575:フジャナ

 門兵……この都市、国でこの兵は何と言われているか判らないな。門を守る兵士に手招きされ、見台の様なテーブル越しに向かい合う。


「なんだお前。アムネア……ってなんで、こんな所に居る?」


 そりゃおかしいよな。幾ら行商人が流通を担っている魔族社会でも、ここまで遠くに足を運ぶなんて……あり得ない。

 というか、飛竜を使った移動手段なんてのもあるのだが、あくまで戦闘用。緊急時の使用くらいで、交通手段としては構築されていない。多分コストが高すぎるんだろう。


「はあ。なんか迷宮で転移罠を踏んじまいましたら……いつの間にかここに。というか、ここはどこなんでしょうか? 出来ましたらお教えいただければ……」


「なんだと? 転移罠……か。まあ、確かにそれでなければ説明が付かんか。ここはシファーラ魔導合衆国、フジナ連邦北東の城砦都市、フジャナだ。しかしそれは……災難だったな。転移罠で……飛ばされた先で死んでしまうというおとぎ話は聞いた事があるが……本当にあるのだな……」


 一部の兵が会話に気付いて、聞耳を立てている。


「シファーラ! というと東の大国?」


「ああ、アムネアは西端の歴史ある……魔導帝国だったか?」


「よ、よくご存じで」


「我が国は、西の各国から開拓を夢見て移住してきた者が多いからな」


「そうですね。十年くらい前、行商人仲間もかなりの数、シファーラに向かいました」


「ああ。この都市にも……確か、クロトア出身の行商人が居たハズだ」


「そうですか。私はクロトア側ではなくて、深淵の森側が縄張りでしたので知り合いは……いないと思いますが……」


「まあ、とりあえず、貴様がここにいる理由は分かった。だが、この身分証はここで更新しておく事を進めるぞ。金はあるか?」


「はい。魔術背嚢を背負ったまま飛ばされましたので……共通貨幣でよろしいでしょうか? 」


「ああ。問題無い。入場料は銀貨一枚だ。身分証があれば、この金は必要無くなる」


「畏まりました」


 銀貨を渡して、通された。というか……うーん。これ、門になってるのか? 門っていうのはいざという時に「閉めて」、敵から中を守るためのものなんじゃないのか? 魔物……あっという間に中の人に襲いかかるだろ。これ。


(なんていうか、遺跡に拘る理由はなんだ? ボロボロだぞ?)


 確かに。フジャナの街並は……なんていうか、森に浸蝕されていた。廃墟に近い。人の往来があるので「死んで」はいないが、見た目的に、遺跡を探索している最中の探索隊……を思いだす。


 あれだ。この光景、こないだの帝国の遺跡、「腹黒」閣下の探索隊を大規模にした感じか。


(お~確かにそんな感じする)


(商人ギルドに向かおう。魔族側では冒険者ギルドよりも行商人の方がネットワークがしっかりしている感じだったからな)


(了解した)


 街行く人に聞いて辿り着いたのは比較的大きめな建物だった。建物の外壁は蔓で覆われていて……なんていうか、時間の経過を感じさせる。


「商人互助会館フジナ連邦フジャナ支部」


 改めて看板を見れば。ああ、そうか。商人ギルドの正式名称が、商人互助会なのは人族側と一緒か。


 比較的新しめの木製の扉を開けて、中に入る。


(おお。なんか、中は……もの凄く新しいな、これ)


 灯りの魔道具で明るく照らされている室内は……作り自体は人族の商人ギルドと同じ様な間取りだ。


(それにしてもリフォーム済み……って感じか)


 古民家に入ったら中が最新のオシャレ喫茶店だったっていう。


(うまい。確かに。そんな感じだ)


 カンパルラの商人ギルドより純粋に建物の大きさが1.5倍程度広いか? 余裕がある作り……というよりも、元々あったモノを利用した結果……だろうか? 


「商業ギルドに御用でしょうか?」


 フロア係……地球、日本の銀行の様なサービスか。スゴいな。こんなの人族側では見た事ないな。


 そういえば……魔族は……魔族に対する対応は、もの凄く丁寧なんだよな……。


 人族を亜人と呼んで奴隷認定し、3K労働なんかを全振りしているせいで余裕があるのだろうか? このフジャナという都市はカンパルラと同じ感じで、最東端の辺境の都市のハズだ。

 つまり、普通に考えれば……辺境=魔物が多く、魔石の生産地として存在していると思うのだが。


「はい、その……私はアムネアという国で行商をしている者なのですが……」


 そう言いながら、商人ギルドの会員証を差し出す。それを手に取り、記載事項を確認した係の人の表情が、驚いた顔でこちらを見る。


 フロア係の人は、所謂事務員と言った感じの服装だ。変に着飾っていないのは街の往来で判っていたが……なんていうか、色味的、オシャレ的にはアムネアの帝都よりも遥かに地味だ。


「アムネア? 確か……最西の? というか、なぜ、こんな東に? 私が言うのもなんですが、ここは東の辺境。シファーラでも「壁際」と言われてる都市の中でも最も外れなのですが」


「ああ、すいません、門番の方にも説明したのですが、迷宮の転移罠にかかり、跳ばされて、気がついたらこの都市の近くにいまして……ここに辿り着けたのは幸運でした」


 なんと……という顔で固まった。最初の驚きよりも遥かに大きい。なんていうか、感情表現豊かだな。魔族は結構クールというか、感情の起伏が見えにくいヤツが多いと思ってたんだが。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る