519:クロトア

(議事堂の宮殿側が崩れたな)


 ビリビリと……また、何かが震動した。振動系の魔術……ってあるのか。あるよな。ん? 魔力は消費しそうだが「大地操作」で……地面をいじれば……って今はダメだ。後だ。


(スゴイ。かなりの魔力持ち……多分優秀な戦士だな。数十名がこの帝城の奥、宮殿? に仕掛けたようだ。ここまで私も再認識しなければ気付けないくらいまで魔力隠蔽しての行動。まあ、それ以上に食い込んでるサノブの方がスゴイが)


(褒めてくれてありがとう。ショゴスこそ凄いと思うけどねって、まあ、褒め合うのはいつでもできる。震源……いや正確な攻撃点は? どこだ?)


(宮殿の奥を中心に、宮殿全体だ。というか、あのエリアは既に全てが瓦礫の下……レベルの爆発だ。あそこに殿下だとか、偉いヤツがいたんだとしたら、全滅じゃ無いだろうか?)


(そこまでの? というか、なのに、なんでここは平気なんだ?)


(サノブの【結界】「正式」……の様な何かで宮殿を遮断した?)


 ああ、そうか、威力を高めるために、術の発動時に空間を圧縮したのか。


 「乱風風刃」を「正式」の中で暴れさせるのはまあ、魔族軍でも超有効だった。跳弾となった風の刃が、無駄な無く魔族を斬り刻んでくれたからね。


 で、それをさらに威力を上げて……まあ、米軍相手に建物を破壊していたときに使っていたのが「微塵改」だ。こっちは先ほどの……術発動の瞬間に、発動させる【結界】の空間を圧縮する。すると空気の密度が上がり、「正式」の中で暴れている風刃が強化される。


 当然、圧縮率が高ければ高いほど威力は上がる。


(こちらと違って……強化コンクリートとか、鉄骨とか、まあ、金属まで粉々にするのは無茶だしな。それくらいの威力は必要か)


(魔力消費高めだから「微塵改」はバンバン使うわけにはいかないんだけどね)


(ああ。多分、今の術は、何人かで合力した感じだと思う)


(魔術の同時発動は魔族の得意技みたいだしな。その手の得意な術を組み合わせての合体、合力攻撃は当然なんだろうな)


 しかし……未だに震動は続いている。アースクエイクの術っぽいこの術、市街戦なんかではもう、おかしい程効果的というか。


 攻撃を受けた側のアムネア魔導帝国側は、ここが帝都、本拠地であるにも関わらず、未だに反撃、迎撃らしい行動を取れていない気がする。近衛軍だっけかな? 結構な数残ってたんじゃなかったっけ?


(宮殿と共に……正面から右……東奥にあった練兵場、多分、騎士団の本部も吹き飛んだ様だ)


(え? つまり、この帝都の防衛戦力って……都市側に配備されている守備兵とかそういう感じの兵のみって感じか)


(実際、守備隊らしき者達が、帝城周辺に集まりつつある。一番被害が多い場所に目星を付けた者がいるな。これは。だが……)


 その時。上空からそこそこの魔力持ちが宮殿に向かって降り立った。それに数名が続く。


(上空からの空襲……ではなかったので、跳んで来た感じだな。サノブの様に飛んで、ではない。ジャンプに近いというか、そういう技ですね)


(大跳躍とかそんな感じか)


(そうだな。帝都の市街から跳んでここに落ちてきた)


(どうする?)


 まあ、多分……判りやすいところで考えれば、アムネア魔導帝国が以前から脅かされていた敵国が攻めて来たって感じじゃ無いだろうか? 丁度この時期なのは……ハーシャリス閥軍に続いて、深淵の森を踏破しようとした近衛軍が全滅した=アムネア魔導帝国の戦力低下と判断しての作戦だろう。


 その名は……えっと。


(クロトア真正帝国)


(それな)


<<<「天上神の名の下に、謀叛を起こした属国の偽皇帝を成敗した。これは神罰である! アムネアの愚物共は例外なく従属せよ」>>>


 お。なんだこれ。新しいタイプの拡声の魔術だな……。風の魔術を変化させることで、大声というか、声を響かせることが出来る。だが、これは……範囲内にいる者に声を届かせる感じか? なんとなく、脳内に響く感じなのは、聞き間違いとか、命令の勘違いとか少なくなりそうでイイ感じだ。


(こちらの範囲内で声を響かせる術は……さっきの攻撃の術の応用に近いな。事前に準備していたのか、帝都全域に伝わるように【結界】の様な術を、かなり前から用意していたようだ。今、瞬時にそれが展開された理由だな)


 ああ、そうか。俺の【結界】じゃないんだから、同じ様な事を魔術で発動しようとしたら、当然、詠唱も必要だし、それを構築させる時間も無いと完成できないよな。


<<<「我々は真正クロトア帝国、神帝王直参部隊・エルトハーデンである! 我が名を恐れぬのなら、魔術を振りかざし、挑んで来るが良い!」>>>


 うんうん、この新型の拡声魔術……アレだ、魔力による威圧みたいなモノも伝えられるらしい。

 議事堂周辺に居る魔力多めなヤツラ……多分貴族だろう。が、瓦礫から抜け出して来たと思ったら、心砕かれる様に膝を突いた。


「エルトハーデン……」


「クロトアの牙がここに……」


 おうおう。クロトアの牙……か。いいね。


グバン! 


 お。アムネア側の……攻撃かな? 宮殿に向かってそれなりに大規模な魔術が発動された。


ダジュダジュダシュ!!


 仕掛けた数倍の規模の音と……さらに噴煙が巻き起こる。やっと視界が戻ってきた所だったのに……一部がまた、埃で充満してもうもうとしてしまう。


(当然、反撃を警戒していたんだろうな……丁寧にカウンターを喰らった様だ)


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