586:魔族暴走直前
「ローレシア王国西の諸国……に存在する既に発見されている迷宮以外の「掌握」は……とりあえずこれで終了かな?」
「感知出来る範囲内では、だそうです」
「まあ、新たに見つかったら見つかったらで対処すればいいだろ」
正直、何もしないでいるといきなりクライマックスで魔族との種族大戦争が開始しそうだったので、「訓練」「リハビリ」を行っている。
「まあ、基本、発見されていない、野良の「迷宮」を掌握する事で、御主人様のダンジョンシステムの補填を行いつつ、現在進行形で被害が出続けている
森下はこういう時だけ鋭いんだよな……。
とはいえ、その通り。
俺の我が儘な思想からだと……この手の考えには辿り着かない。
ショゴスは基本、正統派(ちょい闇? 腐?)中学生の万里さんの影響を大きく受けているためか、俺なんかよりも遥かに万事に優しい。24時間なんちゃら的な。イロイロとお任せすると大抵が人道的な行動を取ろうとする。
人間、人族ではないのに。
女神に、神敵呼ばわりされているのに一番善性が強いというね。
やらぬ偽善よりもやる偽善。おっさんになってくると、そんな言葉すら偉大に思えてくる。矮小なんだよなぁ……俺は。
多分、持ち合わせている力ということでいえば、俺はそこそこの力があると思う。というか、現状負け無しだしね。負けたら死ぬから負けられないし。
魔族の軍に正面から対峙して、負けない自信もある。
なので……それこそ、ローレシア王国を裏から支配し、周辺各国を併合。まあ、帝国は軍師も皇帝もあの兄弟がクソ面倒なので同盟でも持ちかけて、戦力の統一を図る。
その武力をもってして魔族との全面戦争に立ち向かう……のが、最上級のやり方だと思うんだけれど。
面倒くさい。
今回、迷宮掌握キャンペーンを行っている最中に、深淵の森を超えて、魔族側へ行き、イロイロと諜報活動も行ってきた。まあ、移動力とんでもないからね。俺。ソロだと。
で。「掌握」した迷宮間の瞬間移動も可能だし。
単純に、魔族側でも大規模
幾つかの「迷宮」を掌握したし、向こう側へ移動するのもだんだん容易くなって
……コミュニケーションを重ねるうちに判った事がある。
魔族は……基本人族と接触することが無いのだけれど、似たような社会を形成している。
言葉や文字を使用し、文化文明を発展させ、専制君主制だけでなく、共和制、大統領制等の高度な文明、社会を形成。
能力だけでなく、理性や情を備えおり、基本はこちら側……人族側と大差なく交渉などが可能……に見えるのだが。
が。一点、人族に対する対応、感覚だけは、正直、異様な壁を感じる。
魔族にとって、人族は愚かで支配されるべき劣等種族であり、それが当然らしい。
それこそ、同族同士であれば、奴隷階級の者と心を交わすことも有りえる様なのだが、人族に対するソレとは根本的な部分で違いがある。
これは正直……なんていうか、生物としての本能、遺伝子レベルでの刷り込み的な違和感を感じずにいられなかった。
人族側から魔族……はそこまででもないんだけどね。
なんていうか……魔族の人族への対応は……害虫に対する嫌悪感に似ているというか。姿形、生活スタイルも似ているのになぜ、その部分だけが……という気がしないでも無い。だが、それが生物としての本能なんだとしたらどうしょうもないことなんだろうか?
と。何度か覆面したままとはいえ、魔族と共に行動するうちに体感したリアルな感触だ。
「結論として、魔族はわかり合えない……と」
「そうだなぁ。人族だしな。俺も」
こちら側に暮らしている知的生命体は基本、人族となる。エルフやドワーフだけでなく、獣人たちも人族だ。
「人族は魔族に対してそこまで上位種意識はないみたいなのもこれまた違和感もあるよなぁ」
「そうなんですね……。私は敵としてしか接触してないので判らないですねぇ。生きてる魔族は捕虜で、全部、首輪で奴隷化しちゃいましたから……例が無いというか」
そうなんだよなぁ。現状でも未だに人族と魔族の大陸は壁によって分断されている。西の大壁の穴は俺が塞いじゃったし、深淵の森も最近はドラゴンだけでなく……あの超厄介な甲殻虫が大量にPOPしているっぽい。
正直、なんかイヤなので詳しく調べてないけど、以前の数倍の密度にはなっているんじゃないだろうか?
魔族があの森を下手に刺激しちゃったせいで、強化されてしまった感じだろうか。大壁も新しいところはブ厚く、強力になってたもんな。穴が閉じた後。
「まあ、それでも、御主人様が言うとおりなんだと仮定すると。確かに、魔族とは全面戦争になる未来しか見えてきませんね……」
魔族は壁を越える、森を越える事に一度成功している。その成功体験がある以上、誘惑には抗えない。
魔族という生物の遺伝子に、人族を奴隷とする……というDNAが書き込まれている。のだろうか?
まあ解り合えない違和感を感じる以上、戦うしかないのだろう。
人族が、自らを奴隷で良いとして……生きるハズがないだろうし。
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