540:生活使用
「私の……移動用の?」
「ええ。「野営馬車」に使われているいる魔道具、錬金術を駆使すればいくらでも工夫が出来る様な」
「ええと、それは」
「例えば。例えばですが、椅子の脚の部分に「浮上」の魔道具を設置して浮かせます。そうすれば、誰かに後ろから押してもらうだけで、移動速度は上がることでしょう」
「確かに……」
「遺跡の中はごちゃごちゃと物で溢れていたりしますか?」
「いえ、通路は広々としていますし……宝物殿の中も廊下の両脇に数段の棚のような物があって、魔道具はそこに並んでいる感じですね」
「まあ、立って歩けないわけじゃないから、物が多い場所は立てばいいだけか」
「そうですね……それでも、かなりの時間短縮になります。なぜ私は……気付かなかったのでしょう?」
「閣下の頭の中に……椅子に座って移動するという発想がなかった故に……思いついても良さそうな簡単な事に気付かなかったということでしょうか?」
「つまり……私は常識に囚われてしまった……と」
「仕方有りません。なんていうか……こういうのは私の様に部外者の方が気付きやすい物だったりしますから。ちなみに私がこれを思いついたのは、あの「野営馬車」の詳細を聞いていたからです」
「詳細?」
「閣下が仰ったじゃないですか。あの馬車の仕組みの一つに「浮上」の魔道具を使う……と。アレがどこかで頭に残っていて、小さい馬車……椅子だけでもいいんじゃ? という発想に至りまして」
「そうですか……」
「さらに……馬車と同じ様に何度も試行錯誤を重ねる必要がありますが……風の魔術を発動する魔道具を併用すれば浮上した椅子に座ったまま、補助する者を必要とせずに、自ら移動することが可能になるかと」
「それは……ええ。それも確かに。操作はどうするのか等複雑な制御が必要ですが、不可能ではないですね」
「やってみましょう。幸いここに、「野営馬車」に関わった職人が何人もいますし」
そう。「野営馬車」の長距離走行は今回が初だったのだ。「腹黒」閣下は、休暇扱いで趣味の遺跡探索にも「帝国の次期主力大型馬車」のデータ取りをブチ込んできたことになる。まあ、無駄が嫌いなんだろうなぁ。
なので、何かあったときの為、万が一のメンテナンスの為に、多くの開発に関係した職人が後続の馬車で後から着いてきていた。
「ではノラム殿には案内を付けましょう。自由に観て周って構いませんよ」
「おや。閣下の目が届かない所で、大事な遺物、貴重の魔道具を盗み取るかもしれませんよ?」
「……盗み取りますか?」
「くくくく。いえ。魔道具に関してだけは……かの天才宰相閣下が恋する青年の顔に変わりますね」
「……」
「大丈夫ですよ。ここでヘタを打つ様な真似はいたしません。正直、私の最大の目的……帝都付近に拠点となる土地建物を確保するという点は達成しているのです。そうですね。ではお供の方をお願いします。閣下の準備が出来るまで先にお宝を見物させていただきましょう」
「では……シミア」
「腹黒」の腹心というか、側仕えの一人……まあ、武術にも通じたクルセルさんの直部下の一人……だと思う。
彼女もクルセルさんほどではないけれど、いつの間にかそこに立っていた。
(ギリギリ、気配を感じれたな)
(魔力はダメだ。いきなり現れた)
ちなみにクルセルさんはついてきていない。基本、あの、宰相の屋敷を守っている執事長の代わり? なのだという。まあ、彼女が「腹黒」の生活面での全てを支えているそうで、大抵、側を離れないらしいのだが……今回は残ったようだ。
(ああ、そうか。俺の身辺調査が完全じゃないのも理由の一つかもな)
(彼女が直接指示を出して動かしているんじゃないだろうか? 期待の若手はイロイロとやらかして、再訓練中だろうし)
(まあ、多分……「腹黒」閣下がいないことで生じる各種処理の指示を残った全員でやってる感じだろうな。閣下は優秀であられるから……代わりを務めようとすると、皇帝陛下に腹心二人、多分、緋の月の他の者達もフル動員して頑張ってるんじゃ無いか?)
(……そう言われてみれば……ノラムが居ない隙にカンパルラへ潜入するんじゃ?)
(するだろうな。まあ、それに関しては監視程度で阻止する必要は無いと指示を出してあるよ)
(良いのか?)
(ああ。既にここに到っては……帝国に調べられて困るような物は何も無いからさ。当然、何か……直接的な手段を取ってきたら撃退しても良いとも言ってあるけどさ)
(特製ポーションとかを買われるのでは?)
(そりゃ普通に……欲しい人が買うとか、行商人が手に入るレベルの本数は手に入るようになるくらいはしょうがないよ。まあ、大きな取引……は、多分、国同士の……条約締結とかと共に各種条件交渉に含まれると思うしな)
純粋に飲みやすい……というだけでうちのポーションは既存商品に比べて価値が高い。効果も高いし。値段はこれまでの物よりは安い。ちゅーか、これまでがぼりすぎなだけで、俺からすれば適正価格だ。
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