554:転移のための掌握

「それにしても……その……土人形ゴーレム、いえ、魔導鎧ゴーレムよろいじゃなくて良いのですか?」


 そうだよね。この新区画の一番の魅力は土人形ゴーレム。さらにいえば、土人形ゴーレムよりも高性能っぽい、魔導鎧ゴーレムよろいだ。


(カッコイイしな)


「そちらはお任せしますよ。何よりも、帝国騎士団を急いで強化しなければいけないでしょうし」


「それは……そうですが」


「こちらは……どちらかといえば、浪漫です。古の錬金術士達の夢を追いかける……というか」


 閣下が下を向いて口を噤む。しばらく考えて。


「ええ、そうですね。正直言えば、私もそちらを追いかけてみたい……気持ちは多々あります。ですが。ええ。帝国にはまずは、この土人形ゴーレム魔導鎧ゴーレムよろいの配備が必要でしょう」


「魔族は……再度攻めてくるとお考えですね」


「攻めてくる……でしょう。あちら側、魔族側の社会は人族の奴隷が重要な役割を占めている様です。何故土地の支配を求めていないのに、侵略してくるのか……が非常に疑問だったのですが。今回、捕虜から得られた最新情報によれば……奴隷を大量消費して行う大規模魔術が存在する様です」


「それは……人をエネルギーとして魔術を行使すると?」


「ええ。何でも、古の魔術には、魔族の奴隷では起動しない術もあるとのこと」


「そうか~だからか~」


(アムネア魔導帝国……ではそんな話は聞こえてこなかったな)


(上層部しか知らない……王族だけに伝わるとかそういうヤツじゃないか?)


「なので、魔族がこちら側への侵攻を止めることはないでしょう」


 とりあえず、御褒美……もらう物ももらったので……とっとと、帰ることにした。


 魔道具の二つも何の障害も無くいただけた。まあ、そうなるように、同型の物が多数存在する物を選んだのだ。「腹黒」閣下は錬金術関係に関することは、執着が強い。我慢はしてるみたいだけど。


 なので、同じ物がまだまだ存在する魔道具であれば、問題無い。一点物ならごねてくる可能性は……ともかく、後でグチグチと言われそうな気がしたし。


(よし、んじゃ帰ろう)


 閣下にそう断って、遺跡を後にした。深い森の中だが……適当に距離を取って「飛んで」しまえば何の問題も無い。


(っていうか、そうか。倉庫遺跡と同じにすればいいのか)


 この遺跡に移動する際に、いくつもの……迷宮であろう何かを感じていた。この大森林? の中にも二~三。


 まあ、ショゴスの得意技を教わって、やっと俺も微小ながら感じることが出来る様になって来たのだ。


(ん? そうか。そうだな。ただ……この森周辺の迷宮は非常に反応が弱い。ということは、かなりダンジョンコアが奥にあるんだと思う)


(それは……迷宮の階層が深い、それこそ、99階とか200階とかあるってこと?)


(そう考えていいと思うが……本当は、迷宮の感触は、まとまった形で表示されている。その中でダンジョンコアがどれくらいの大きさに感じるかで、その迷宮の広さとか奥行きが判る)


(んーそれこそ、うちの倉庫遺跡の迷宮なんて?)


(あれはもう、迷宮自体がダンジョンコアと同じくらいに感じたな)


(ほほ~まあ、そうだよな。この辺、太古の遺跡が沢山あるわけで、迷宮もその頃から存在してたヤツが残ってても、おかしく無いもんな)


(ああ、それでもう少し左手にお望みの迷宮だ)


 いやだってさ、迷宮把握しちゃえばここを、記憶点、出入り口として使用できるわけでさ。後で飛んでくるのに比べて便利じゃん。今はまだ、四回分だか五回分しか転移用のエネルギーが溜まっていないけど、魔力、神力漏れは徐々に回復しつつあるわけで。その辺あまり気にせずに転移可能になる日も近いかもしれない。


 そうなったら、世界中に転移ポイントとして、俺が掌握した迷宮があった方が便利間違い無しだ。


(そうだな。転移に必要な魔力、神力は移動距離によって変化しないようだしな)


(そうなのか)


(多分だが……転移は、入ると高位次元帯に移動して、そこから通常界に戻ってくる事で行う。なので、移動の際に神域とでも言えばいいのか。そんな場所を経由しているのだ。距離とコストが見合っていないのはそんな理由だな。正直、システムとしての再現性は低い。なんでそうなるのか、理解の域を超えている。利用者としてはありがたいことだが)


(そうなのか。転移気軽にしてたけど……結構高度なのな)


(当然だろう。本来なら……帝国の転移魔術円陣の様にエネルギーを蓄積するために数年かかるなんていうのが当然なくらいの複雑さだ)


 それもそうか。で。


「ここか」


 木々の合間に、朽ち果てた門が見えた。……かなり立派な迷宮の入口の様だ。

 強固に見える金属製の門扉だが、右端の方がへしゃげて……隙間が生じている。長い年月で太い樹木の根等に圧迫され、歪んでしまった様だ。


 その隙間から、内部に侵入した。


(完全に朽ちては……いないか)


 入口周辺は廃墟同然だったのだが……入ったそこは巨大なエントランス? そして奥へ進む廊下が見える。


 細かい通路などは存在しない。なので、廊下を進む。20メートルも進むと……機能が生きているのが分かった。

 ダンジョンらしい、独特の灯り……灯りの魔道具が点在していて、ぼんやりと照らされている。光の強さとしては40W程度の電球くらいだろうか?



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