578:温泉でちゃぷちゃぷ

(過去の情報を確認しないとだが……あの大障壁は既に何度かバージョンアップしている。特に今回、穴が開いたことは緊急対策された可能性が高い。エネルギー消失の履歴を辿る事が出来た)


(え? ということは、今回のシロ消失の……エネルギー不足の原因って……あれ?)


(その可能性が高いと考える。)


 城砦都市フジャナから移動する事、約30分程度(俺の走力で……なので、通常の歩きであれば6時間、半日程度)の位置に未発見の迷宮があったため、ソレを「掌握」し、一気に、魔族大陸の西端、アムネア魔導帝国の北側の森、一番西の迷宮に転移した。


(やはり独特の処理がされているだけで、システム的には人族大陸の迷宮間転移の修正版でしかないし……さらに、こちら側の迷宮の基幹システムは人族側のモノよりも……多分古いな)


(なんだそれ……)


(人族大陸側の迷宮の基幹システム、はOSが幾度もバージョンアップしているのだ。なので、サノブの迷宮のシステムに比べれば凄まじく煩雑で散漫ではあるものの、「まだ」なんとか、人間の脳でコントロールできる、しようと思えるパッケージにまとまっているのだが)


(魔族大陸の迷宮は……うーん。どういうレベル?)


(これで自分の好きなように迷宮を操作できるのだろうか? と思えるくらい未熟というか、稚拙というか、まとまっていないというか。少なくとも……私が迷宮創造主ダンジョンマスターで魔族側の迷宮を掌握したとしても……迷宮を創造したり改造したりしようと思えない)


(ショゴスですら……そうか)


(ああ……あと。魔族大陸も魔力喪失状態なのは、人族大陸と変わらない。にも関わらず、迷宮の数が多いのは何故なのだろうか?)


(あ、やっぱりそうだった? うん、俺もそう思った。地図上に当てはめて考えると、なんとなく高密度だょな)


(計算してみたら、人族側に比べて、約三倍弱。魔族大陸は迷宮が発生しやすいのだろうか? この星全体で、魔力不足なのに?)


 そうなんだよなぁ……まあ、元々、人族大陸の迷宮も「魔力不足中」なのに発生し続けている感じだしな。魔力不足ならそこが止まってしかるべきだろうに。


(正直、その辺の魔力と迷宮の関係を調べようとしているのだが……余りに深くて、混沌としていて、時間が掛かりそうだ。正直、それよりも、サノブの迷宮の復旧の方が先だろうしな)


 と。さっさとカンパルラに帰還して、温泉に浸かりながら、だ。なんていうか、自分で作ったとはいえ、いきなり文化的な生活に戻れる事に感謝してしまう。


 魔族の城砦都市……合衆国とか言うから、なんとなく、米国とか思い浮かべてたんだよなぁ……。うーん。


 カンパルラの方が明るいし、衛生的だし、治安もいいな。以前は……それこそ、俺がここに来た当初は、女子供が深夜に移動なんてあり得なかった。男ですらそうそう酒場から外へ出る事は無かった。

 それが今や、灯りのせいもあって、カンパルラは眠らない都市として賑わっている。

 

 元々、辺境の地、深淵の森も近く、高レベルの魔物が多く生息している。周辺には名前の通った古い(深い)迷宮も多い。


 つまりは、多くの冒険者が魔石を求めて滞在する都市でもあったのだ。


 まあ、一攫千金を夢見た腕自慢のならず者、半端者が集まるのだから、当然の様に賭け事や娼館等の歓楽地域が存在したが、全く足りていなかったのだそうだ。冒険者談によると。


 この地を治めていたリドリス辺境伯はまあ、良くも悪くも真面目で誠実な貴族であったが、力が全てである冒険者という存在を理解もしていたため、その反動で必要とされるこの手の享楽的な商売を迫害することは無かった。

 戦争に兵を出す際に、その領軍に付随する商人や娼館の女娼、男娼は支配する都市に店を持つ者の中から供出される。


 元々、壁によって密閉された城砦都市において、歓楽地域は非常に重要な役割を担っていたのだ。


 まあ、だが。推奨することも無かった。


 それが。LEDランタン型の灯りの魔道具を初めとする、「夜を照らす設備」の充実により、カンパルラの、特にその手の地域のお店は……「24時間営業」が当たり前となった。

 当然、そんな無理をすれば歪みが出てくるモノだが……新領主から下賜される「特製ポーション」で大抵のことは解決してしまう。


 その上、「特製ポーション」は王国中に普及し、富裕層を中心に売れ始めている。当然だが、周辺各国にも出回り始めている様だ。さりげなく、LEDランタンも売れているし。


 現在のローレシア王国のトップである女王陛下は元々、その「特製ポーション」を王都に運送するために作られた騎士団のトップであったのだから、王立騎士団どころか、テコ入れされる領地などには公金ジャブジャブさながら、「特製ポーション」ジャブジャブ状態で投入されている。


 そうなると……ディーベルス様……あ。いや。カンパルラ子爵の懐にはそれに伴う大量の利益が流れ込んでいる。


 魔族の軍による襲撃で、騎士団、都市防衛隊や冒険者の多くを失ったカンパルラは、あっという間に復興し、さらに、かつて無い繁栄を迎えていた。

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