528:SA

「この資料を見るに……以前自分が見つけた遺跡によく似ているんですよね。規模、地下の構造。多分、類似した施設の遺跡ではないかと。で、その場合、あの遺跡は「倉庫」として使用するのに非常に都合が良い造りだったと思うのですが」


「……真ん中に通路があり、その両脇に幾つもの扉。扉の奥は長細い広間。それが地下五階層まで続いている……だけですが」


「ええ。宰相閣下。思い出してください。私の……まあ、本来の仕事はなんでしょうか?」


「確か……行商人と……」


「はい。そこを倉庫にして……地上に店舗を構築するのは悪くないと思いませんか?」


「いやだが……そんな過去の事例は……」


「良いでは無いか。帝都内のしかも貴族区域より内側であれば問題だが。商業区域や工房区域、歓楽区域……帝城の城壁内の土地と同じ様に扱ってやればよい」


 さっ……。


 何も言わずに。ソファに座っていたのをズラした。宰相も俺も膝を突き頭を下げる。それにしてもいきなり現れる御仁だね。陛下は。


「ああ、この応接で畏まらなくて良い。というか、ラハル。お前は特にそろそろ理解しろ。何度言っても直さんな……」


「陛下は陛下であります故に」


「だから、良いと言っているではないか。弟よ」


「はっ」


 陛下、戦場での物言いと変わらないというか、アレは戦時であって……というタイプではないのだな。俺の様な平民からすれば、好感度高い。


「とりあえず、サノ……いや、ノラムか。今回は感謝している。お前がいなければ……確実に我が騎士団は敗北し、帝国は魔族によって蹂躙されていただろう。有り得ぬが、此奴は一人の力であの強力な軍を押し潰したのだ。過去に例が無いとしても願いを叶えてやれ。この手の話は噂だとしてもいつの間にか漏れるものだ。ならば最初からある程度の大きい話を用意しておかねば、不味いことになるからな」


 あ~なんとなく判る。戒厳令が敷かれても、今回の戦争の勝因は不明瞭すぎる。噂なんて幾つも囁かれているだろう。


「今回は、普通では信じられないくらいの規模で良いのだ。さらに、そうすれば……お前の大事な宝物を三つ以上でなく、一つくれてやるだけで済むのだろう?」


「兄上……」


 笑。まあ、そうだよな。三つも、あ。いや、多けりゃ五つも、奪われたくないよな。


 解析出来ていない魔道具ってことは、今後、自分でイロイロといじりたいと考えていた物なわけで。多分。一見ガラクタにしか見えなくても、実は……ってことも有り得る。というか、俺はそういうのを見つけることもできるし。


 過去の遺物からは様々な情報が読み取れる。まあ、壊れていてもお宝なのだ。とはいえ、これは錬金術士じゃないと判らない感覚かもしれないな~。


「ノラムも顔を上げよ。ここへはほとんど私的な行動で来た。弟に会いに来ただけだ」


「この帝都第三遺跡の辺りには何か重要な……騎士団施設などがあったりしますか?」


「……それは無いが……」


「街道沿い……ではあるがな。ああ、そうか。お前、ここで商売……というか、宿場を作ろうということか?」


「ええ。帝領ということで、遺跡周辺には町や村が存在しません。この方面に旅をする場合、夜が明けぬ前に帝都を出発し、帝領を駆け、隣領の宿場町まで一気に抜けてしまう様です。この辺りに宿場と店舗が合わさった停車場があれば、昼前に出発すれば、日が暮れる前に到着できるでしょう」


 アレだね。イメージとしてはサービスエリアとか、パーキングエリアだね。これで従業員を奴隷で構成するれば、帝国で奴隷を集めてもおかしく無い。鑑定が発動しないから、確定路線での購入は無理だが、もしも魔術の才能がある者が見つかれば、カンパルラに向かわせても良いし。


 宰相の顔色が変わった。うん、俺の言う「表向き」な理由の利点を理解してくれたようだ。


「……そう言われてみれば……帝都周辺、直近の他方向への宿場町も整備した方がよいかもしれませんね……」


「そうだな。まあ、それは別の話だ。よいだろう。我が名において契約を訂する。お互いが了解の上、契約を訂正。改めて遺跡所有権の魔術紙契約を行おう」


「はっ」


「遺物……一つは、森林第六十二遺跡宝物殿から一つでお願いします」


「許す。ラハルが悔しがるとっときの宝物を選ぶが良い」


 宰相閣下がもの凄くイヤな顔をした。


くくくく……。


 陛下がソファに身を沈めて……ちょっと悪な感じの笑顔を向けてくる。


「それにしても。こうして見ると……マスクをしている怪しいヤツでしかないのだがな」


「まあ、陛下もその笑顔と威圧は、ただの下っ端のごろつきにしか見えませんし」


 なっ! という顔をする宰相。うん、君はちょっとお上品だしね。


「そうか。下っ端なごろつきか。そうか。うむ。それはいいな」


 何が良いんだか判らんよ。気に入ったなら良かった。


「帝都第三遺跡は……この書類でお前の所有となった。ああ、ノラム……で良いな? サノブではなく」


「はい。帝国ではノラムで通そうかと思っておりますので。マスクもしたまま」


「そうか。その方が……何かと良いかもしれぬな。現状事を構えていないとはいえ……ローレシア王国とはいつ、ぶつかるやもしれぬし」


「ええ。何か有った場合、即暴力で殴り合い……ではない路線も用意しておいた方が……双方にとって大切なコトでは無いかと」


「……我が帝国にとって……ではないかな?」


「いえいえ、それはさすがに。まあ、確かに、一矢報いることはできましょうが」


「陛下。喧嘩を売らないと約束したと思いますが」


 ああ、兄弟でそういうことにしたのね?


「判っておるわ。ノラム……の力は特にな。目の前であれだけ見せつけられたのだ。遥か西……無限大障壁際に作られていた魔族拠点をああも潰したのもお前なのだろう?」


 応えない。ニヤリ。マスクの下で笑って見せる。伝わらないだろうけど。

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