563:血戦
グバッ!
(ちっまた!)
大きく開けた口腔奥から。一瞬で赤い色が周辺を包み込む。
(ああ、ドラゴンブレスって正面から受け止めるとこういう感じに見えるんだな)
凄まじい速さだ。というか、光を認識する前に既に、効果は届いているんじゃないのか? これ。
事前に【結界】を重ねて用意しておかなかったら危なかった。
(なんらかの不思議な力が作用しているのは間違い無いな)
(人間の科学力や知識で分析出来る事象を超越してるってことだよな……)
じゃなければ、俺はともかく……ショゴスの反応を上回れるハズが無い。
(多分そうだと思う。なんていうか、あのレベルの竜になると、世界の因果に介入できる……とかかもしれない)
……そ、そこまでじゃないとは思うんだが……あれだ、万里ちゃんからの知識はちょっと置いておいてね。うん。なんていうか、地球の歪んだ陰謀論的な不思議パワーの世界の話になるともう、キリが無いから。
(わかった)
(だってさ、世界の因果に介入できちゃったら……あんなにダメージは受けないんじゃ無い?)
(ダメージを受けて、自身がピンチになると、何らかの次元縛が解除されて、能力が復元されるとか)
……それは結構ハードな世界ですね。
(まあ、因果とか関係無く、暴力でぶっ飛ばす、ぶっ殺すしかないんだけどさ。こっちは)
「ちょっと無茶するから、フォローよろしく」
(いや、正直、魔力切れとかで倒れられると、起きろーと声をかけるくらいしかできないぞ?)
「……まあでも、しょうがない」
【結界】「正式」で……
ギシャーーーーー!!!
無秩序な力が……溢れ出す。まだ、こんなに暴れることができたのか……が。弱い。これなら……。しばらくなら。拘束できる……ハズだ。
本当なら、最初から出来れば良かったんだが……あの質量でさらに膨大な魔力量は【結界】で捉えきれない……と感覚が訴えかけてきたのだ。
「ちぃ。抵抗デカいな」
ゲバッ!
吐血。
(サノブ!)
(大丈夫だ。無理をしているのは承知! 自分の能力と交換だな、これ)
巨竜の魔力が……【結界】から逃れようと抵抗しているのが判る。ここまで負担がかかる……のか。一度大きくグバッと! 負荷がかかったが、それ以降の俺の身体的な損傷は小さい。まだいける。
というか、事前にポーションがぶ飲みしたのが効いているのか? もう一本飲んどこう。
グビッといっておく。
さっき失った肩から腕にかけては少しづつ回復しつつある。だが、まだ、本調子じゃ無い。欠損回復には時間がかかる。
というか、多分、あのときダメージを受けた衝撃で、体内にも影響があったのかもしれない。
初めての事ばかりで……くそ……楽しいな。これ。
「乱風風刃」「乱風風刃」「乱風風刃」「乱風風刃」「乱風風刃」「乱風風刃」「乱風風刃」「乱風風刃」「乱風風刃」「乱風風刃」
何重にも。幾重にも。ヤツが粉々になるまで。煙となって消え失せるまで。あらん限りの力を。あらん限りの自分の力を。
ギギギギギギギギギギッギギッッギギッ!
地に墜ちた巨竜を包み込んだ【結界】の内部で、「風刃」大いに暴れ回る。
「ああ。やっぱ、あいつ……魔力、魔術による攻撃耐性が高いのかもしれない」
(そうだな……アレだけの「乱風風刃」も……ヤツを斬り刻むに至って無い。それよりも突き刺さっていた特別製の「石棘」の方が……抉ってないか? あれ)
ああ。
なので。
「石棘」をぎゅぎゅぎゅぎゅと圧縮する。出来上がるのは鉱石と硬石との合間というか、訳がわからない棘が生成されていく。
ガッ! ガッ! ガッ! ガッがガガガガアガガガガ!
出来る端に次々と、突き立つ棘。まあ、ヤツの巨体から考えれば1メートルちょいの「石棘」なんて爪楊枝みたいなものだろう。でも。だからこそ。
抜けまい?
君の巨体は、その巨体から棘を抜く様な仕様になっていまい?
攻撃を仕掛けられている最中じゃ無ければ、魔力を使用して振り払うことも可能だろう。
だが。敵意を抱いた攻撃魔術を、己の魔力で操るためには、篭められた魔力を凌駕して、さらに細心の注意を払いながらの操作が必要になる。
「お前がどんなに魔力を自在に操れるとしても」
「刺さり、破砕して巨体の内部に食い込んでいく、固い石は。侮れないし、扱い切れまい」
ガッがガガガガアガガガガ!
未だ「乱風風刃」が威力を発揮し続ける【結界】に、棘が通過するための隙間を用意する。「乱風風刃」はこの隙間から、さっきみたいに俺を狙えないように、意識を逸らすための罠だ。
ゴゴゴゴゴゴドドドドドドドドドド
重い音。「石棘」はそこまで重くない。飛ばす必要があるので、鋭く軽く生成している。だけど、こいつは特別製だ。さらに……今は俺が空で上。ヤツが墜ちて大地で下。
「くらえぇぇえええ!」
ドンドンドンドンドンドンドンドン!
特別製の「石棘」を、二本、三本、五本……十本単位で束ねて、剣山みたいなイメージで。
穴が開く。魔力によって守られていたであろう巨竜の身体に穴が開いていく。
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