527:物件紹介

「魔族軍の空戦部隊……飛竜部隊を殲滅して、その後、地上で強力そうな敵個体を各個撃破。帝国騎士団の勝利がほぼ確定したと判断した時点で西の……最果て、大障壁に向かいましたよ」


「そう……ですか……では。その、貴方が地上で戦い始めた……とおぼしき頃。魔術の行使が不可能となりました。これは?」


「さあ?」


「……全てを明かすのは難しいのは判りますが、何をしたかくらいは伝えていただけないと、正しい評価が出来ず、それはそのまま報酬に反映されますが……」


 そこはハッキリさせないよ?


「……まあ、そうですよね……認めようが認めなかろうが、私は、帝国は、貴方が「魔力を無効化出来る方法」を所有していると判断しました。それは魔族にとって最大の脅威なのは間違い無いですが、魔術による攻撃手段を強化させている我が騎士団にも脅威なのですから」


 マスクの下でニヤリ……と笑ってみる。うん、明言はしないけどさ。うん。悩んでよ。このチートで天才で知性100越えの様な軍師を惑わすための素材は、多ければ多いほど良い。

 

「ソレも含めて。今回の報酬なのですが。魔術紙を毎月二十枚。そしてそれを三年分。720枚ですか。これはすぐにでも用意させましょう。ですが、それ以外の遺物は数は三つと決めているものの、「何を?」という物自体は具体的に決まっておらず、口約束であり、細かい書面でのやり取りを行っておりません。ですので、選んでいただく必要があります」


「好きなモノでいいんですよね?」


「ええ。それが約束ですから。さらに。約束を守った上で。帝国を勝利に導いたのは貴方だ。論功行賞で公にできぬが、戦功一等に値すると、陛下がおっしゃっています。なので現状、その使用方法が良く判っていない、壊れているのかどうかも判らない、遺跡に残されたままの遺物なのであれば、融通を効かせよ、と」


 それは何という大盤振る舞い。


(これが、正しく報いなければならないってヤツか)


(別に公に出来ない時点で、約束内容を反故にしてもおかしく無いんだけどな)


(それは……しないよ。賢ければ絶対にしない)


(そうか?)


 宰相が、テーブルに、幾つかの紙を広げた。


「それが?」


「はい。我が国にある、我々が把握している遺跡と、その調査状況のまとめです」


 軽く目を通す。


「えーっと。約束したのは、帝国に存在する遺物。本来なら、宰相閣下が知っている古代遺跡の中でも、未だ解明出来ていない宝物殿の魔道具の中から三つってことだったけど、陛下の御厚意でどこからでも三つでよいと。そしてその場所を俺が選んでいいということですよね?」


「はい。融通を効かせよということは、まあ……どうしても五つと言われたら、それを許すということになります。そのための遺跡の資料です」


「なら。もしも新しい遺跡を発見して、未知の遺物を発見した場合。それはもう、当然?」


「そのような遺跡があるのなら……正直、帝国内の遺跡は私の命によって、調査が大々的に行われました。なので取りこぼされている……としたら余程の僻地……魔獣の住まう地域に隠れているモノくらいでしょうか?」


「ふーん……」


(何を考えている?)


「なら。とりあえず、ここかな」


「帝都第三遺跡……ですか。ここは残されている遺物が多いですが大半が破損しており、錬金術士である私が見ても正直ガラクタばかりですよ? 帝都から馬車で……僅か六時間程度の場所にあるせいで、調査し尽くされていますし……」


「アレでしょ、宰相が最初に言ってた宝物庫っていうのは、最初の一枚にあった森林第六十二遺跡の宝物庫でしょ? 一番規模が大きそうな」


「ええ……多分、あそこが一番……錬金術士であれば修復できそうな遺物、魔道具が残されていると思うので。正直、あの遺跡は、古代の王国首都じゃないかと推測しています」


「宰相閣下的に、ここ、帝都は~どうです? ここも結構大規模な遺跡の上に建造された都市……ですよね?」


「そうですね。帝都の地下が遺跡なのは確かです。ただ、大規模ではあるものの、通常の商業都市……だったのではないか? と考えています。地下の排水路が繋がっている浄水装置等の大規模魔道具しか見つかっていませんし」


「そうですか」


「未だ探索しきれていない森林第六十二遺跡は現在判っている範囲ですら、この帝都より大きく……私の予想では五倍以上はあるかと」


(嘘ではないと思うぞ? 魔力に揺れがない)


(君、そんなことまで判るのか)


(最近……空を飛んだ辺りから、魔力に敏感になった気がする)


 あれ、制御難しいからなぁ。そうなんだよね。俺も空を飛んだ辺りからなんかイロイロと得られる情報が増えている。


(なら。この帝都第三遺跡。地下なんだけど。詳しく精査してみ?)


(……?……ん? これは? そうか……そうなるのか?)


「というか、ちょっと契約と異なってしまうんですが。帝都第三遺跡……売ってくれませんか? 帝国は、土地の私有財産化が可能……ですよね? 領主の許可があれば。あそこは帝領だと聞きました。お許し頂けるなら……残りは、宰相閣下の言う森林第六十二遺跡の宝物殿の遺物を一ついただけるだけで良しとしましょう」


 帝国遺跡産の遺物。魔道具。一つは欲しいよな~。


「遺跡の私有? なぜです?」


 まあ、そうだよね。怪しいよね。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る