558:量で押す

 そんな……訓練の大切さを噛みしめながら。優先順序を付けていく。


 右のが一番間合いが近くて、振り被りから自分への到達時間が早い。それを一歩進んで避けた場合、ポジションがそこ、で、軌道修正して自分を追ってこれるのは……とりあえず居なそうだ。


 というとりあえず、三歩先程度まで考えて行動に移す。


 こういうときに数十手先まで読めれば達人とでも呼ばれるのだろうか? やっぱり、経験の差とかっていうのは、こういうことなのかね?


(正直、そういう……今考えなくても良い事をそうして考えられている時点で余裕があるのではないだろうか?)


 ……あれ? そうか。というか、こうして……ショゴスと会話をしながら敵を倒すことが出来ている時点で……客観視できてるということなのか。


 というか、結構前からそんなことが出来る様になってた様な……ってあれ? これが【周辺視】の効果なんだろうか? 確かに……徐々に周りが見えるようになって来ている様な……気がする。


 純粋に……味方を巻き込んだ範囲魔術攻撃……なんてのが無かったので、リザードマン亜種? を全滅させた。


(合計……十八匹か)


(……今後はもっと沢山襲いかかってくる可能性もあるよな)


 というかさ、この迷宮、迷宮創造主ダンジョンマスター……いないよな? オレラの事を監視してて、臨機応変に魔物を仕掛けてきたりしないよな?


(それは大丈夫だと思う……。まあ、最深層へ行かないと最終判断できないけど、正直朽ち果てている……イメージで、過去に構築されていた階層を再現しているだけだと思う。そこに恣意的な意志は感じられない)


 そっか。まあ、生きてたら数千年はここに籠もっていたってことだもんな。さすがに厳しいか。


(この迷宮に、誰かが侵入した痕跡って残ってる?)


(ここに来るまでにそれは何度も精査したが、正直、痕跡を認められなかった。つまり、誰かがこの迷宮に踏み込んだとしても、痕跡すら消え去るほど昔ということだと思う)


 ああ、良かった。冒険者とかが先行してて……とかイロイロと面倒なコトが起こりそうだしな。


(というか、迷宮に入る前にその辺をキチンと調べてからじゃ無いとダメだよな)


(それもそうだな。私も失念していた)


 無駄にワクワクしてちゃいかんね。


 十九階層までは最大で二十匹程度のリザードマン亜種とボム達、火蜥蜴や火炎甲殻虫、ファイアヴァンパイア、バード……が結構仲良く登場し、仲良く消し炭となっていった。


 到達した二十階層。またもボス階層だ。


(火口……か)


(あの溶岩の中へ踏み込むのは……大変そうだな)


(そうだな……。というか、やだな)


 うん、いやだ。奥に火口。その手前にかなり大きな石舞台。そこに並ぶのはリザードマン亜種……が。五十匹弱か。


 結構壮観だ。


 各人様々な得物……片手剣、両手剣、両手斧、短剣二刀流、弓……って感じだろうか? ああ、両手棍持った魔術士、シャーマン系の格好のヤツもいる。


(あれ、明確に隊を組んでる感じするよな)


(各種職業を取りそろえている、冒険者パーティが集まった感じだろうか? リザードマンパーティ)


 なんていうか、当時の冒険者の常識っていうか、イメージが反映されているんだよな。やっぱり、確実にこの迷宮は迷宮創造主ダンジョンマスターいる、またはいた……んだろうな。


迷宮創造主ダンジョンマスターはサノブほどではないけれど、大きな魔力を持つんだよな? 少なくともダンジョンコアの側、深層部にそういう反応は無いな)


(じゃあ。さすがに朽ちてるか……寿命とかあるんだろうし)


 この……戦力をズラッと並べて力を誇示する……っていうパフォーマンスというか、登場方法は、冒険者をガクブルさせるための示威行為なのかな? 


 そして、大勢のリザードマン亜種の奥に、リザードマン亜種大型太めタンク騎士……みたいなヤツがいる。


(ホント、このゲームのボス部屋っぽいの……魔術士にしてみれば先制攻撃の絶好の機会でしかないんだけどな……)


(あの敵は……サノブの【結界】とは違う、魔力的な【結界】で守られている。脆弱なのでサノブの魔術なら抜けると思うが。それに、この場所からあれらを広範囲に狙う事のできる魔術を放てる者は少ないんじゃないだろうか?)


 ああ、そうだよな……俺だって広域範囲呪文を使えるわけじゃ無いからな……。単体の魔術を強引に多数起動させているだけだ。

 

(つまり、アレだけの数を揃えてあれば……数匹討ち取られても大勢に影響は無いわけで)


(そうか。つまり、アレはイロイロと対策をした結果、ああいうことになっていると)


(そうだな。さらに、あのデカくて太い騎士装束のリザードマン亜種は魔力的にそこそこやると思う)


 そうだよな。確かに。巨大な分厚い盾を持ち、防御力が高そうだ。太いし。


「とはいえ。手加減しても意味ないしな」


「石棘」をじゃんじゃん生成する。アレだけ居れば……とりあえず数を放つだけで勝手に当たってくれるハズ……だ。命中精度を追跡しないで良い「打ちっぱなし」状態でいいなんて。魔力消費も激少ないし、なによりも精神的に楽だ。


 ……既に無意識だ。唯々放つだけで良いなんて……戦闘で使える事自体が非常に珍しい。


「ははっ! 爽快だな!」


 目の前に雁首揃えてる彼らは……一体何を考えているのだろうか?


「行けっ!」


 およそ……三百程度「石棘」が。フロアボスのパーティに一斉に襲い掛かった。


 

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