529:遺跡持ち
「一つ聞きたい。魔族は……再度大障壁を打ち破って……我が帝国に攻め入って来るだろうか?」
「……予想ですが……来るか来ないかで言えば、来る……のは確定かと。魔族は奴隷確保の為に血眼になっております。ただ」
おうおう。目がマジすね……。皇帝陛下と宰相の気迫というか。
(それはそうだろう……このレベルの階級の者にしては、他人の意見を聞く耳を持っている時点で脅威的な存在だろう)
「ただ。何となくですが、無限大障壁に再度穴を開けるのは難しい……様な気がします。なので、再度侵攻してくるにしても、しばらくは時間がかかるかと」
「そうか。何となく……だな?」
「ではその間に我が国は力を構築いたしましょう。今回の魔族との戦闘で、多くの課題と欠点が見つかりましたし……そもそも……魔族に比べ、魔術に対して後進であることは否めないワケですし」
「自分如きが何を言うのか……と思うのですが。帝国の「魔力反応器」による、術士の選抜は正しいやり方かと。都市の入退出時に「裁きの水晶」による識別は各国共通の行動。そこに組み込むのは無理が無い。さすがですね」
宰相がキョトンとしている。褒めたのにな。普通に。
「まあ、無いとは思うが……今回の事を功績として爵位と領地……をというのはどうだ? 侯爵、そして辺境伯として……いや、なんなら継承権もくれてやってもいいぞ? 私の娘を娶ってくれれば、早めに帝位を移譲できてありがたいがな」
ぶふっ。
(それはさすがにスゴイ……)
「陛下。さすがにそれは」
「おうおう。やっとお前を……少しでも慌てさせることが出来たか?」
「冗談がすぎますよ」
「冗談では……無いのだがな」
(うわ……この人多分、真面目に考えてる気がする。魔力が揺るぎない……)
これが皇帝陛下の……【偽笑顔】ではない……本当の笑顔か。圧が無い行動なのに……圧を感じるって。なんだこれ。
「魔族と本格的に戦うためには……人族が生き残るための最善手は……お前が全てを率いる事なのではないか?」
(同意。まあ、最初からそれが無いから言わなかったけど)
(マジか……「腹黒」も薄笑いだし! 確かに、自分でもちょっとそうは思うけど……無理だな。何よりも……国を運営するような人望や調整能力が無い)
(おお、リアルな)
「私には……そもそも……国に……いや、「見知らぬ人民」に対して気持ちがありませんので。身の回りで精いっぱいでございますよ」
「そうか。あそこで見せた力が……未だに半分信じられぬ気持ちもあるのだが……本物であるのなら。いや、本物だろうな。そして。アレがお前の力の全力ではないというのなら……私はいつでもお前に帝位をくれてやるぞ」
「それは……民のため、ですよね?」
「それは……そうか。判った。すまんな。無駄話をさせてしまった」
「いえいえ、この部屋では、無礼講だということで、この場だけの戯言。残るのは契約書だけといたしましょう」
「というか……なぜ、アレで全力を尽くしていないと思われます?」
「もしも、全力……いや、あの時戦場で本気になって力を失っていたのだとしたら。さらに西、大障壁には向かわぬだろう? もしも私なら……どれほどの力を、余力があればそのまま継戦しようと思えるのか……と考えた。結論として出てきたのが余力として半分残っていれば……砂漠を越える事も厭わん」
(ちっ。やはりこの兄弟……とんでもないチートだな……カリスマ性とコミュニケーション&会話能力の兄と、深謀遠慮、知力と研究、開発、生産の弟。しかも二人で話をすることによって判断力抜群、思い切り良しって……無敵じゃ無いか)
(だから現状、帝位に就いてるんじゃ無いか? 確か……激しい帝位争いがあったんだよな? 第三皇子に、第二皇女、第七皇子っていう有力候補を爆裂させて打ち破って、帝位に就いたんだよな? 前に実力派メイドから聞いたろ?)
(ああ、そういえばそうだな。だな……正直、一瞬ゾクッとしたよ。ちょっと怖かったわ)
(サノブを怖がらせるって……なかなかだ)
(ああ。
泊まっていけと陛下に直接言われたので、帝城の宿泊施設? に案内されて、ふかふかのベッドで眠りに付いた。
工房のベッドに僅かに劣るが、中々の寝床だ。ウォーターベッド的な造り。これも過去の遺跡からの発掘物なのかな?
まあでも、マットレスは柔らかければいい……ってワケじゃ無いんだよなぁ。
聞けば、スライムから生成されたジェルみたいな物が詰まっているらしい。
次の日。忙しいらしく、あの怖い兄弟の朝食同席等は無かった。よかった。兄だけでは無く、弟の意見も一緒なんだろうなぁ。俺の力を買ってくれるのはいいけどなぁ。うーむ。なりふり構わない強さ、思い切りの良さが怖いわ。
出来る事なら正面からの潰し合いは……したくない。やるとしたら……二人の暗殺だろうけど……。うーむ。いくらなんでも後味は悪そうだよなぁ。
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