531:塀の中の遺跡

(……神力のことは今考えたところでどうにもならないから、まあ、いいや。とりあえず、とっとと掌握しよう)


(おお。さっさとこの入口を隠さないとだしな……)


 封印されていたし、帝国が管理していたからこの入口が見つからなかったが、現状では誰でも中に入れてしまう。


(とりあえず、この遺跡の入口は再封印しておいたぞ?)


(さすが。気がつくね。そうだな。「腹黒」の手下が確認に来る可能性があるよな)


(現状は無いが、いつ暴走するかも判らないしな)


 そう言われてみればその通り。緋の月の若手だか何だかは「腹黒」の命令を無視して俺に攻撃を仕掛けて来たのだから、再度、独善で動きかねない。


 恐怖メイドのクルセルさんと、怒ると怖い隠れ側近のバディアルさんに「二度目」があるとは思えないが。


 とりあえず、ダンジョンの中へ進む。


(まだ新しいな……出来たばかりっぽいな)


(二階層? か?)


(多分。まあ、世界はここ数年、さらにここ数カ月は極端に神力魔力不足だからなぁ。ダンジョンを成長させそうな要素がなかったんだからしょうがないか)


 敵は……


第一階層、第二階層

レベル01 マッドドッグ

レベル01 ハードボア

レベル02 ファングドッグ

レベル03 ソードゴブリン


 多分、こんな感じだろうか? 現状、前のようにダンジョンシステムの検索も出来ないので、魔物リストのハッキリとしたレベルとかも忘れてしまった。


 超絶ザコばかり……だ。特に、こちらの世界のフィールドをうろついている魔物よりも遥かに力が無い。


 返り血を浴びたりするのもイヤなので、普通に「風刃」で仕留めていく。


(本当に……あっという間に……)


(二階層しかないんだから仕方ない)


 ボスとして……いや、ちょっと広いスペースに待ち受けていたのはゴブリンの亜種。これも「風刃」で一撃だった。


 ボス部屋の奥に、無造作に配置されていたダンジョンコア。

 

 これを【掌握】する。


(うむ。これで……頻繁に……とはいかないが、ここまで転移が可能になったな)


 そう。不完全だが、ダンジョンシステムは回復しつつある。ショゴスの苦労で、ジョブチェンジも可能になったが、異世界転移ではなく、迷宮機能操作室と副操作室間での移動なのだ。


(ああ、そうか。まずは)


 ダンジョンの入口を閉ざした。俺だけが移動出来る様に、倉庫遺跡に(多分)オレしか開けられない「大地操作」で隠し扉を用意して、その奥に移動する。


(これで、もしも封印を破られたりしてもダンジョンへは立ち入れない……よな?)


(魔力操作に長けた者ならどうにでもなるんじゃないか? まあでも、確か、メインの迷宮操作室へのワープはサノブしか出来なかったハズだ)


(現状のエネルギーは?)


(ん……転移……五回分の余裕は……ある。無駄使いはしない方がいいが)


(とりあえず、一度戻って、また、空を飛んで戻ってこようか。この周辺なら直接降りてきても、誰にも判らないし)


(そうだな……一度はテストしておいた方が良いだろうな。新たに掌握したダンジョンからの転移なのだから。あとさらに、距離的に最も離れているし)


 そうなんだよな。このダンジョン間の転移に実際の距離は影響を与えるのか? その辺も確認したいんだよな。


(よし。なら行こうか)


(了解)


 その瞬間。まあ、いつもの転移と同じ様に、白い操作室……多分、カンパルラのそばのメインの方だ。


(成功だな。時間や日数は経過していない)


(良かった。じゃあ、まあ、ゆっくりするか)


 そのまま、上に上がる。


「お帰りなさいませ」


 松戸が冷静に出迎えてくれる。相変わらず対応が早い。何故気付く?


 マイヤの料理を堪能し、まあ、うん。温泉に入り、身体を休めた。


 次の日。体力的にバッチリ回復して、今度は空から帝都へ。というか、帝都第三遺跡へ。


 ここは既に俺の所有となっている。というか、この遺跡を中心に、周辺約1㎞四方が俺の「自由に」していい土地となるそうだ。


 契約書をよく読んでみたが、どうも、帝国ではあらゆる支配大地はまず、「皇帝陛下」の物で、それを各領主に貸し与える……という形になる様だ。

 まあ、いざという時にその土地を自由に出来ないと面倒だからだろう。で、領主は、その土地を配下の貴族や平民たちにさらに貸す。


 それ以上の契約は存在しないのだ。


(つまり、所有権では無く、借地権の購入ということになるのかな?)


(なんか、良い感じに開発していって成功したら取りあげられそうだな) 


(そういうバカ貴族はいたし、契約などを上手く使われて最終的に土地を奪われた者もいたみたいだけどな。現在でもそういう横暴をするのは能力の無い証明ということで、嫌われるし、今の陛下は「それをしたバカ兄姉をぶっとばして即位」したみたいだから、まあ、判る様にはやらないだろ)


(判らない様にはやってくるのか)


(そういうもんだよ。王政なんて、最終的に最高権力者のやりたい放題なんだから。表立って出来ないだけでも良しとしないと)


 ということで、まずは1㎞四方の内側に土の魔術、「大地操作」で石塀を造設していく。まあ、そこそこ分厚く、そこそこ高く。帝都の城壁よりは低く、薄めにしてみたが……。


 人も住んでいないし、ある程度の木々はなぎ倒しちゃっても問題無いので、約30分で完成した。


(相変わらず無茶な魔術展開だ。これ、制作時間もだが、土の魔術を使えるヤツが触れば、質とか固さとかで……大騒ぎになりそうな気がする)


 そうかな……まあ、そうか。そうかも。でもなぁ……出来るモノをわざとしないってちょっとなぁ……。

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