549:魔力カートリッジ

 気になるのは……この展示場、ガレージ。魔導鎧ゴーレムよろいの方がメイン商品……の様に並んでいる所だよな……。


(幕張とか……か?)


(おお。万里ちゃん……オタク気質バリバリだな。あの歳で)


(確か、万里の父親が機械のイベントに出展するとかでイロイロと頑張ってた)


(……それはなんかすまん)


(ん? 何故謝る?)


 次に万里ちゃんに会った時はなるべくフラットな目で見よう。そうしよう。


(この施設は、どう考えても……買い手だか上司だかに披露することを考えて創られている。魔道具も卸売り業者の倉庫っぽいけど、綺麗にディスプレイされてたし。極めつけはこの土人形ゴーレムの展示場? の商品の並べ方、そして見せ方。「新型機種、これはこういう感じです」と説明解説担当者が顧客に……ってああ、うん、なんかイベントを思い出してしまった。それは置いといて。この研究所のパトロン……高位貴族や王族とかに成果を説明していたとか、騎士団に売り込むさいの性能アピールとかをする場所なのは確かだろう。で、そうなると、なおさら。魔導鎧ゴーレムよろいがメインなのか? って疑問が)


(ああ。それは何となく判ったぞ)


(マジデ。速いね。さすが)


(内部機構まで調べ尽くしたわけではないからな。大凡って感じだが)


(それだけでも予想が出来るのはありがたい)


(奥の方に並んでいる土人形ゴーレム。まあ、自立型のロボットだな。これらは単純な命令をこなす事は可能だが、純粋に戦闘用として考えると……圧倒的に遅い。魔力の伝達方法から試算しただけなので……予想でしか無いが、一般的な都市の人族、天職が非戦闘職の行動スピードの範囲内なのは間違い無い)


 ロボットとして考えれば……普通の人の動くスピードと同じくらいで動くならかなりスゴイんだけどな。


(……そうか。この世界……天職があって、スキルがあるんだから、戦闘関係に特化した人族や魔族の性能が尋常じゃなかったな)


(ああ。それこそ、ノラムが鍛える前のアーリィならスピードで圧倒し、その辺の土人形ゴーレムを倒すことは可能だろう)


 いや、アーリィはもの凄く強いに分類されるよ?


(ああ、そうか。ならばアーリィがいた騎士団、辺境騎士団だったか? の……上位の騎士が二名くらいであれば攻略可能ではないだろうか)


(初見殺しの……飛び道具、武器を見切ってからが勝負か)


(関節や鎧部分の弱いところを狙って攻撃を加えればいける)


 まあ、確かに一部の土人形ゴーレムは関節部分が露出しているな。


(その不具合、弱点をカバーするために作られたのが……手前の魔導鎧ゴーレムよろい群だと思う)


(戦闘能力に長けている……天職が戦闘職である者が、中に入って動かせば……ああ、そうか。アレを装備したままスキルも使えるってことか?)


(スキルによって、使えるモノと使えないモノがあると思うが……だが、戦術的には非常に大きな力となるハズだ)


 確かにスゴいな。人のスペックが高いから、純粋な土人形ゴーレムでは、能力が足りないのか。


(多分、その弱点を補った……土人形ゴーレムの研究も行われ続けているな。この並びで行くと、手前が最新型だ。各種仕様が確実に進化している)


 見て歩いているだけでそこまで判るのがスゴイよ……。触ったりしていないのに。


 展示場スペースの奥、扉の向こうに幾つかの作業場が設置されていた。ここで各種整備が行える様だ。


(あ。その、メスシリンダーみたいな魔道具。あまりいじらない方がいいと思う。とんでもなく凝縮された魔力が詰まっている……)


 メスシリンダーて。ああ、まあでも、中学生の理科で使うか。万里ちゃん知識か。んーかなり形は違うけど、電動アシストサイクルの交換用バッテリーみたいな感じかな。これ。


(確かに……これは俺でも判るな。魔力のカートリッジ……か。形状的にこれを乾電池みたいに、土人形ゴーレム魔導鎧ゴーレムよろいに挿入して使用するって感じだな)


(多分)


「宰相閣下、これ、取り扱いは厳重にされた方がよろしいかと」


 作業台の上に無造作に置かれていた魔力カートリッジを手に取って閣下に渡す。


「こ、これは……良く見れば凄まじい魔力を感じるが……」


 うん。閣下も錬金術士だけでなく、魔術士の能力も持ってるっぽいからね。感知出来るよね。


「き、危険では……」


 シミアさんが一瞬、宰相閣下から引き剥がそうとする。


「大丈夫。こうして丁寧に扱っているうちは。ですが、乱暴に……それこそ、投げつけたりしたら……」


(爆発する?)


(……そう簡単には爆発しないが……危険なのは確かだな。アムネア魔導帝国での粉塵爆発……アレ、異常に規模が大きく、拡散したと思わないか?)


(ああ。予想よりも遥かに街が吹っ飛んだな)


(あの時は偶然も重なり、さらに帝都の建物の建材に可燃性の素材が多く使われていたのでは? と結論付けたが。あの大規模爆発は魔力による増幅が行われた可能もあるんじゃないだろうか?)


(魔力にそんな力が?)


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