589:新規案件
【倉庫】から何時手に入れたか良く判らない白い布……シーツかな? これ、俺が入れたんだろうか? カーテンじゃないよな? を取り出して「彼女」を包む。
全身が白い彼女は……なんていうか……希薄だ。入院患者……とかそういうレベルじゃない。なんだろう。今にも消えてしまいそうだ。
(これが魂がない状態……そもそも、現世に繋ぎ止めておく何かが足りない感じなのかな)
(確かに……というか、これは、この培養槽の中に入っていることが判らなかったのも仕方ないというか……自分の能力では無理だな)
(大丈夫。少なくともこれを最初から認識して理解出来る者はそうそういないよ)
ショゴスの【気配】、魔力や神力なんていう精神的なエネルギー察知能力は俺なんかよりも遥かに上で敏感だ。それこそ、高度5000メートルくらいで高速移動中に新規で発生したばかりの小さな迷宮の魔力に気付けるのだから。
(そうだろうか?)
(ショゴス、この実験体……の体組成をサーチしてくれるか? どういう状態かも)
(もうやった。普通に生命体だ。そこから取り出された実験体と判っていなかったら……そうだな。ベッドに寝かされた状態で見せられたら。意識の戻らない、昏睡状態にある特異な患者と判断したかもしれない)
(……つまり、肉体には欠陥がない?)
(無い。私の判る限りだと通常の人間と変わらない。つまり、この世界の過去の住人は肉体の再生、クローン化に成功していたのかもしれない。ああ。心臓部に違和感……魔石か? これは)
それはそうか。魔力的なモノを発せられないと不具合が多そうだしな。
それにしも、少なくとも、再生医学はバッチリだったんじゃないだろうか? そもそも、癒術とか薬草、ポーションも存在する世界なんだから、難易度も違うよな。
(まあ、ショゴスに判らない欠損であれば、生きて行くには問題無いしな。しかし魂がない状態ってヤツか……特異なっていうのは?)
(もの凄く細かく観察してみると、徐々に弱体化している……保って数十日といった所か)
まあ、そりゃそうだろう。昏睡患者みたいにブドウ糖とかを点滴処置することで延命することが可能なんだろうか?
(そうだな……その考え方であっている。と思う)
ちょっと待て。俺、これと同じ状況……を知ってるぞ? そもそも、分解したかの様な状況の肉体を再構築した得体の知れない何か……を。知ってる。
(ショゴス……お前、この身体の魂になれないか?)
「!」
(そ、それは……)
(お前が何かとか、そこに魂があるかとかそういうのはもう、どうでもいい。純粋に……君が万里さんにした時と同じ様に、この肉体を操ることは可能だろうか?)
(……この肉体の……その人権的なモノは……)
(大丈夫だ、ショゴス。そもそも、今、現在、目の前にあるこれは、生物と呼んでいいか悩ましい物体でしかない。ここに……仮初めでもなんでも、意志の力が加わって初めて、形を為すんじゃないだろうか?)
(そうだろうか……)
(ショゴス。都合の良いことに、この肉体年齢は万里さんと同級生くらいの年齢……じゃないか?)
(!)
(普通に……普通に友達になれるかもしれないぞ?)
(そ、それは……やってみる……)
お。その気になったな。うん、多分……多分大丈夫だ。ショゴスならいける……はず。
ぴく……と。肉体全体が震えた。目が開く。
「あ……」
黒目がこちらを見る。
スッ……と。色が……着いた。髪の毛が黒くなり、肌が……日本人の肌に近い色に変化する。血管が浮き、体毛が見える様になり、喉が鳴る。
「ご、れ、ごごごごごごっ」
(くそ。上手く操れない……万里の肉体とは……大きく何かが違う)
まばたきが多いか?
(焦るなショゴス。大丈夫だ。ゆっくり。当然個体差があるし、さらに、こちらは元がちゃんとあった万里さんと違って……多分人造だ。勝手が違うのは当然だよ)
(そう……だな。まあ、そうか。村野とは声帯を使用しなくても、意思疎通は可能だしな)
というか……マジか。魂の生成方法、定着方法といえば、ホムンクルスの最終過程として途轍もなく難しいと言われている分野だ。まあ、向こうの世界の錬金術士の情報だから、妄想にも近い研究なんだろうけど。
それをこうも簡単に……神様の為す分野を……って。
そういえば……ショゴスは神敵だった……か……。何度言ってもシロがずっと危険視、敵視してたもんな。
つまりは神敵、神と敵対できるレベルの能力を秘めているからこそ……神の作り出した創造物である人間を生み出す事も出来るということだろうか?
「お、動く……のか?」
「ゆ、つくれと、ぞ、れ、なりに……」
ピクピク痙攣していた筋肉が……ゆっくりと……まとまり始めている。
腕を動かし、力を入れた様だ。寝かせていた半身が起きる。
(はやっ! はやすぎないか?)
というか、リハビリとかそういうのって、最短でも数週間は必要なんじゃ無いの?
(さすがショゴス優秀……)
(そう……だろうか)
「どう考えても既に思い通りに動かせてるだろ……新規の肉体……いや新規生物の進化過程ってことだよな、これ。オカシイって」
「じゃ、ん、とじゃべげてがい」
「ちゃんとしゃべれてない、な。うん、確かに声帯の動かし方には慣れないとだけど、別にそこは問題じゃ無い。慣れか、今後のリハビリ次第だろ?」
さりげなくやべぇ……これは……新たなる知的生命体の誕生ってことになるんだろうか?
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