552:コポコポコポ

 フェイベルド研究室。ケイマース研究室。……研究室の前のカタカナに見えるのは、人名だろうか。


(中は結構多様……だな)


(……何かあるとしたら……ここか)


(確かに。怪しい)

 

 長い廊下の両脇……多分、二十近いドアの向こうは研究室になっている。これはある程度均等な造りになっており、キャビネットなどのオフィス家具が同じ様に配置されていた。床面積、広さもほぼ同じだ。というか、多分、ユニット工法で創られているので、完全に同じ大きさだろう。


 だが。


 目の前の研究室は場所こそ他の研究室に紛れているのだが、明らかに大きさが二倍……いや、三倍になっている。


 中に入るとその辺が一目瞭然だった。入った場所が二階部分になっている。


土人形ゴーレムの展示場と同じ……造りだが、サイズが違うせいか、印象が大きく変わるな)


 まあ、確かに。でもこの手の造りは……博物館とか水族館とかでも見るな。


(水族館。ああ。そう言えば……)


 この研究室は……ああ、うん。そうか。


 両サイドに階段が作られている。それを降りて下に行く。


(水槽……?)


 目の前には幾つもの水槽の様な円柱が多くの魔道具……まあ、電子機器にも見える……の只中に設置されている。

 

 というか、アニメとか漫画で見たことある風景……人工の生命体を創造しようと頑張っているマッドサイエンティスト達の姿が目に浮かぶ。 


(人工生命体の生成……やっぱりな。土人形ゴーレムの行き着く先は、当然の様にAI搭載のロボットだと思ったんだよな)


 そもそも、錬金術の大いなる目的は金の作成と……新たな命の生成だ。


 金は活動資金のため、さらに言えば、権力者の興味を引き、庇護を受けるための言い訳で、本来は自らの手で命を生み出す事を目標としていたという節もある。


(それは向こうの世界の……漫画とか小説の話しでは無くて?)

 

(ああ、大半は俺の想像なんだけどさ。錬金術は大きく分けて、魔道具と土人形ゴーレム、ポーションの三つに分かれている。で、魔道具と土人形ゴーレムが主流なんだと思う。レシピの数や手の入り方具合から考えて)


(薬師という名の職業でポーションは切り離されていたんだったか)


 魔術の属性のように、生まれつき得意な分野が存在するみたいで、錬金術にも、魔道具、土人形ゴーレム、ポーションっていう分野で得意不得意が分かれている。もしかしたらもっと細かいかもしれない。 


 まあ、需要が多かったのは多分、ポーションだ。魔道具は生活を便利にする物が主になるが、無くてもどうにかなる場合が多い。魔道具無しで生活出来ないような場所で人が営んでいけると思えない。この世界には魔物がいるのだ。熟成された状態ならともかく、手探りで歩んでいる状態で「何か」に頼るのは危険だ。蹴散らされて終了だろう。


 そんな中、ポーションは薬として認識され、傷の治療等で使用されていた。


 魔道具系が固体で、ポーションが液体。そんな根幹的な違いもあるのかなぁ。 


(それにしても……こっちの分野はあまり研究が進んでいないと思っていたんだけどな……)


 巨大な培養槽……の様な大型の円柱型水槽が用意されているということは、この中で、人工生命体を生成する実験が行われていたということになる。


(細胞培養……出来ないかなって思うよな)


 例えば。腕が斬り落とされた……とする。それを……ポーションで治療する。斬り落とされた腕があるのなら、くっ付ければいい。それが出来るのがポーションの不思議パワーだ。


 以前説明した通り、俺の中での体力回復薬の区分けは。


劣化:一般的に市販されているポーション。飲めないというか、飲みたくないよ……。

最下級:ゆっくりと体力を回復する。

下級:それなりに体力回復。

中級:瞬時で体力を回復する。

上級:煙がでる勢いで身体を治療する。抉られた……などの微少 であれば欠損も回復する。


 となっている。


 さらに……現状俺も作れないが、最上級の体力回復薬は欠損回復薬となると思っている。エリクサーは……死んだ人間を蘇らせるんだとしたらちょっと違う気もするけれど。

   

 まあ、そんなポーション、特に欠損部位を治療可能なレベルのポーション液を、斬り落とされた腕、肉体の欠片に与えたら……どこまで欠損は回復するのだろうか?


 実際、軽い実験をしたことがある。弾け飛んだ敵の肉体……指を持ち帰って上級体力回復薬に浸けておいたのだが。若干、指が原形に近付こうとした辺りで、回復停止した。

 試行回数が少ないので細かい事は判らないが、ポーションには効力有効時間が設定されている。封を切り、放置することで……次第に魔力が大気に放出されて、能力が大幅に落ちてゆく。


 炭酸飲料の炭酸が抜けて行く……様なイメージだろうか?


 これ以上は時間をかけてじっくり調べなければどうにもこうにもだったので、大したデータも取れずに実験は終了した。


 単純にポーションに消費期限が存在するということが判っただけでも良かったと思っていたんだけど。


 それこそ、回復薬を常に新鮮なものに入れ替えて、循環させて……を繰り返せば。


 もしかしたら肉体の復元、複製の保存が可能になるかもしれない? と思い始めている。なんだっけ、IP細胞というか、移植用の臓器のクローン培養というか、拒否反応も出ないだろうし。


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