577:宿屋の夜
(つまり、シファーラ魔導合衆国という国は、議会制、大統領制を採用しているため、今後の方針を採択するには多くの時間がかかると)
(そうだな。君主制のスピード感は……求めちゃ酷だよね)
この国は実に共和制というか、民主的なのだ。
宿屋の一室。狭いが個室だ。トイレ付き。シャワーというか水浴び施設は宿の裏手にある。料理が旨く、行商人御用達な宿だそうだ。
(これで根本的な……人種差別が無ければな。というか、魔族にとっては本当の人は魔族だけで、それ以外は亜人扱いなんだよな……)
魔族は、正式には、自分たちを魔人ではなく、真人と呼ぶ。
なんていうか、話をすればするほど、その分断の溝が埋められない。
自分たち以外は全て、言葉をしゃべる家畜扱いというか。
正直、機械ですら……言葉を話し、それを蓄積し、パターン認識して語りかけられた内容に対応できる時点で、人工知能として動作し始める。
そうなると、言葉を理解する生物であれば、そこに「愛着」が生じるのが普通だ。
何を言いたいかと言うと。例え奴隷であっても、言葉を理解し会話が可能な時点で、知性ある生き物同士であれば、どこかわかり合える部分が生じてしまうし、その傾向が強い者が発生するのを止める事もできない。
奴隷制度が魔族にとって必要なシステムなのだとしても、それに反対する魔族が登場するのが普通だし、逆にそういう者が存在しないのが不自然でしかない。
(なんかさ、魔族が自分たち以外を奴隷として……頑ななのってさ……何か操作されているレベルじゃないか?)
(ああ。サノブがそれを考え始めた辺りから、魔力を辿っていったりしていた……正直、まだ詳細は掴んでいないのだが。何か、呪いに近いモノではないだろうか?)
呪い……か。いやでも、【鑑定】は出来ないから詳細は分からないけど、そういう雰囲気を感じない……けどな。
(DNAレベル……生物の基幹部分に刷り込まれているのなら……。どうだろうか?)
そういう? というか、女神の御力……レベルの生体への影響力がある何かがあれば? というか、女神が魔族を作ったんじゃないよな? 確か。その辺詳しく聞いてないな……この世界の成り立ちと、女神と人族と魔族、その他の稀少種族の関係とか……。
(聞いとけば良かったな……シロに)
(そうだな)
まあ、その辺の違和感は良いか。とりあえず、現状だとどこまで踏み込んで調査しても、魔族が人族他の種族を、同列で考える事は無いということだけだ。
そうなると、どうしても……争う道しか選択できない。アレだ、人族と魔族はわかり合えないということだ。
(とにかく聞く耳持たないんだよなぁ~魔族のヤツラ。亜人は奴隷で、奴隷は支配される事で生かされる。その一点張りで)
(ならばどうする?)
各種情報収集で判ったのは、合衆国は、当然の様に、大障壁に穴を開けて兵力を送り込もう、侵攻しようと画策している様だ。
ハーレイ帝国に殴り込みをかけたシファーラ魔導合衆国リエタ連邦軍は消息不明となった。まあ、大障壁の穴を塞がれた時点で連絡等が一切とれなくなっているため「不明」としているだろうが、現実には壊滅し生き残りは帝国で捕虜となっている。
つまり、リエタ連邦軍は軍の大半を失っている……様なのだが。ぶっちゃけ、合衆国は本来、連邦合衆国なんだそうだ。商業ギルドで知らないふりをして聞き出した。
合衆国は全部で十三の連邦で成立している。今回の失敗はリエタ連邦の失敗。それ以外の十二連邦は虎視眈々と侵攻を企てているというわけだ。
(再度穴が開く可能性があると?)
(そこなんだけどさ……情報公開を売りにしている開明的な国にしては、それに関しては何一つ伝わってないんだよな)
(もの凄く曖昧でもいいか?)
え? 情報あるの?
(あの大障壁に開いていた穴を維持するのに、私の一部が担っていた……というのは説明したな?)
(回収したよね?)
(ああ、回収した。その一部、分体……と言えるほどでも無い欠片から伝わってきた情報があったことに、今、こうして話をしていてやっと気付いた)
そこまで前置きしないとな、極小の情報なのか。
(ああ。朧げでしかないのだが、あの壁に穴が開いたのは……そもそも、私がこちらの世界に跳んできたときに……既にそこにあった……様だ)
(どういう意味?)
(分体、欠片が生じたな? それは最初から大障壁の中にあった)
(……弾け飛んだ欠片の転移先が……大障壁の中にいる! 状態だったと?)
(そうだ。ここからは想像だが……私の欠片が魔力、神力の塊でもある大障壁の中にいたとしたら。その力を食い、吸収し、浸蝕することになるだろう。大した時間もかけずに、あの壁に穴を開ける事が可能だったハズだ)
ということは? ということは? ショゴスの欠片が「大障壁の中」に転移しなければ?
(現状、あの大障壁には幾重もの膜が構築されている。さらに中から消化された事を考慮してか、外側だけで無く内部にも膜が生じている。私が取り憑いて……穴を開けようと頑張っても……穴は開かないな。現状所持しているエネルギーの数兆倍レベルのパワーがあれば……もしや? というレベルだ)
……ということは、大障壁に再度穴が開く……ということはそうそう無いのか。
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