547:キラキラした瞳

 広さは……本当に日本でよく行った催事場……程度だろうか? そこに、様々な……モビルスーツ……ではないな。


 宰相閣下が作ったという輜重運搬用の土人形ゴーレム=レイバーでもない。


 よくよく観察すれば、そこに並んでいたのはパワードスーツだ。というか、二階くらいから見下ろしているせいでダイレクトにサイズが伝わって来なかっただけで……。明らかに小さい。二メートル弱といったところだろうか? 


 モビルスーツに見えたのは……手前のヤツがそういう形っぽいからだ。頭、兜部分にVの字型の角飾りが付いてるの。黄色い。そりゃ見間違えるって。

 あ。さらにどう見てもギャンみたいなやつもある。肩部分が丸い。その奥にはレイバーっぽい鎧もある……。おうおう。やばい。著作権。意匠権。


 これ、作ったの明らかに向こうの世界のしかも現代日本人だろ……確信犯、パクろうとしてパクっている。


「基本的な考え方は……全身鎧なんだな」


 土人形ゴーレムはまあ、簡単に言えばロボットだと思う。こちらが指示した通りに動く、便利な機械と思えば間違い無い。


 だが、ここに並んでいるのは……鎧だ。所々、鎧が「開いて」、この鎧を人間が身に付けるモノだ……というのを主張している。


「ああ……内部の構造も見える様に……機種毎に一機は開けてあるのか」


 同型の鎧が四機。そのうち一機が開いている。それが……数十……いや、百以上、繰り返すように並んでいる。


(奥の方のヤツは大きいぞ)


 あ。ああ。遠近感でこれまた気付かなかったが……奥の方の鎧……あれは十メートルは超えてるか? 


 天井にクレーンの様な大型搬器も見える。釣り上げて、作業場に運んでメンテナンスも出来るし……訓練場などに運び出すこともできるハズだ。


 つまりここは……展示場兼、倉庫といった感じだろうか? ロボットオタクの浪漫が……詰め込まれた、あの、ガラスのショーケースにガンプラを綺麗に並べている様な……そんな印象を受ける。


 そりゃこれを見たら……当然……。


「これは……凄い」


 閣下はもう……目が……その浪漫で一杯になっている。


 まあ、何よりもこうして見ていて、奥まで良く見えるのもスゴいな。照明がキチンと点灯している。計算された光というか。


(さっきエネルギーが足りなかったのってさ。この催事場の灯りの魔道具を付けるためじゃない?)


(そう……だと思う。こんなに広いと思わなかった。あ。その脇にあるリフトも動くんじゃないかな)


 いま、俺達がいる場所はベランダというか、体育館の全周に付いてる二階通路……キャットウォークとか言うんだっけ? になる。その一部がリフトとして作動しそうだ。


 操作盤なんかが建築現場なんかで使われている簡易乗降装置そっくりだ。スイッチが矢印型で判りやすい。

 多分、下の土人形ゴーレムはこのリフトで、今、俺達が通ってきた通路から魔導研究所の方へ出動することもあったんじゃないだろうか? そう考えると廊下とか天井が人間用にしては広くて高い造りだったと思い返す。


 まあ、危険性は無いよな。


(ああ。さすがにあれらの土人形ゴーレムだか、鎧だかに魔力、エネルギーは注入されていない)


「閣下、下へ降りましょうか。罠や……下手に触らなければ攻撃を受けるようなシステムは無い様ですし」


「あ、ああ。降りれる? のでしょうか?」


「ええ」


 シミアさんを促して、リフトの所まで連れてくる。操作盤で下へ矢印ボタンを押す。


グンッ


 俺の予想していた、ガコン……という揺れや大きな音も無く、いきなり、床の一部が下へ動き始めた。揺れも無い。見事な制御だ。注意を促すための青の点滅灯が下へ降りるよ……という注意を喚起しているくらいか。


「ああ。昇降機……ですか。この廊下の一部自体が。便利ですね……」


 うん、もう、目がね。キラキラしちゃってるよ……。しょうがないか。多分、俺も若干そんな感じだろうし。


「ああ。これは……壮観です、ね」


 確かに。こうして見るとモビルスーツではなく、通常の全身鎧よりも二回りくらい大きい鎧でしかないのだが……ここまで綺麗に大量に並べられると感動してしまう。

 アレだ、お金持ちの知り合いが田舎に作った、旧車の美術館がこんな感じだった。広い敷地……駐車場に百台近い車が並んでいるみたいな。


 ズラッと……並んだモビルスーツやレイバーのパクリデザインの全身鎧達。

 閣下はもう、シミアさんに指示して、ゆっくりと巡回し始めていた。


(ん? 奥の方は……)


 確かに、奥の方は手前のヤツと違う……何よりも、「開いて」いる鎧がない。


「この辺りから自立した土人形ゴーレムなのか」


 奥に行くと、人型……ではない、明らかに荷運び用の駆体が並んでいる一角が目に付いた。


「そうですね……ここには……命令を与えてその通りに動く一般的な土人形ゴーレムと……魔力を糧にして動作する魔導鎧とでも呼べばいいのか、そんな型の土人形ゴーレムが有るようで……いや、主力はそちらかもしれませんね」


 確かに、手前に陳列されていたのは魔導鎧タイプの土人形ゴーレムだしね。それが主流だったのかな。


 あ。閣下がブツブツと……何か考えながら……魔導鎧を触り始めた。


(あれ、大丈夫?)


(大丈夫だと思う。罠があったとしても、エネルギー切れで起動しない。ここに置いてある土人形ゴーレムで動くものは一つも無いよ)


 シミアさんが心配そうにこちらを見てきたので、頷く。大丈夫。罠無し……と目で……伝わったか。


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