562:地形効果

 火口の地形が変わっていた。というか、火口が大きくなっている。マグマの一部が黒くなっている。


(結構冷えた?)


(冷えたのかも。そこまで大量の水じゃなかったと思うんだけど)


 最初から爆発狙いだったからな。当初の予定よりもかなり良い感じでいってくれたもんだ。


 それにしても風を操作するのはあまり魔力を篭めなくても、結果が大きい……な。いつの間にか視界が大きく開けている。さっきまで熱霧でヤバかったのがあっさりと消え去った。


(まあそうか……風は操作するべき空気が普通にあるものな。それをいじるだけなんだから楽ちんなのも当然か)



(いた……)


 視界に……黒くなった火口にボロボロになった巨体が見える。


 赤き巨竜レッドドラゴンは、赤くてちょっと、もわもわと発光していたのが完全に消え。なんていうか、赤黒い変な塊と化していた。


(ああ、翼は尽く穴が開いて……あ。片足ないや)


 下半身、ヤツの右足、右脚が消失している。尻尾も途中で千切れ飛んだか。


(これ、もの凄い大ダメージ?)


(ああ。羽根はボロボロ。右脚を失い……左腹が抉られている。竜は……自己修復能力、治癒能力が高いんだよな? にも拘らず未だ穴が開いたままということは……ヤバいダメージということだろうな)


 そんなにか。正直、俺に見えるのは黒い塊。さっき巨竜を見ているからアレを竜と認識できていたわけだけど。パッと見た目には黒い岩にしかない。

 さっきの突撃アタックではないが、コイツは物理で殴る系の攻撃に弱いって事なんだろうか?


 ショゴスは魔力から別視点での計測結果を交えて報告してくれる。


(多分、火口の熱や迷宮の魔力を吸収して、急速に回復していると思う)


(そうだな。まあ、そんな時間は与えないけれど)


 さっき……水の前に放った「石棘」はほとんどが火炎噴石に迎撃されたが……それを避けた数十は……確実にヤツにダメージを与えていた。


(というか、あの特別製の「石棘」……とんでもない貫通力だな)


 そう。第二弾で放った「石棘」。噴石攻撃を避けたのは別に運が良かったわけじゃなくて、その「石棘」が特別製だっただけだ。


 巨竜に突き立った特別製の「石棘」は……既に厳密には石じゃない。ぎゅぎゅぎゅと魔力を圧縮して生み出した精鋭は、硬性弾性を伴った半金属の棘なのだ。


(「強化棘」だな。というか、操り難いんだけど、鉱石も土の魔術でいじれるんだよな。多分、高レベルの魔術士……いや、上級天職になれば、鉱物から金属、その辺が簡単にいじれるようになる気がする)


(そういうのをすっ飛ばせているからサノブは強いのだな……)


(なんか隙間を狙ってる感じだけどな)


(というか、世界のシステムの矛楯を使いこなしている?)


 ああ、まあ、そういう考え方も出来る……のかな? いや……あのさ。正直、女神様が……ポンコツ……いや、うん。きっとね、やることが沢山すぎて、下々の者、下々のシステムのバグ修正とか、細かい所には手が回らないんじゃないかな? だから、俺みたいに意地が悪い人間にはそこを付け込まれてしまうという。


(意地が悪いという自覚はあると)


(……まあ、うん、性格が良い……とは思っていない)


(うん。まあ、いいと思う。それ位じゃないと、知的生命体の抱える根源の悪意には対抗できない。そして、無意識の悪意にも)


 お。なんだ。ちょっとぶっ込んできたな?


(それは……)


(ああ。正直、こうしている自分が何者か判らない私に言われても……だと思うが。少なくとも現在の私は、万里に、そしてサノブに、さらに、魔力いや女神や星の神力に大きく影響を受けているせいか、そういう思考が浮かびがちだ)


 まあ、それは成長というのだと……思うんだけどな。


(そうであれば……いいな。万里が成長している様に……私も成長出来ているのであれば……いいな)


(そうだな……というか、まあ、まずはアレだ)


(……死に体……とはいえ。竜は竜だしな)


 ボロボロになりながらも。魔力で自分の身体を支え。赤き巨竜レッドドラゴンは俺を視界に入れ、そして照準を合わせた様だ。


ボッ!


(うおっ!)


 なんだ? いきなり出現した火炎噴石……の様な……ちっ! 竜専用の魔術か? 次の攻撃を仕込もうと意識を向け始めたと同時に!


グバアアアアアアアア!


 凄まじい光。これは光線か。


ジッ!


(ぐう!)


(大丈夫……か?)


 今一瞬の……【結界】を「正式」から「ブロック」に張り替えようとした瞬間を狙われた? というかヤツは【結界】が見えてる?


(ああ、かすり傷……だ)


 右腕上部、肩の付近が……半分炭化している。


 ぶっちゃけ本当に擦っただけなのだ。一瞬遅れたが、ちゃんと「ブロック」で薙払われるのは防いで、火線を逸らした。


(くっそ!)


 ポーションを思い切りかける。そして、飲む。凄まじい煙と共に……治癒能力がフル回転で高まっていく。痛みはすぐに失せた。が。これだけ削られると、欠損部位の補填にはしばらく時間がかかる。


(反応できなかった)


(ああ。世界には……まだまだ……俺らの予想も付かない不思議が溢れているってことだよな)


(ああ)


「そうだよな。うん、そうだ。そうじゃなくちゃな」


(そうだな)


 神をバカにして何か抜かしているなんて、なんていう愚かで矮小な事か。


「だが、それがいい」


(そうなのか?)


「まずはあの、死に損ないにトドメを刺してからだな!!」


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