555:本格派

(というか、本格的な……迷宮かもしれない。これは……面倒くさいぞ?)


(どういうことか? というか、そう言いながらワクワクしてないか)


 実は俺はこれまで……本格的な迷宮を攻略したことが無い。そもそも、最初は自分の迷宮で育った(笑)し、こちらの世界に来てから……名前が付けられているような老舗の迷宮には挑んでいない。


 確か、カンパルラの周辺には幾つか有名な迷宮があったが、冒険者の生活を考えて近付かなかった。俺が掌握したのは未発見で、未成熟な迷宮だけだし。


 なので、もしも、本格的な……それこそ、歴戦の冒険者達を誘い込み、鍛え上げ、最終的に飲み込むような……脅威としての迷宮があるとすれば。


(こんな感じだと思ってた、いや、俺が創る迷宮の侵入点はこんな感じにしようと思っていた)


(……そうなのか。やめる? 掌握)


(いや、ここが真の迷宮だというのなら一度体験しておくのは大事だと思うし……さらに、宰相閣下の遺跡でもっと日数を費やす必要があると思ってたからな。松戸達に伝えてある帰還の予定にも余裕がある。ここは挑んでおきたい……かな)


(了解)


 とりあえず、この辺り……入口周辺には罠なんかは無い様だ。廊下の真ん中を歩いて行く。と。


 一線を越えた。


 どこにラインが設定されていたかは判らない。だが確実にスタートラインをまたいだと思う。スイッチが入った気がした。


ズズ……パタ、パタパタ


 トカゲ? か? 廊下の両脇から……複数の六匹の大蜥蜴が……いつの間にか出現していた。ああ、こういうPOP方法もあるんだよな。そういえば。

 そうか確かに、多数、複数の冒険者が訪れる一般的な迷宮の場合、こういう……魔物のPOP方法の方が管理しやすい気がする。誰かが踏み込んだあら敵が出現とか、倒されたら一定時間毎に再出現とか。


 シロが管理していた自分の迷宮だと一度管理室に転移してしまえば、全てがリセットされてたからな。そっちの方が経験値稼ぎやすかったし。


「ファイアリザード……か?」


 赤いトカゲ。いや……背中にトゲが……あんなのあったろうか?


(来るぞ? 魔術……いや、魔力の塊か)


ゴオオオオ!


 複数のファイアリザードが一気に……火を吐いた。慌てて後ろに下がる。良かった。スタートラインを感じた瞬間に、それなりに準備しておいて。

 

(おいおい、ファイアリザードがあんな大きな火を吐かなかった気がするぞ)


(なら、その上位種ではないのか?)


(かもな……名前とかその辺は掌握すれば判るんだから、お楽しみって感じか)


ジジジジジジ……


 くっ。柱の出っ張りの影に身を隠す。おかしいくらい暑い。あ、そうか。


【結界】「正式」。物理的な衝撃だけでなく、魔力的な衝撃、そして温度も遮断する。 


(あっぶねー。最近必要無かったから、必要最低限の【結界】しか纏ってなかったわ……)


(油断禁物)


(おう)


 火蜥蜴野郎には氷魔術なんだろうけど……魔術士のレベルが上がらない現状では当然、使用出来ない。だが。


 水の魔術の「水流操作」を使えば、水の温度を変化させるのは容易い。さらに昔よりも魔術に慣れた今なら。


 広範囲に一気に、一瞬で水を撒く。同時に温度を下げる。


 自ら吐いた火炎を身に纏って、近寄りがたい状態になっていた火蜥蜴が一瞬で凍り付く。


 過冷却水を5センチ程度の板状に広げて、大量にぶちまけても……魔力消費は非常に少ない。というか、ほとんど感じない。


 降り懸かった瞬間に当然、氷に変わる……が。所詮固形化したて、成り立ての零度程度の氷だ。瞬間水蒸気に変化し……多分そのままだったら瞬間水蒸気化してしまう。あの蜥蜴の表皮……油の様なヌメヌメだから……油が跳ねれば爆発も起きうる。


 だが。


バシャンバシャンバシャンバシャン!


 連続して過冷却水の板を落とす。水蒸気が瞬間で冷やされて氷に変わる。変わる変わる変わる。


 繰り返すうちに……過冷却水の板、七枚目か。


 廊下一面が凍り付いた。当然……火蜥蜴も動かない。このまま放置すれば息の根は止まる……ハズ。 


 それにしても「水流操作」……優秀すぎだろ……。


(多分、サノブの能力が高すぎるだけだと思うが)


(まあでも……ごめん。歩きにくいな。凍ってて)


(強力な炎に驚いて……弱点であろう氷で攻撃。それは悪くないと思う)


(ショゴス……やさしいな)


 まあ、そうな。というか、ついうっかり、何となく印象だけで行動してたわ。最近本格的に戦ってなかったし。


 ペタ。


 次の火蜥蜴……が出現した。さっきと同じ様に火蜥蜴が六匹。そして俺に向かって……一斉に口を開く。


ガッガッ!


 うん。最初からこうすれば良かったね。


「石棘」を六本。下から上へ……蜥蜴の頭の中央部分を貫く様に……口を縫い止める様に斜めに貫く。


グッ


 数匹は……口から吐こうとした火炎が体内に逆流し、内部を焼き尽くしたのか……目や鼻の穴から煙が上がる。


(……歩きやすい)


(うん。やっぱ蜥蜴は腹の部分が柔らかい)


(……いや。普通に表皮も貫いてるからな。下から……柔らかい部分を狙わなくても、普通に頭部を貫けばいいんじゃないかな)


 ……そう言われてみればそうか。というか、見た目から蜥蜴の表皮は硬いってイメージがあったからなぁ。


 

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