579:女王の旗の元に

 そんなわけで、現在、カンパルラは凄まじい勢いで人が増え、好景気を謳歌している。


 当然、そうなってくると、魔石収集と繁華街を中心に盛りあがるシステムなだけに、治安や衛生面で不安が生じるのは当然なんだが……俺の……というか、松戸のアドバイスを受けたディーベルス様が、先手先手で手早く対応している。


 ちなみに、松戸、森下は俺が不在時に魔族との戦場に立ったのをキッカケに、ディーベルス様を始め、城砦都市カンパルラの幹部陣からの覚えめでたい。

 これまで何度も「領主補佐」的な仕事をしてくれないかと懇願されているらしいが、尽く断っているため、会議の際にアドバイスをするオブザーバーとしての参加だけでもと、俺が泣きつかれた。

 まあ、うん、二人が頷くなら……と相談したら、会議だけ、松戸だけ……という条件でOKした。森下は、そんな会議で役に立つような事は言えそうに無いし、身体を動かしたいんだそうだ。

 で。その会議で松戸は、これからカンパルラで起こるであろう問題各種と対応策を提案していたらしい。


 一番最初に構築しなければいけないのが都市の治安維持だろう。


 集まるならず者、暴れる酔っ払いの対応だ。放置してしまえば、最終的に犯罪組織が生成される。


 守備隊は都市警邏隊と名前を変えて、向こうの世界で言う一般的な警察業務に当たっている。まあ、次男三男や多少ガタのきている老人。さらに元冒険者の「女性」なんていう、本来守備隊員としては雇われない者たちが大活躍だ。

 特に「女性」の隊員は珍しく、非常に目立っているそうだ。こちらの世界は貴族階級社会で男尊女卑……が当たり前というか、基本根付いている。まあ、詳しく話を聞くと、非戦闘系の天職が、戦闘系の天職に「劣っている」と差別されていることに紐付いている。


 現在では……自分の天職を安易に【鑑定】することは出来ないので何となくでしかないのだが、天職という「向き不向き」が存在する事は知られているし、戦える天職が使えるスキルが、非常に目立つため、それが憧れになるのも仕方ない。で。そんなスキルが使えるのは「男性」が多いのだ。

 まあ、単純に、腕力自慢は天職が戦闘系であることが多く、冒険者等になって、戦闘を繰り返す=レベルが上がってスキルが使える様になる可能性が高い「だけ」だ。


 元々、俺の抱えているエルフや、ディーベルス様の元には魔術を使える女性が多い。まあ、俺が【鑑定】した元奴隷の皆さんなワケだけど。

 他都市、国内でも珍しく、戦闘系の職業で活躍する女性が多い……という噂話が広がりつつあった所で魔族との戦争となって、その辺がさらに広域で拡散された。

 多分、女王陛下が戴冠されたのも大きいんじゃないかと思う。ローレシア王国では女性指揮官、女性の管理職がブームとなり、その結果、女性の権利がもの凄いスピードで確立しつつある様だ。


 人口増加問題は。


 国内のあぶれ者……まあ、冒険者が集いつつある、それに伴い様々な人が増える人口増加問題は、放っておくと城壁の外側周辺に新市街というか、貧民窟が増加してしまう。

 なので、西門周辺の森を開墾し、そこに箱形の集合住宅……イメージとしてはコンパクトな団地を建設したという。上下水道はカンパルラで使用している遺跡の施設、魔道具をなんとか延長したそうだ。


 正直、錬金術的に……というよりも、大工的な……えーっと。延長ケーブルで効果範囲を追加し、魔石の消費が多少増えてもOK(好景気だから)とディーベルス様が豪腕を振るった形になっている。


 多分、俺がディーベルス様の側でイロイロとアドバイスしたり、工夫すればもっと錬金術的なアプローチで上手いやり方を発見できたかもしれないが……常に俺がこの都市に居ないと成立しないシステムにもなってしまいそうだったので、これで良かったのだろう。


 さらに、辺境騎士団が王立騎士団に再編されてしまったため、急遽、カンパルラ領騎士団は、他の領よりも遥かに優遇されて創設された。


 これはまあ、本来辺境騎士団が担っていた「特製ポーション」の輸送任務にあたるため……と、対魔族、再度侵攻された場合、最前線となるカンパルラが戦略拠点として重要視されたためだそうだ。


 そして、それに伴い、カンパルラ子爵の更なる陞爵……多分、伯爵を飛ばして侯爵、もしくは、辺境伯となる可能性も生じているという。


 その場合、本来この周辺を治めていたリドリス辺境伯はカンパルラから南。カンパルラ辺境伯は都市周辺から北側、東側、深淵の森の縁辺りを治めることになる。


 まあ、アレだ、女王陛下が国内を押さえた証左ということになるのだろう。


 そもそも、女王陛下は、魔族という奴隷状態の捕虜、魔術士を三千人という、本来であればあり得ない数を確保しているのだ。ローレシア王国の騎士団は近衛等、王都周辺で戦った者達は失ってしまったが、補って余りある戦力だ。


 アーリィの手腕だろう。先手先手の行動で、王党派、貴族派、中立派なんて感じで分裂していた国内情勢は、完全に女王勢力の一枚岩となりつつあるそうだ。


「そこそこの数……ぶっ飛ばした(殺した)みたいですよ?」


 そうか。というか、そういえば。前にアーリィに遭った時……ちょっと煽った感じになったもんな……。魔術士軍団という力があるのに、国内の意見統一が遅いって。


 

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