544:棚卸しの資料

「このカード……に似たモノは発見されていませんか?」


「これ……ですか。……ございます……ね。様々な種類のモノが発見されております。この施設の会員証、現代の冒険者カードの様な物では無いかと閣下がおっしゃっておりました」


 やはり。なら、閣下はもの凄い種類の許可証を所有しているってことか。


「それって見られますか?」


「閣下の許可を戴けば可能です。その辺の重要物と思われる遺物は、入ってきた入口脇の大広間に保存しております」


 ああ。確かに……あそこ、大きなスペースあったし……ちらっと見た時なんか並んでたな……。


「この宝物殿の階層はまだ、閣下の詳細な調査が終了しておりません。なので、存在する遺物はなるべく動かさない様にとの指示がありまして」


「ちょっとこのカードを持ち出して、閣下にお話を伺って良いでしょうか?」


「畏まりました。ノラム様に限り、全てを許可せよと言われておりますので」


 なにそれ、なんか怖い。「腹黒」に言われると超怖い。


 階段を登って地上に戻る。


(諸々強化されてる俺はともかく……訓練してるシミアさんはともかく、閣下は厳しいだろ、これ)


(そうだな。階段……どうしてたんだろうか。厳しくないか)


「シミアさん、この階段の上り下り、宰相閣下も?」


「はい。どうしても行くと。さらに最初は自らの足で。さすがにしばらくして、自分が足手まといになっていると気付かれて、騎士に抱えさせましたが」


 ……あれ? この人もクルセルさんっぽいというか、宰相に厳しいな。


「速かったですね。あの量の魔道具を見てしまったら、数日は引きこもる可能性も考えていたんですが」


「ええ、確かに圧倒されましたねぇ。ですが、隣の部屋に資料がありましたし……」


「! そ、それは……」


「ええ。ちょっと話ができればと」


「判りました。野営馬車の方へ」


 閣下は数人の職人らしき男達と「和気あいあい」な感じで、浮上椅子を製作真っ最中だった。


(なんだ、楽しそうだ。あんな顔も……っていうか、「腹黒」閣下の本当の意味で生きるっていうのは、そういうことなのか)


(そうだな……職人と話している普通の笑顔だった)


 なんだ、結構良いヤツじゃ無いか。まあ、許さないけど。


 野営馬車はこういうときに凄まじく優秀だな。当然の様に「隠蔽」「結界」の魔道具が起動している。「結界」には当然、遮音効果なども含まれていると思う。


(ああ、結構高性能だと思う)


「魔道具は中に人が入ったことを感知して、自動で起動するようになっています」


 確かに密閉度の高い会議室として活用するのもアリだよなぁ。何よりも、野営や行軍等の野外ではちょっとした機密を要する話し合いをするのも難しい。


 魔道具は結構条件があって、天幕なんかで使う場合は、魔石の消費が激しかったりして非効率的なんだよな。


「……貴方には正直、驚かされてばかりですね。底が知れない。やはり、陛下を助けて欲しいと、全てをかけてお願いしたのは間違いでは無かったようです。つまり、この法則性が非常に見極めがたい古代エルフ文字……ああ、私達はそう呼んでいるのですが……を読めると?」


「そうですね。詳細はともかく、読めますね」


「す、素晴らしい……それは本当に素晴らしい……遺跡の共同発掘をお願いしたいくらいだ」


「それはお断りします」


「即断ですね……」


「だってそこに浪漫は感じてませんから」


「浪漫……ですか」


「ええ。確かに私も魔道具が好きです。さらに古代の遺産、遺跡にも興味はあります。それこそ、閣下と話しが合うくらいには。ですが、そのどちらにも浪漫を感じておりません」


「浪漫……ですか」


「ええ」


「憧れ、願い、懐かしさ、感情的に……ああ。そうですね。私が感情的になれるのは……この手の事だけな気がします」


「ええ、ここに着いてからの閣下の顔を見ていれば一目瞭然ですね」


 うん、さっきの職人さんたちのと話している感じを見れば、良く判るよ。


(そうそう)


「……よき理解者ではあるけれど、一緒に夢を追うほどではない、と」


「そうです。なので、私がここにいる、そして貴方がここにいる間……はお手伝いしますよ? 良いモノをもらいたいですし。二つ」


「くくく。こうやって……論理的に説明いただけると、本当に判りやすい。つまりは貴方は……そういう事を考えられる人なのだと」


「いやだなぁ。そういう人の裏を……本質を見透かそうとするのは御仕事病なのでは? もてませんよ?」


「くくく。もてる。ああ、ええ、女性にということでしょうか? ええ。そうですね。くくく。もてませんね……私は、女子供にはいつの間にか敬遠されることが多くて」


(まあ、一部の女性には大もてだけど)


「言わないで良いことまで言っちゃうからですよ……」


「そうですね……女性は嫌味を含めてわざとそうしていた部分もあるので、なんていうか仕方有りませんが。孤児院の子供達に敬遠されるのは心に来るのですよねぇ」


 やはり。子供は好きか。


(……)


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