545:新区域

「話しを戻しましょう。では、その……資料から何かが?」


「そうですね、あの資料は、ほとんど、宝物庫にある魔道具の在庫一覧ですね。なのでそこからいただく魔道具を選ぶ……ということも可能でしょう。ですが、相談したいのは……その部分では無く」


「……そうでは無く?」


「ええ。何か足りないと思いませんか? あの宝物庫」


(倉庫だけどな)


(そう言うな)


 室内の基本的な形状はうちの遺跡クリソツだけど、確実に豪華な棚が配置されてるじゃんか。もしかしたら、本当に重要魔道具用の倉庫=宝物庫だったのかもしれない。



「……もしや! そうなのです。あの宝物庫には……ポーションと土人形ゴーレムが納められていた形跡が微塵も無いのです。ポーションは元々、薬師の担当ですすから無いのも当然。ゴーレムは……大きさ的にあそこには納められないから……と思っていたのですが」


「ええ。まあ、確かに。その二つの魔道具はジャンルが異なりますしね。で。私が痕跡を見つけたのは土人形ゴーレムです」


「!」


 顔色が変わった。


「痕跡を……つまり?」


「新たな遺跡区域への入口……でしょうかね?」


「そ、それは……」


「ちなみに、土人形ゴーレム……閣下が現在、最も力を入れてる分野でいいでしょうか?」


「……痛いところを突いてきますね。判りました。確実に譲歩いたしますから。ノラム殿。お願いします」


「ならば、その新区域で一つ。いただいてよろしいですか?」


「……問題ありません。兄上もここに関しては私に一任してくれていますし。ただ、自分も……新区域へ立ち入る、その瞬間にそこにいたいのですが……」


「判りました。とりあえず、ここまでの御褒美……二つでしたよね? それを選んでおきましょう。椅子はいつくらいに完成しそうですか?」


「急げば明後日朝には……」


「では、契約書……交わしておきましょう」


「そうですね。はい。私も諦めが付くというものですし」


 新たに……新区域での取り分を確認した。


(もっと要求できるんじゃ無いのか? 今なら)


(うーん。こういうのは欲張らない方がいいんだよ。元々、ここは帝国の遺跡、所有物だ。そこに新しい地下室を見つけた……からといって、通常であれば、発生するのはちょっとした謝礼程度だろう。それこそ……中で大量の土人形ゴーレムが発見されたとして。そのうちの一体をよこせと言っているようなものだろ?)


(あ、ああ。土人形ゴーレム……モビルスーツみたいな?)


(「ガンダム」知ってるのか……)


(万里ちゃん……結構本格的にオタクだったのか)


(ロボットアニメは基礎知識だと言っていたぞ)


(女子で?)


(ああ。パイロットの熱い想いが……と)


 見事に腐り始めている思考チャンネルが。


(まあ、この世界の土人形ゴーレムは……イメージとしてはレイバーじゃないかな。人型の大型建機の進化系)


(そういえば、帝国では土人形ゴーレムは輜重部隊で物資を運搬してるんだったか?)


 二日後。それまでに御褒美の二つは選択しておいた。使用方法が良く判らない、起動方法も不明の魔道具を二つ。まあでも俺の予想だと、小型の通信用の魔道具と、石版に文字等を表示できる魔道具……を戴いた。


(使用方法が判らないのはどうにかなるのか?)


(今はどうにもならないな……。だが、レベルアップシステムが修復して、錬金術士のレベルが上がっていけば……そのうち理解出来るようになる気がする。だって俺はこの魔道具に似た機械を向こうの世界で「知ってる」わけだし。知っている物を再現するのは、結構楽ちんなんだよね)


 朝には、宰相閣下用の浮上椅子が完成していた。彼にはこれに座ったまま、階段を降りてもらう。護衛の騎士達が四方から、支えるだけで、浮上椅子はバッチリ、宰相の身体を運んでくれる様だ。


(エレベーターが動けば良かったのに)


(多分、奥の部屋、「G研究施設」の奥に電源室とか、電源盤とかが設営されてるんじゃないかな? ああいう設備って大抵入口か、奥かどっちかだし)


(発電機……みたいな魔力発生器? があって、それを置くとしたら確かに……建物の奥の方だな)


(ああ。襲撃を受けた場合、一番守らないと行けない設備だろうし)


(うん)


 宰相閣下はそのスピードに、感動で打ち震えていた。これまでは自力で降りてきたり、最終的に騎士に抱えられて……だったそうだ。


 まあ、恥ずかしい……というか、気まずかったかもね。確かに。


「この……この部分が……その、認識装置……ということですか」


「ええ。そこに、許可証をかざします」


「では……」


 宰相が、まずは、ランクⅣの許可証をかざす。


 何の反応もない。ああ、そうか。ここの電源が落ちている可能性もあるな。電源、電気じゃ無くて魔力か。


(大丈夫。時間をかけて観察した結果、そのインタフェース、若干だけど魔力が来ているし、その扉も稼働可能なくらいはエネルギーが溜まってると思う。そもそも、灯りが付いている時点で、非常時の魔力供給システムは未だに稼働中なんだと思う)


「そちらの許可証を」


 宰相に、ランクⅡの方の許可証をかざすようにお願いする。


シッ……


 いきなり。風が起こることもなく、一瞬で……それまで壁だった部分に通路が出現した。


「お、おおお! これは……」


 良かった。チャンと通路があって。扉が開いて。


(いざとなったら、ノラムが魔力を供給してしまえば……)


(そんな器用なこと)


(出来るよ。私が繋げば)


 ああ、ああ。そうでしたね。ショゴスさんはうちのダンジョンシステムの電源部分、魔力エネルギーの供給部分にもアクセスできてますもんね。よく考えなくてもセキュリティレベルで考えれば、同じ様なもんか。



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