525:再度御屋敷探訪

「そうだな……こちら側に攻め込んで来た、アムネア魔導帝国の愚かっぷり、低レベルっぷりはよーくわかってるんだが、合衆国はそれと同等……とは思わない方がいいか」


「侵攻してきた軍隊は似たような感じだったのですか?」


(違うな……)


「違う。明らかに工兵が存在していたし、輜重部隊も計画的に配置されていた気がする」


(そもそも)


「あ。そうか。そもそも、合衆国軍は、空軍……竜騎士と蝙蝠系の魔物に搭乗して、地上に魔術攻撃や爆撃を行う、空からの攻撃方法を所有していたし、さらに、砂漠の移動の際に、土の魔術で道を産み出して移動していたな」


「道?」


「それはつまり、永続的に支配を行おうという意識の表れなのでは?」


「うん。そう言われてみればその通り……なので、もう一度帝国に行って「腹黒」宰相に確認してこないとだな」


「捕虜から得た情報などをそう簡単に共有させてもらえるのでしょうか?」


「大丈夫だと思うぞ。くれなきゃ暴れるし」


「それはよろしゅうございます」


 松戸はその笑顔が怖いなぁ~。


 まあ、さすがに、その日は一日休んだ。マイヤもおいしいご飯を作ってくれていたし。


 モンスター肉の煮物、豚骨系の味付けになっているスープ。ステーキを醤油で。飲み物も日本酒で。

 ……ってそういえば、向こうの世界に行けないんだから、この工房にある在庫が全てなのか。


「調味料とか酒とか……日本の食材とかの在庫って?」


「私達がこちら側に来た際に、調味料関係はかなりの量持ち込んであります。野菜や牛肉、魚等の生鮮食品は既に在庫切れというか、賞味期限を気にして消化済みです」


「御主人様、【倉庫】からも取り出せるのですよね?」


 ああ、そうか。【倉庫】に米も野菜もあるな。俺が一人でダンジョンに籠もっていた時に持ち込んだ食料品が……凄まじい量保存されている。


「あるな。米とか生鮮食品もあるはず。野菜も」


「適度な量出しておいていただければ……」


「判った」


 ってな感じで未だに向こうの世界へ渡る手立ては付かないが、醤油、味噌、塩、砂糖、胡椒や各種香辛料は商売しようと思わなければ……多分、十年以上大丈夫くらいな在庫が確認出来た。


 それ以内に渡れるようになるといいなぁ……。


 十二分にリフレシュ……した次の日の朝。深淵の森側へ走り、ちょっと奥へ行った所で空に舞い上がった。


 そのまま、音速で空を飛び……あっという間に帝都に辿り着いた。


 速い。


 それにしても旅行気分は一切味わえないな。初めて帝国に来た時、地上を必死で走ったわけだけど、なんか旅行気分は味わえたもんな。

 人種の国といっても当然、文化は大きく違う。特に建物の形や使われている建材はその地方毎に特色がある。それを眺めるだけでもそこそこ楽しめていたってことなんだろう。


 なんかもう、面倒だったので……。訪れた事のある「腹黒」の邸宅……の庭、なんていうか、優雅に仕事してた四阿のあるあの庭に直接降り立ってやった。


(結構難しかったな……ショゴスの作った精細な地図といショゴスの案内がなかったら、どこがどこだが判らなかったし)

 

(1000メートル程度の上空から見るとどこも同じに見えるな)


  面倒だったので【隠蔽】も何もしないまま、音も立てずに降りてやった。マスクは付けた。


 建物の中から。慌てて……ああ。クルセルさんが中庭に出てきた。


「……ノラム様……でしょうか?」


「お疲れ様です。宰相様。ご在宅ですか?」


 ……そうじゃないだろう……という顔をされているけれど。まあ、気にしない。うん。


「ラハル様……宰相閣下は現在も帝城の方で執務を執り行っております。私もそちらに詰めておりまして。今日はたまたま閣下の御衣装等を取りに戻っておりましたので。良かった」


 ん? バタバタと、屋敷の方から音が聞こえる。


「いきなりの御訪問でしたので、それはもう、屋敷詰めの警護の者などは……戸惑いますよ」


 まあ、そりゃそうか。


「クルセルさんが居て良かった。問い詰められて抜かれたりしたら、折角の友好があっさり崩れ去るところでした」


「それがお判りでしたら、もう少々順序というものを」


「んー少々、急ぎなんですよね。なので帝城向かってみま……」


「お待ちを。無駄に諍いを起こさないためにも……もう少々したら、私が宰相閣下の元へ戻りますので。その時、御一緒する形でお許し頂けませんか?」


(確実にもめ事になって、無駄に死人が出ると思うんだが)


(そうだな……。面倒だけど、しょうがないか)


「なるべく速くで」


 クルセルさんの顔がハッキリと明るくなった。まあ、そうか。そういう感じだよな。


「畏まりました。では。馬車に案内いたします」


 この屋敷に連れてこられたときに載せられた馬車に案内されて、そこに載せられ、待機させられた。


「お待たせしました」


 お。はやっ。


(多分、彼女、かなり急いだぞ?)

 

 それは悪い事をした……かな?


「いきなり……戦場から消えたとお聞きしました……が」


「ん? あれ? 勝ちましたよね? 戦場」


「はい。なんでも……謎の現象により、敵味方問わず魔術が使用不可状態となり。剣や弓を中心とした戦闘に移行した結果、純粋に数で勝る我が騎士団により、勝利を収めたと」


「ええ」


「さらに……西の果て、無限大障壁を守っていた……恐らく大障壁に穿たれた穴があったと思われる場所なのですが。その地から魔族は掃討されており、さらに壁にあった穴も塞がっていた……という速報が本日届いたと」


(速いな)


(そうだな……ってそうか。行きは魔族が作った道が出来てて、現場に着けば、通信の魔道具があるんだっけか)


(ああ、そうか……「連絡器」だったか。宰相の功績物語が語られた時に言ってたな。この女が)


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