532:御褒美ちょうだい
塀で囲うと何となく安心するのは何故だろう? 別にドアを「封印」してるのだから中への侵入は不可能だと思うんだけどな。
(判りやすいのがいいのではないだろうか?)
(そうかもね)
ここを拠点として、活動するには十分だろう。建物を建てるのは帝国の業者に発注した方がいいだろうなぁ。
(一度、帝都に戻って……ご褒美もらっておこうか)
(別に欲しくないくせに)
(そんなことない。もらえるなら欲しい。まあでも、借りを作ってまで欲しいモノがあるとは思えない……かな)
微妙に便利なモノはありそうだけどなぁ。
(ああ、そうか。遺跡……の文字。アレ、読めるようになったから、イロイロと判りやすいかも)
(そうなの? あの階段に描いてあった文字? とか?)
(ああ。元々【言語理解】のスキルを持ってるからさ。読もう! と思ったらすんなり読めた。というか、当たり前の様に頭に入ってきた)
(そういうもの?)
(最初、遺跡の古代文字だから読めないと思っちゃったんだろうな……)
(そういうものか)
ということは「腹黒」を出し抜けたりするかもな……。なんて考えてたらワクワクしてかた。
(なんていうか、意地が悪い気がする)
(うん。悪いね。くっくっくっ)
飛んで戻るのはなんていうか、まあ、ヤツは既に勘づいていそうだけど、わざわざ教えてやるのは癪に障るので、走って戻った。目立たない様に「綺麗に整備された」街道を爆走……とはいかなかったので、空を行くときの様な爽快感は一切無い。
行商人として普通に帝都の門をくぐり、裏口から宰相閣下の屋敷を訪ねる。
帝都に入った時は商人ギルドの会員証を使ったが、帝都貴族街での出入りや、見回りの騎士だか守備隊員の職質の際には、前にもらったままの
返すって言ったら、持ってろって言われたのだ。
(便利だしな)
(だな)
「ということで、いつなら御褒美を貰えますか」
「……」
いつもの四阿で大絶賛お仕事中の「腹黒」閣下がジトッとした目で睨む。うむ。美青年な。うん。役者かモデルか。声が小さめだからモデルか。大きい声で叫ぶとか演技でもできなさそうだしな。
「……森林第六十二遺跡は馬車での移動でも三日はかかります……遺跡での用事を一日で済ますとしても、行き帰り含めて七日間。私がそれだけの日数を空けるには、現状は少々、雑事が多すぎるのです」
雑事……か。いや、まあ、そりゃそうか。大きな戦闘……いや、戦争があったばかりだ。壁の穴が無くなっちゃったから、向こうの国との停戦交渉や条件論争、終戦条約締結なんていう国際的な戦争の後始末は無いにしても……捕虜はかなり抑えているし、その扱いをどうするのか、各種判断しないといけないだろう。
隷属の首輪でヤツラを奴隷にして、魔族が再度攻めて来た場合の尖兵として使用する……そのやり方や運用方法を試行錯誤している最中……なんだろうな。
(判ってて言う)
(言うさ!)
大変そう。うん。それはそう。
「ええ、ええ、それはそういうことでしょう。判っておりますとも。なので、今すぐ連れて行け……とは言っておりませんよ。いつなら、よろしいですか? と聞いておるわけです」
「……」
「……」
(本当に意地が悪い)
「閣下。休暇をお取りになっては? 十日ほどお休みした方がよろしいかもしれません。正直、働き過ぎですし」
お。思わぬ助け船……相変わらず……一瞬、所在が掴めなくなるクルセルさんが登場。というか、そうか。心配してるのか。
よく見れば、宰相閣下は初めて会った時よりは明るい顔をしているが、それでも目の下のクマや口元などに疲れが見える。この人、多分、疲れてなければ人形の様に、周囲の人間に自分の何かを気取られることがないタイプなんだろうな。
逆にこうして疲れている時の方が人間らしくていいんじゃないか? とかクルセルさんに言ったら、真面目に説教されそうだ。
「ですって」
「……陛下に相談してからだ……」
「反対されませんよ。心配なされてましたから。では、はい、ほら、いますぐ面会の用意をさせますから。帝城へ」
「いや、陛下にも都合というものが」
「陛下には閣下以上の御用事はございません」
つよっ。
「では、ノラム様は本日はお泊まりになってください。宰相伝説の続きを……」
「あ、いえ、既に宿屋を抑えてありますので、そちらで待たせていただきます。ではよろしくお願い致します」
返す刀で俺まで斬られそうになったので、さっさと退散することにした。というか、ちょっぱやで逃げ出した。
(伝説……になってた)
(陛下と閣下を自慢したくて仕方ないんだよ……あの人……)
慌てて、屋敷を飛び出した。って、あ。目が合っちゃった……。
なんだっけ、アイツら。
(確か……緋の月のハンダルとエタラ……十本……だからトップ10の内の二人)
ビクッ! とハンダルが俺に気付いた。まあ、マスクしてるからね。判るよね。ちょい遠目でも。
エタラ、俺の事を呼びに来た女の方も気がついた様だ。怯えるように……後ずさった。やだなぁ。そんなに怖がらなくても。
とりあえず、気にせずにそのまま……帝都の夜に繰り出すことにした。
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