561:レッドドラゴン
既に彼は戦闘態勢に入った様だ。
火口の奥側……ここからだとかなり距離があるにも関わらず、既に……視線は俺を捉えている。
(ショゴスさん、俺は……なんていうか、壊れているのだろうか?)
(ん? どうした?)
(多分、アイツの方がレベルはかなり上だと思うんだよな)
(そう……だと思う)
(でも何故か? 負ける気は……しないんだよなぁ)
グン。魔力が動いた。
飛翔、空中浮遊、ホバリングする赤き巨竜。
あれ。地上にいる敵を上から一方的に攻撃するやり方なんだろうな。空飛ぶ敵の常套手段、基本戦法だ。
(でもなぁ~)
まあ、俺も。飛べる。
そして。
(飛ぶときに風の魔術を使って、空気の壁に干渉しない様にしてたじゃん?)
(ああ。ソニックブームが起きないとか言ってたヤツか)
(そうそう。それ。でもさ。アレもさ。魔力消費の効率を考えなければ……オレ自身を【結界】「正式」で守るだけでいい。そうすると。普通に衝撃波が発生するワケで)
さあ、力比べだ。ぶつかろうか? ちなみに多分、あいつ……
負担になる空気抵抗は当然の様に軽減している。多分風の魔術でやっている……と思う。
なら。俺の【結界】アタックは効果的だと思うんだけどな。
(頭が悪い戦闘方法だと思うのだが)
(そうだけどさ。これまでで最強だぞ? ぶつかってみたくない?)
(それも……そうか。そうか?)
加速。加速。加速。
どういう処理が為されているのか判らないが、火口上空は凄まじい空気の……乱気流で千々乱れていた。
(多分、火口上空の端は空間がループしている。つまりは)
(加速し放題だなっ!)
加速。加速。加速。
ガボッ! ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
「グギャアアアア!」
グギンッ! ドゴゴッゴッッッゴオオゴゴオオオオ
もの凄い音が響き渡る。重低音。音が波となり、空に浮かぶ俺に震動として伝わってくる。
よし! 命中。
感触としては……固い金属製の扉にぶつかったような感触だろうか? 【結界】越しの感触はいまいち伝わって来ない。ただ、この【結界】のスゴイ所は、俺に一切の被害が及ばないというところだ。
あの巨体が衝撃波でぶっ飛び、大地に突き刺さったにも関わらず、俺自身には微風すら届いていない。
「どうよ。叩き落とされる気分は」
「ギシャアアアアアアアアアア!」
というか、こいつ、喋れないのな。ドラゴンって人語を解する場合が多かったのに。俺の読んだファンタジー小説では。
(現実、現実)
(まあ、そんなもんだよな。所詮蜥蜴の進化系か)
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
火口が大きく崩れた。マグマが覗く、まあ、所謂典型的な火口の端っこが……変形した。
叩きつけられた
さらに。目は当然……死んでない。
(俺の【結界】と……ヤツの魔術障壁? との衝突って感じか)
「石棘」……を百程度……いつもより鋭さを増して自分の周りに浮かべる。
「ヴォン!!!!!」
ヤツの雄叫びが……。
(ちっ! 魔術……なのか?)
雄叫びが形ある……飛礫……いや、火焔弾か。正しくは噴石っていうんだっけか? 炎を纏った岩となって何百も襲いかかってくる。
俺が産み出した百の「石棘」があっという間に消失する。
くっそ! 男は度胸!
【結界】を信じて。俺自身の防御は何も対処せず。再度、今度は……火炎噴石の射程外にお返しとばかりに、五百以上の「石棘」を生成する。
「行けっ!」
そして。「石棘」を風の魔術で加速させる。ここまで空を飛んだり、迷宮を急いで進むのに使い慣れたやり方だ。当然慣れている。さらにショゴスのサポートもある。
既に、俺はヤツの次の攻撃に対して反応し始めていた。
(先に仕掛ける)
極大……これまで使ったことの無いレベルでの「水生成」。俺の持っている魔力の半分くらいを注ぎ込む。さらに「水流操作」でうねりを産み出す。
火口を覆うレベルの大量の水が空中に生成され……それがうねり始める。そこにも力を入れていく。魔力を入れていく。
「この程度の量じゃ火口ののマグマを鎮めることはできないだろうけど」
生成した水を。勢いよく火口に注ぎ込む。
(まあでも。荒々しい炎に、そこそこ大量の水をかけてはいけないよ……っていうね)
一気に。遠方から一気に猛烈な熱を帯びていた火口、マグマに向かって、大量の水が吸い込まれて行く。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
ズゴブァァァァアアア!
空気が歪んだ。激しい熱い霧で視界が無くなる。まあ、俺は【結界】で覆われているから平気なワケですけれど。
風の魔術を使って……こちらも大きく発生させる。正直、水よりも遥かに魔力消費は小さい。
衝撃を伴っていた暴風を、俺の産み出した風で相殺し、上書きする。
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