537:オプションもありそう
「ええと、このソファの座り心地のことでしょうか? これは少々固めのクッションであつらえてあります。長時間座り続けることになると、帝城の応接室などにあるソファの様にフカフカしているモノは、逆に疲れてしまうので。その辺は馬車移動する者達から意見を聞いて情報を纏めましたので、正しいはずです」
お、おお……うん、そうですよ。そうなんですよ。その辺のデータ収集までしてるのか。
この宰相、仕事しすぎじゃないか? 多分、こちらの世界では、そんな気の利いた情報収集は「他の誰も」やっていない。そもそもデータの大切さを理解していないからな。
プロジェクトリーダーである「腹黒」が自ら細かい注文を付けて、なんどもダメ出しして、やっと、仕上がってくる調査結果なんじゃないだろうか?
最近は俺がイロイロと口出しをしているから学んではいるものの、ディーベルス様だって、最初はその辺のコトを全く判っていなかった。
そりゃ情報戦でやりたい放題やられちゃうよな……。根幹が違い過ぎる。
まあ、帝国がスゴいんじゃ無くて、この「腹黒」が天才なだけなのは若干救われたか。国全体がこのレベルだったら、為す術無く征服される運命しか見えない。
クルセルさんの部下……っぽい、似た雰囲気の若手側仕えが「腹黒」の耳元で囁いた。
当然だが、数名の側仕えがかしずいてる。多分クルセルさんが自ら鍛え上げた直系の部下だろう。
礼儀作法バッチリの上に腕も立ちそうだ。常に……そうだな。三名。さらに裏側で二名は側に控えている。何かあればすぐ、彼の要望を叶えるためなんだろうな。
さすが、大貴族。いや、超大国の宰相。って、いや、でも、というか、それにしては人数少ないのか。逆に。
また、クルセル部下が囁いた。
「ああ、マールが繋がった様です。出発して良いですか?」
スゴいな。何一つ揺れなかったけど……もの凄い技術だ。さすが帝国と言わざるを得ない。
「問題ありません。荷物は全て持ち歩いておりますので」
見せかけだけで無く、ちゃんとキャンプ道具が収まっている魔術背嚢を背負ってきている。
「では、こちらへ」
閣下の後に着いていく。廊下に出て扉が二つ。そして、行き止まりに扉。明かり取りなのか小さめの窓が上部に開いている。窓ガラスは曇っているので外の様子は見えない。
適所に灯りの魔道具が設置されている。光量が調節されているのか暗さを感じない。ただただ明るいだけじゃないのが良い感じだ。
「ここと、そこの扉の向こうが個室になっています」
カチャ
軽い音と共に、扉が開く。中は……二段ベッドの上? と下の段? に一人用のソファにローテーブルか。荷物置き場の様なスペースもある。か。
スゲぇ。なんだこれ。向こうの世界のキャンピングカーレベルじゃないか?
「こ、これは、上の段に寝台。下の段にプライベートスペースですか。ああ、灯りの魔道具もバッチリで」
「ええ。ここに寝台を置いてしまうと、上の空間が空いてしまう。それは勿体ない。なので、寝台を上に。下をプライベートスペースにすることで、移動中も一人、本を読んだり、モノを考えたり……まあ、イヤですが、仕事を片付けたりも可能です。お持ちの荷物をこちらに」
指定された荷物置き場に、背嚢を納める。ちゃんとしたクローゼットか。
「これが二部屋……ですか?」
「ええ。実は、本来これは二人で旅行するためのモノで……まあ、私と陛下……兄上用に考えたものなのです。なので、主寝室は二部屋になっています。軍事行動の際、今回の様な親征……等でも使えると思うのですが。後付けですね」
「ここが主寝室? 他にも施設が?」
「ああ、こちらですね」
移動する。廊下奥の扉を開けると。扉が二つ。さらに奥に一つ。奥には普通の馬車の客車部分が設置されていた。ソファが向かい合わせで二つ設置されている。
「側仕えの控え室です。ここにも寝台を……と思ったのですが、クルセルに必要無いと言われまして。使用人はソファで休めるだけで十分だと」
ああ、そうかこの馬車の中でもお世話する側仕えが必要だわな。
手前の扉に戻る。
「こ、これは……もしかして、湯を浴びることのできる装置でしょうか?」
「ええ。お湯浴びの簡易施設です。身体がスッキリしますしね。これも遺跡から発見された施設を模倣して作成、設置しました」
マジか。それなりに広めの着替え場と、さらに奥に見慣れたシャワールーム。シャワーはうちの工房の温泉施設にしか無いと思ってたわ。これを模倣とはいえ……古代遺跡から再現するってスゴすぎるだろ……。
「ではこの隣の扉は……」
やはり。形はかなり違うが……トイレか。しかも……。
「ああ、水洗トイレ……ですか」
「ええ。さすがですね。これは最新の「汚物を水で流す事ができるトイレ」になります。流した先のタンクには魔道具とスライムを使用した浄化装置を備え付けています。これも、遺跡からの技術登用なのですが、大規模処理は実験できていません。個別実験段階の最新式ですね」
本気の天才がいる。チートな能力を持っているだろうけど、それを十二分に生かす才能を併せ持っている。
こりゃ……彼が判らなかったという……遺跡宝物の残り物は……使い方が想像もできないガラクタかもしれないなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます