513:帝都入場

 帝都……アムネア魔導帝国の帝都、アムネリアスは非常に衛生的な都市の様だ。


(臭いが無いな)


(ああ、城壁の外の貧民街はそれなりの饐えた臭いがしていたから、中もそれなり……と思っていたんだが)


 貧民街には上水下水システムは見当たらなかった。


(そういえば井戸も……見当たらなかったな)


(魔力の大きさから言って、魔族はほぼ全員が魔術を使えると思った方がいいだろう。なので、水の魔術で飲用水を産み出しているのではないだろうか?)


(まあ、確かに。有り得るな)


【鑑定】が使えればな。イロイロと判るんだが。


(属性の適性だったか? アレが魔族は多いというか、複数所持しているのでは?)


 属性適性は……確かシロによれば、俺は全属性適性持ちということだった。えっと、地水火風が5、癒術の聖属性も5、付与術の闇属性も5あるんじゃないかと。


(そうだな……魔族というくらいだから……魔術に対する属性を複数所有していてもおかしく無いな)


 とりあえず、うちでは、属性に関しては……実際に魔術を使おうとしてみてもらって、それで判定している。もの凄く単純だ。


 で、そもそもの魔力とか魔術への適性は、天職が魔術士かどうか俺が【鑑定】して判断してたわけだから……【鑑定】が使えない時点で、ここでは魔族がどういう魔術運用を行っているのか視ることは出来ない。


(さっきの……帝都に入る際に触った、裁きの水晶代わりの魔道具……あれは魔力の多寡を判断していただけかな?)


(少なくとも【鑑定】の魔道具ではないな。そして種族を視る魔道具でも無かったのだろうな。帝国宰相の創り出した「魔力反応器」と同じ様な魔道具だと想定する)


 まあ、感覚的に俺もそうじゃないかな? と思っている。で、魔族社会では……人族には魔力が無いという常識がある様なので、魔力はある。と言うことを前提に、その多寡が重要なのかもしれない。

 ちなみにその魔道具を使う際に、ショゴスさんの凄腕で魔力総量を適度にコントロールしてもらった。


(正直、魔力総量はサノブより多い者は感じたことがない。魔族と名乗るわりにはそれほどでもないと思う)


 いやいや、きっと微妙な差でも大事なんだよ思うけど。


(俺の魔力が176だっけ?)


(ああ。カンパルラで自己【鑑定】した結果だな)


(それと比較して?)


(魔族は……大体だが20~50といった所だ。ちなみにこれまでサノブ以外で最大の魔力総量を持つ者は、この国のハーシャリス閥軍の指揮官達……か。アレらは大体60くらい、天幕で横になってた指揮官は70近かったのではと思う)


(え? そうなの? なんだっけ……「寝台君」?)


(ああ、そうだ。死霊術? を使用して、倒れた兵を操っていたアイツだ。あと、王都で戦った「指揮官君」の魔力も高かった)


 あれ、でもそう考えると……。


(西の……ハーレイ帝国の砦の西で叩き潰した……えっと、シファーラ魔導合衆国のリエタ連邦軍だっけか? 竜騎士も連れて来てたヤツ。アレの中には?)


(正直、抜きん出ていた者は居なかったな。竜騎士で……40くらいか。どちらかといえば、魔導帝国の軍の方が抜き出た者は多かったと感じる。ただ、平均値はリエタ連邦軍の方が高かったな。ほぼ全員が25程度所有していた)


 正直、人族の帝国、ハーレイ帝国と、魔族の……ここのアムネア魔導帝国。帝国被りで判りにくい。合衆国とか珍しくていいのに。


(人族の方はとにかく王国が多いぞ)


 まあ、そうか。


(アレだよな、確か、このアムネア魔導帝国が脅かされているのも帝国だよな? 確か)


(クロトネア真正帝国……と聞いたな)


 ほら、帝国。


(魔族の国は帝国が多い説、どうよ?)


(無駄に気位は高そうだしな。王国……国王よりも、帝王の方が言葉的に選ばれるのかもしれない)


(つまり、嫌なヤツが多いと)


 多分、そうだろう。実際……帝都内に入場してから……正直、ムカムカと腹の立つ状況を目の当たりにし続けている。


(「おら!」「このグズが!」とか……そういう掛け声すら無しに……いきなり、鞭や棒で……叩かれている様だな)


 貧民街では一切無かったのだが、帝都内では、隷属の首輪を付けた奴隷の姿が非常に良く目に付く。主人であろう者に傅き、うなだれた姿勢で物を持ったりして、その後を付いていく。何か世話をしている……それこそ、靴が汚れたのか、それを自分の腿に載せて、磨いている者もいる。


 奉仕しているのは全て……ほぼ人族、獣人族? だ。中にはエルフ族っぽい者も見かけた。

 

 奴隷を従えているのは尽く、額に角跡の残る種族。まあ、魔族がだ。同族である魔族の奴隷は……ちょっと探してみたが見当たらなかった。


(別に、特別な事……何かを口にしたりする様なレベルではないんだろう。奴隷に鞭を入れるという行為は。それこそ……競走馬を速く走らせたい時に入れる鞭と同じ様なノリかもしれない)


(酷いな……)


(正直、ここを更地にしてしまいたくなったが……それをすると、奴隷も消滅しちゃうからな……止めておく)


ガチャン……


 何か物を運んでいたらしい奴隷が転んだ。当然手に持っていた荷物、それを落とした。あの音からすると、割れ物だったのかもしれない。


ザシュ!


(「風刃?」)


 転んで四つん這いになった奴隷の……首輪の上……頭が地に落ちた。流れ出る血液。


 あまりに突然の魔術行使、距離がちょっと離れていたのも合わせて、ほとんど反応が出来なかった。

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