516:魔力至上主義
奴隷の件から目をそらし、行商人の集まる酒場を中心に情報収集をした結果。良く判ったのは。
薄々判っていたが。
こちらの……魔族の世界は「魔力」が全てということだ。
正直、人族の方もかなり歪んでいる……と感じたものだが、個々の持つ魔力という力が大きい分、あちらよりも酷いかもしれない。
基本的に、魔力の大きい者が権力を持つ。その裏付けとなる様だ。つまり、この国、帝国のトップである皇帝は……この国で最大の魔力を持つ者……ということになる。別に帝国だけでなく、周辺諸国みんなそんな感じらしい。
魔力至上主義っていうのは共通している。
東の方……アレだ、大障壁に穴を開けた魔導合衆国等の国では協議制っぽいシステムがあるようなことも聞こえてきたが。まあ、それでも魔力が重要なのは変わらないだろう。
なので、その魔力量ガチャを左右するのは血筋ということになり、血統主義に繋がっていく。
まあ、その結果、貴族や王族なんていう魔力の大きい一族の力が非常に大きい。異様に大きい。
調べた通り、国を、流通を支えているのは行商人、そしてその行商人を束ねる大商人(魔族の社会で大商人と呼ばれる条件は、大規模に店を経営するよりも、多くの行商人を雇用している事になる様だ)なんて、こちらの世界では権威なんて認められない。
そもそも、魔力に優れた者はまず、軍人となる。戦えることが一番スゴく、価値があり、尊いので、社会的な立場も高い。軍人>それ以外の職業となっている。
まあ、確かに、人族側でもその傾向は強い。そもそも、魔物と戦って勝てなければ、生き延びることが出来ない世界なのだから、仕方ないんだけれど。
君主制で、商人が金で裏から権力を握るなんて描写があるが、これもあり得ない。
実際、この帝国では頻繁に、領毎の「負債消滅の強権」が発動されている。日本人的に言うと徳政令だ。でも徳政令はそんな自由に発令出来るものでは無かった。
それがこちら側では……それこそ、全国各領でバンバン発令されているという。
支配者側、貴族の借金を帳消しにするという、普通に考えて、経済社会的にあり得ない強権なのだが、それが頻繁に発生しているなんて……成立しないだろ、それっていう。
人族側でも領主の治世の中でも最悪の所業と言われる程度には発生する所業だったらしいが、魔族側ではそれを前提とした社会システムになっているくらいに頻繁に発生しているという。
(時は世紀末……強者は全て偉いのだ……の延長線上の社会ってことか。判りやすいな)
(そうだな。地球社会だと、紆余曲折、複雑な経緯を経て原始的な暴力による支配から、民主主義経済に辿り着くワケだが、こちらは魔術という判りやすい暴力が存在したことで、その呪縛から逃れることが出来なかったということかな)
(魔力……強力な力を持つ者の権力がとにかく強いってことか)
(ああ。やはり、リドリスは異質だったんだな……とつくづく思うな……。あの辺境伯一族は、何かあったんじゃないか? ってくらい領主として権力者としてその使命を重んじている)
(……あったんじゃないか?)
(……どういう?)
(サノブの言うことが本当であれば、女神が本当にいるのだ。私もシロやダンジョンシステムを目の当たりしているから、それが嘘ではないことが良く判る。つまり、女神……という概念で無く、俗物としての彼女は存在する)
(ああ)
(ということは、だ。自分の「大事な」ダンジョン……最新式のダンジョンシステムを採用した、ダンジョンの設置場所のすぐ近くの領地に対して……何か干渉をしない……なんていう選択肢があろうか?)
おうおうおうおう……そう言われてみれば……その通りか。そう、だよな。あの扉のせいで転移が当たり前で忘れがちだが……俺のダンジョンは深淵の森の西の外れに存在するのだ。
(そうか。そうだな……リドリスの一族は元々あの地方の豪族だったのが、ローレシア王国に臣従、仕える形になったと聞いたな。ちらっと)
(では何かしら操作を受けたと思うのが早いだろう)
(操作はちょっと言葉が悪いな……そうだな……「何度」か、それも数代に渡って夢の中で神託を受けたりしたら……そういうことになるよな)
もの凄く効果的だ。
(で。リドリスは一度置いておいて。この帝国は……既に詰んでないか?)
(詰んでいるな……何もしないでいてもあと百年もしないうちに緩やかに崩壊して行ったんだろうが……多分、今回の東征、ローレシア王国への侵攻戦が引き金になって、国をボロボロに疲弊させている)
国が困ってきた……ので、さらに、過去の力のあった時代の法令や命令を実行し始めて来ている。さっきの、借金帳消し令もそのうちの一つだろう。
(馬鹿……なんだろうな。魔族は。自分たちが優れているとか、その根拠の何も無い自己肯定は、社会を成立させるには非常に脆いと思うんだが)
さすがショゴスさん。深い所突いてきますね……。
(なので、対外的に目を向けたと。確かに、それしかないか。奪うことでしか、その経済的な損失を埋められないと)
(奴隷確保が至上命題だった様だしな)
奴隷の確保は確かに重要な経済施策のひとつなんだろうけど……本来であれば、領土拡大の上で、行う行為だと思うし、そっちの方が楽だもん。安心して行える。
(言って良いか?)
(ああ)
(異世界っていうのは、まともな国が無い)
うん。そうだね。いやでも、地球の現代社会であっても、そうそうまともだと言える国なんて無かったんだから……暴力志向のこちら側で、俺らのまともを求めても無理があるのよ。
(そもそも、ローレシア王国もダメみたいだし……ハーレイ帝国くらいっぽいしな。比較的まともな頭の所有者が、君主なのは)
(「偽笑顔」のとこだって、多分、イロイロあるぞ)
(だが、ここよりは、マシだ)
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