じだろうか)


(つまり?)


(慣れれば、万里を操っていた時よりも細かな、しかも素早い動きが可能だと思うが、慣れるまでが大変そうだ)


 それはそうだろうな……。動かし方の基礎の基礎が違うんだから。


 コンコン


 ノック音。


「どうぞ」


「御主人様、本日のっ!」


 松戸が固まった。あ。そうか、まあそりゃそうか。髪の毛が緑の瞳の色赤い中学生女子が学校制服で寝転がって腕や脚を変な方向に曲げている。


「あれ? 貴子さ……どうしたん……ええ!」」


 ドアを開けっぱなしで声を詰まらせた松戸に驚いたのか、森下が部屋の中を覗いて予想通りに声を上げた。


「何これ、なんです、これ、というか、この娘はどういう? っていうか、制服? あれ? 髪の毛の色があれ?」


 髪の毛の色はグラデで紫に変化している。


「ああ。今日から一緒に生活することになる。しょごたんだ。よろしく」


 しょごたんがぎこちないスピードで顔をこちらに向けて頷く。挨拶……な感じだろう。


 二人が頭を下げた。


「名前からも判るとおり、ショゴスが人造人間=ホムンクルスの魂となった、憑依した結果が、このしょごたん、だ」


「うっひょーー! しょ、しょごたんすか! しょごたん! え、え、ショゴスさんは男の子じゃなかったっていうか、ああ女子でもおーるおっけー、そうか、万里さんの制服ですか、これ! っていうか、ホムンクルスって一体全体どこで作ってたんすか? ちゅーか、御主人様良く、そんな時間ありましたね、これって何十何百と失敗作を試作して、試行錯誤した結果完成するモノですよね? あ、そういえば、腹黒の宰相さんからお宝もらったって言ってた、アレですか?」


 相変わらず、森下のオタク的理解力は高い。そして最適解に至るまでも速すぎて、驚愕するわ。オレには直で判らないヤバイ所とかを簡単に乗り越えてくるからな……。というか、普通は松戸の様に絶句から始まる感じだと思うんだけどなぁ。


「ほうほう。なんていうか、もう、素敵ですよー造形美造形美。黄金比率ですかね。この素体作成者は腕利きですねぇ。フィギュアフェスとかで一日出品すれば確実に数千いけちゃうブランド系ですな!」


 ですな! じゃねぇよ。


「というか、髪の毛の色は可変ですか! あ。め、目の色まで! なんという、なんというレイヤー羨望の擬体仕様! 身長とか、体形とかの変更は? どうなんですか?」


「いや、それは無理……だと思うぞっていうか、さっき魂が入ったばかりで、喋ることすら覚束無いっていうのに」


(……慣れていって……魔力っていうか神力が蓄積されれば……そして私自身の力も充填されればそういったことも出来る様になるかもしれない。あくまでこの身体を中心に行われる振り幅の範囲で)


(え? そうなの?)


「パワーが充填されれば、いつか出来るかもしれないってさ……」


「なんと! さすがしょごたん! こりゃもう、美少女レイヤー最強伝説のスタートですね?」


(レイヤーっていうのはコスプレイヤーの略だよな?)


(万里ちゃんの趣味にレイヤーってあった?)


(ない。でも憧れてた……)






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る