521:埃塵と共に
アムネアの帝都の壊滅……いや、瓦礫化は既に時間の問題、間違いなさそうだったので。
(帰ろうか。埃がスゲぇ)
ここは上空千メートル以上。さすがに「まだ」ここまで舞い上がってきていない。風もそこそこ吹いてるし。
周囲の埃では無く、俺自身に付いてきた……髪や服の細かい隙間に入り込んだ埃だ。砂漠を徒歩で移動するととんでもない状態になるのと一緒だ。
最近、砂多いな……そう言われてみれば。西に行ったときもなるべく砂漠に近付かなかったんだけど、多少降り立ったり、上空を飛んだだけで、結構な砂まみれだった。
魔術で「洗浄」が使えればなぁ……。ダンジョンシステムの管理室に帰還した際に自動的に施される【回復】【修復】【洗浄】が解析できないってショゴスも言ってたもんなぁ……。
風の魔術で風を起こして、ドライヤーのように自分の身体に吹きかける……みたいな事は出来る。自分の身体を傷付けない様にするのに気を使って、消費魔力大きいけど。
でも、こうして埃まみれになっている自分の身体を綺麗にする……という、異物をはね除ける、みたいな魔術はどうにも難しい。
まあ、そもそも「回復」が出来ないしな。魔術の王道、ヒールとかケアルとか、その手の回復魔術……あ。そうか。天職か。その辺は。
天職……えっと……。
・天職(戦闘
戦士、剣士、槍士、拳闘士、魔術士、癒術士、弓術士、盗賊、吟遊詩人、付与術士
・天職(非戦闘
文官、商人、職人(鍛冶、彫金、裁縫、革細工、骨細工、錬金術)、料理人、狩人
だったか? って最初からあるやん……。癒術士……。な。ちょっとはレベル上げして30以上にしておけば良かったな。
(レベル30以上?)
(レベル30以上にしないと、転職出来ないんだよ。説明したろ)
(ああ、聞いた気もする。そうか、だから拳闘士のレベル30だったのか)
(まあ、そこまでずっとそのジョブでレベル上げしないといけないからさ。拳闘士は即転職してそのまま放置になっちゃってるな……。そんなだから、癒術士って、前衛じゃ無いし。明らかに。なので、怖くて転職出来なかったな)
(時間が無限にあったのでは?)
(そう……何だよなぁ。あの時にもっと無茶して、全ての天職のレベルを一定以上に上げておけば良かったなぁ……と思ったのは後の祭りよ)
(そうか。まあ、当時イロイロと考えることもあったのだろうし)
そうなんだけどね。
俺に取って一番のチートは、あの時間停止状態でのレベル上げ可能期間だった気がするんだよなぁ。今考えると。
ショゴスの言うように諸事情はあったし……あと、あまりにもダンジョンに籠もってしまうと、外界の記憶とか、確執、執着みたい……欲みたいなモノが薄まって行く恐怖感覚もあって、あまりに長期間、ダンジョンで生活し続ける事が難しかったというか。慣れてなかったな。イロイロと。
ゲームの廃人的な思考で考えると、勿体なかった……としか言いようがないんだけど。
さらに、レベルアップができない現状、自分の手持ちの職業……まあ、現時点でレベル30以上になっている天職にしか転職出来なくなってしまっているからなぁ。
移動の事とか考えると、魔術士一択なのがちと、怖いというか。
一度かなり上空に上がって……さらに飛んで戻って……来た。ちょっと離れた場所に降りて、いつも通り、カンパルラの門をくぐる。ちゃんと身分証を提示して普通に。
「ただいま」
「お帰りなさいませ」
いつも通り、松戸、森下が出迎えてくれた。アーリィは王都へ行っているらしい。なんでも、こないだ話した件で、陛下と、ドノバン閣下と打ち合わせをするためらしい。
あの二人は……まあ、優しすぎるからな。アーリィに結構厳しい現実を突きつけられるハズだ。
「お疲れのご様子。温泉はいかがでしょう」
「ああ。入る」
当然だ。というか、埃まみれでどうしょうもない。
「俺の着てきた装備、いつも【洗浄】してただけなんだけど、手入れ、できる?」
「はい。大丈夫です。革のコートの手入れは慣れておりますし」
「その他の装備に関しても、【洗浄】の様に一瞬ではございませんが、お手入れ可能かと」
「なら頼む」
まずは「帳の外套」を脱いで、渡す。【収納】に入れたり出したりすることで、埃は落ちないかな……と思ったんだけど、ザラザラ感は残って、綺麗にならなかった。うーん。あるものはそのまま付いたまま、保存されるのかな。
(温泉はいいな)
(いいぞ。ショゴスにもお湯の体感を味あわせてやりたいものだが)
(とりあえず、ダンジョンシステムのエネルギー関係をみてくる)
(ああ、頼んだ)
そのまま、脱衣所に行って、服を脱ぐ。「黒のマスク+2」「強化革の服+2」「強化革のズボン+2」を渡した。魔力付与されている一種魔道具なんだろうけど……服としての手入れは他のモノと変わらないのかな?
「あ。そうか。靴……ブーツも頼む」
一端【収納】に納めた「疾走の靴」を取り出して、これも渡す。
「畏まりました」
この工房は基本土足OKの洋風スタイルだ。靴で入ってきて、室内履きに履き替える。俺は【収納】があるから一瞬でその辺を切り替えられる。便利だ。
松戸も森下も、いつもの様に「お背中流しましょうか」とは言わない。俺の気分というか、気持ちというか……を読んだのだろう。空気の読める使用人は非常にありがたい。
一人、広々とした洗い場で身体を入念に洗う。埃が落ちていく。
温泉に浸かる。
何かが……染みこんでくる気がする。
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