553:ホムンクルス
予備の肉体の保存。もしも可能なら。ぶっちゃけ……こちらの世界で、スペアパーツを用意出来るのは大きい。
これ、俺の……細胞……それこそ、指の先っぽを切り取って(ポーションで治せばちょっと痛いだけ)、それを培養して、成長させて、右手が完成したとする。
それを保存しておけば、右手を失った時に複製をポーションでくっ付ければ。
ちょっとした欠損なら回復する上級体力回復薬以上なら、くっ付くよな。多分。
新しい身体に首を付け替えて、自分の首を手に持ったデュラハン的な行動もいける。のか? なんか無理があるか。
正直、保管時の不道徳感とか、イメージの悪さは置いておくとして。俺自身が感じる気持ち悪さも。
(つまり……
(ああ。しかしこりゃ……それなりに成功してたっぽいけれど……完成はしていない感じか。試行錯誤途中……で停まってる?)
この研究室の机の上には紙?(紙だと思っていたのだが、良く見て触ってみると紙と布と……さらに何か特殊素材が使われている感じだ)の資料がタワーを為していた。ああ、向こうの世界でもの凄く見慣れた風景だ。
机の上に置いてある資料、書類……「依り代としての人形に対する実験-第3256-」「命令機能と並列処理に関する複数進化型思考処理魔道具の実装」「魂の在処の選定」……うーん。タイトルだけでもなんとなく何をしていたかわかるが、詳細は読みたくない感じのレポートが幾つも重なっている。
(ということでさ、ここは
(有機?)
(ホムンクルス……人造人間だったかな? あれ……なんか聞いた覚えがあるな。……シロから聞いたんだったか? 錬金術士が創れるようになる物の中にそれが入っていた気がする)
(人造人間……こちらの世界だと人間だけでなく他種族もだから人族ってことか)
(多分さ、多分だけど。人工で、俺達と同じ構造の人の身体を作り出したとするじゃん? 上級ポーションが欠損を修復するのなら、それ以上のポーションをじゃんじゃん使用して、そこから複製を創り出すことは可能なんじゃないだろうか?)
(全身を……創るということか)
(ああ。そして。あそこにある駆体。外見は完成していると思わないか?)
(ん?)
目の前の水槽には……多分、上級以上のポーションで満たされている中に……人の形をした何かが浮いている。黄緑色の液体のせいで、うっすらと……判るが中は良く見えない。
まあでも、俺の錬金術士の天職勘が「これがベストだ」と叫んでいる。間違い無い。これでいい。いや、これがいい。
「これを戴きましょう」
まるでそこに居ないかのように後方に立っていたシミアさんに話し掛ける。
「これ……ですか?」
「ええ。ホムンクルス……人造人間の研究結果……の一つですね」
「畏まりました。ですが……どのように……」
「シミアさんに権限が?」
「はい。先ほど、宰相閣下にはそう言われましたので」
「では」
そのまま。水槽と装置そのまま……【収納】に突っ込んだ。うん。やはり。入った。思ったよりも拡張されている。
(いまの……200㎏以上あったんじゃないか?)
(あったな。これ入れられるかな? と自分に聞いてみたら、いけそう……って返ってきたからさ。入れてみた)
(そうか)
「今のは……魔術背嚢……いえ、魔法鞄でしょうか?」
まあ、ビックリするよね。今の水槽、重そうだったし。
「ええ。一族継承の迷宮産の魔道具です。閣下以外には御内密にお願いします」
当然ですと言わんばかりに頷く。ああ、ちなみにシミアさんは暗い灰色の髪色をボブカット……だったかな? それくらいの長さにしている。
馬車移動の際に長い髪は手入れが面倒くさいという「腹黒」閣下の発言から始まった髪の毛会話の中で、自分でナイフで適当に切っていると聞いた。
あ。思い出した。そういえば。その時、閣下とシャンプーとトリートメントのサンプルをプレゼントする約束してたんだった。
「一応。宰相閣下に、確認をお願いします」
「ええ。判りました」
ということで、閣下が夢中になっている催事場に戻った。
「これください、これ」
一応念のために護衛を下げてもらって。ドンと出してみた。
「こ、これは……先ほどは気付きませんでしたが……もしや。神の領域への実験……ホムンクルス生成の過程……でしょうか?」
「ええ。大いなる禁忌……ですが、錬金術士の最終目標……の途上。失敗作です」
「最終……そういえば、その様な表記が、古文書にあったような。そうですか。錬金術の最終目標は
「まあ、多分……無理なんですよ。錬金術で生命体を創り出す、産み出すのは。ですが、だからといって何もしないのは錬金術士として許せませんから」
「……判りました。これは、約束通りお持ちください。もしも、何か判明したら。お教え願えますか」
「ええ、当然です」
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